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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
GATE~すべてに意味があるのなら~

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GATE-02



 北半球に冬が訪れ、心なしかキリムが営む宿周辺の気温も下がった。夜中は気温計がマイナスを示すこともしばしばだ。元々夜間の冷え込みは激しく、日中の気温が40℃を超える日でも、夜間に10℃を下回る事がある。


 キリム達はあまり寒暖の差を感じ取る事が出来ない。おおよそは気温や訪れる人々の装い、カレンダーで服装を判断する。クラム達も最近はキリム達に刺激され、暦で服装を変える事が多くなった。


「うわー、多分寒い。外の気温は2℃だって」


「そうか。宿泊客が寒いと言えば薪を追加するが」


 ただし、夜間のクラムは別だ。野宿の時などは別としても、大半の人型クラムには「就寝時には寝間着に着替える」文化が定着している。ステアは猫の刺繍入りパジャマにサンダルという姿で、就寝前の警戒から戻って来た。


「バベルくん、まだ戻ってこないね」


「どのクラムが共に呼ばれたのかは知らんが、助けを呼びに来ないのであれば大丈夫だろう」


 バベルは今でも必ず別のクラムとセットで召喚されている。最近は頻度も高くなった。他のクラムだけでは不安な場面が増えた、という事だろう。


 キリムの宿周辺が夜であっても、大地の裏側は昼間だ。召喚士が戦っている限り、いつ呼び出されるかは分からない。もっともクラムは呼び出される事を心待ちにしているため、いつだって大歓迎なのだが。


「まあ、そうなんだけど」


 おまけに、キリムもステアも応援を頼まれる機会が増えた。魔物が特に強いエンシャント島だけでなく、他の地域でも強い個体、魔物大群、それらが頻繁に発見されている。


「いつか話したけど、バベルくんがこのタイミングで発生したの、偶然じゃない気がする」


「何かから皆を守らねばならんというやつか。考え過ぎと言いたいところだが、俺とキリムの例もある」


 今日の客は3人だけで、その3人も明日の早朝には旅立ってしまう。嫌な予感はしながらも、キリムは本を読み始めた。ステアは就寝するようだ。


 3時間程が経ち、ようやくバベルが戻って来た。幾分疲れきった様子に、キリムは心配になって声を掛けた。


 宿の時計では既に深夜2時を回っている。クラムは天候や時間に左右されない存在だと言っても、労いがあるのとないのでは大違いだ。


「お帰り、随分と長くかかったね」


「うん。戦闘自体はそうでもなかったんだ。でも、魔物が次から次に湧いて、なかなか終われなくて」


「この前もそんな事を言ってたよね。同じところ?」


「今日は知らない所だったよ。ゼムニャー島だって言ってた」


「名前だけじゃ分かんないな……」


 キリムが世界地図を広げ、ゼムニャー島の位置を確かめる。1、2分掛かってようやく見つけたのは、宿があるダイナ大陸の北、ヤザン大陸南東の小さな島だった。


「ここ、どんな所なんだろう。色んな所を旅したけど、ヤザン大陸はローネスティ市の周辺しか知らないんだ」


 キリムはかつて共に戦った剣盾士のブグスを思い出しながら、ローネスティの位置を教える。


 ダイナ大陸は小さいが、ヤザン大陸はラージ大陸よりも大きい。ダイナ大陸は東西約2500キルテ、北西のベージバルデから東のムディンスクまで1500キルテ、南北に1000キルテ程しかない。


 一方、ヤザン大陸は東西に1万メルテ、南北にも1万メルテある。ローネスティは西岸で、ゼムニャー島は南東。幾らキリムが長生きで疲れ知らずとはいえ、大陸を隅から隅まで巡ってはいなかった。


「ずーっと昔から観光の島なんだって。景色が良くって、海沿いにホテルがあったんだ。魔物がいない訳じゃないけど、大きな村もあるよ」


「旅客協会の出張所があるのかな」


「最近できたって、言ってたよ」


「最近……」


 キリムは首を傾げていた。旅客協会は、需要のない場所には支部を置かない。人手不足もあり、新たに旅客協会が置かれるのは余程の事だ。


 にも関わらず、ヤザン大陸ではこの5年で出張所が30カ所も増えた。宿の客からは、ミスティに並ぶド田舎にも建てられたと聞いたことがある。


 この数百年、新たに町や村が形成されたという話は殆どない。今まで安全だった場所が、危険になったという事になる。


「魔物の数が、増えてきた?」


「僕達の出番だね!」


「うーん、そんな簡単な話じゃないんだ。魔物が増えるという事は、それだけ何か負の感情や力が世界に溜まっているってことになるんだよ」


「それは、人のもの?」


「人だけじゃないよ、動物や木々や水、色んなものが影響してる」


 キリムはバベルに魔物の成り立ちを教えながら、ガーゴイル討伐をした日を思い返していた。ガーゴイルはデルが造り出した訳ではない。伝説の魔物と言われていたものが、本当にいたというだけだ。


 デルのせいでエンシャント島の町や村は壊滅し、その際に多くの負の力が溜まってしまった。ガーゴイルはそこにおびき寄せられたのだろう。何か大きな変化があった時、魔物はその数を増やしたり、強さを増したりする。


 バベルと自身に珈琲を淹れながら、キリムは最近のヤザン大陸の変化を考えていた。


「ステアは?」


「先に寝てるよ。寝間着に着替えたって事は、今日は寝る気分なんだと思う。まあ、夜中はする事がないからね、目は閉じてると思うけど、用があるならすぐに起きるはず」


「そっか……」


「どうかした?」


「僕だけで動こうとしても、まだ分からない事がいっぱいなんだ。キリムは宿があるし、ステアにヤザン大陸を少し案内してもらえたらって」


「そういうことか。バベルくんの頼みなら断らないよ。明日頼んでみたら?」


「うん」


 バベルは安堵を見せた後、盾を置き、鎧を脱いで手入れを始めた。


 自分と他人を守るための装備を万全の状態に保つ。エンキの言葉にいたく感動したバベルは、キリムがもういいと止める程装備を丁寧に手入れする。


 夜明け前に交代で風呂に入り、キリムは朝食の準備に、バベルは外の見張りに向かう。パンが香ばしく鼻をくすぐり、オニオンスープがほんの少しだけ煮立った頃、ステアが起きてきた。


「おはよう」


「ああ。あの客の3人はまだ寝ているのか、早く出発すると言っていたが」


「冬の野宿を挟んでの移動だからね、疲れが溜まってるんだと思う。7時になったら起こすよ」


 ステアは寝間着を脱いで室内着に着替えた後、ロビーの端に立てかけられた盾に気が付いた。バベルが表面に塗ったワックスを乾かすために置いたものだ。


「バベルは帰って来たか」


「うん、夜中にね。魔物の数が多くて、なかなか終わらなかったんだってさ」


「一緒にいたクラムは」


「今日はバアルだって。バアルは能力が大ぶりだから、地震とか地割れとかで迷惑掛けてなければいいけど」


 自然を司るノームやサラマンダーと違い、人で言えば中年男性の姿をしたバアルは、天変地異そのものを司る。


 天変地異とは嵐や地割れなどであり、必然的に攻撃が大げさになってしまう。観光地の景観を損ねていなければいいけれどと、キリムは軽く笑い声を上げた。


「バアルとラムウは戦う場所を選び過ぎる。海にいるリヴァイアサンもそうだが、強い分制約もきつい」


「だね。そのバアルがいても時間が掛かったなんて」


「……そうだな、数が多いだけなら一掃出来たはずだ。となれば、魔物がとめどなく湧いて来たというのが正しいか」


「そうみたいだよ」


 ステアは朝日が差し込みはじめた窓を見つめ、腕を組む。キリムのように、ここ最近の魔物との戦闘傾向を怪しんでいるのだ。


「エンキとワーフはいつ戻る」


「何て言ってたかなあ、ジェランドから戻る時はあと2日って言ってたけど」


「時差を考えれば明後日か。明後日はエンキとワーフに店番を頼め。気になる事がある」

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