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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
Evangelist~誇り高き者達へ~

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Evangelist-04



 ステアはバベルを連れ、いったん町で花と焼き菓子を買ってからミスティを訪れた。


 ミスティは時差の関係上、まだ夜中だ。真っ暗な荒野に点在する集落は、200年以上経った今でもどこか頼りない。村の門には見張りが立ち、そこだけ松明が照らしている。


 結界の普及は進み、ミスティの結界も強くなったというが、今も夜警は変わらない。


「皆が寝静まった頃だ、音を立てるな。グラディウスの墓とキリムの両親の墓に手を合わせたらさっさと帰るぞ」


「ねえ、墓参りってどんな意味があるの? キリムもここに来た時にしていたね」


「死んだものを想う、それだけだ。もっとも、人はそれだけではないようだが」


「思い出すの? ここに来るまで忘れてる?」


 バベルには難しい話題だ。かといって、ステアもクラムなのだから尋ねられても分からない。人が墓前で何を感じているのか、クラムにはその感情が理解できないのだ。ステアは故人を偲ぶ風習を良いものだと感じ、真似しているだけにすぎない。


 消滅した仲間達の事を人と同じように大切にする。それは決してクラムとして悪い行いではない。両手を組んで目を閉じ、グラディウスの在りし日の勇姿を思い出す。グラディウスが消滅せずにいてくれたならと思う事もあった。


「人は、近しい者の死を悼む。ふとした時に死者を想い、懐かしむ。俺もグラディウスの事はよく思い出す。あの時、ノームとウンディーネは消滅後すぐに復活した。だがグラディウスは戻らん」


「あの時……キリムとステアがよく言ってる、デルという人とガーゴイルの事だね」


「ああ。人は復活しない。だから人は生きている事を大切にする。俺達は召喚士が生きる手助けをする。彼らの願いである俺達が、彼ら自身の助けになるよう動く」


「僕は、だから守りたいのかな。死んだ人を想うなんて、まだ分からない。もし僕が消えたら、人は悲しいのかな」


「グラディウスの墓を作ったのはこの村の者だ。人はクラムでも動物でも、親しみを感じた相手の死を悲しむ」


 クラム同士で人の死や追悼を議論しても、きっと真実には行き着かない。人同士の会話ですら価値観の違いが邪魔をする。ただ、ステアもバベルも人の気持ちを理解したいとは思っていた。


 召喚士は、自分の主は何に驚き、喜び、怒り、悲しむのか。墓前で何を思っているのか。


「守りたいのではなく、守らなければならない。貴様が守れなければ、召喚士が死ぬことになる。俺達は召喚士のためなら消滅など気にもしない。彼らを生かす、そのためのクラムだ」


「僕も、守れないのは嫌だ。ズシで女の子から抜き取った魔物と戦った時に分かったんだ。魔物を殺すためじゃなくて、僕達は人を生かすために戦ってるんだね」


「……そうだ。それが出来なければクラムに存在価値などない」


 ステアはいつもの精悍な顔つきを保っていたが、ふと自身の弱音を零した。


「だが、俺は時々迷いがある」


「ステアも迷う事があるんだね、キリム相談したら?」


「あいつは性根が優しすぎる。心配をかけるだけだ」


 ステアはグラディウスの墓の淵に腰かけ、暗闇の中をただ見つめている。その目に何が映っているのかは分からない。バベルも腰を下ろし、珍しく心情を吐露するステアの言葉を待つ。


 ステアはキリムを絶対的に信頼している。そんなステアにも打ち明けられない悩みがあった。面白可笑しく広めない、余計な心配をしない、ただ聞いてくれるだけ。そんな相手は案外少ない。


「……俺は、キリムのために存在している。双剣を操る武神として存在している事も分かっている」


「うん、ステアは強いからね」


「俺は……キリムが宿を開いた時、少しホッとした」


「どうして? 家なら洞窟に会ったよ?」


「そうではない」


 バベルは首を傾げる。ステアは思慮深く、キリムやエンキ達と長く過ごしたせいで人らしい考えも持ち始めていた。対してバベルはやっと人の少年レベルに到達したかどうかだ。話は当然噛み合わない。


 ステアはだからこそこうして打ち明ける気になった。


「これでキリムが傷付き倒れる心配はない。そう思ってしまった」


「一緒に戦いたくないの? 武神なのに?」


「俺は……キリムを死なせたくない。と同時に、俺自身が消滅したくないと思ってしまった」


「ステアが消滅したら、キリムも消えちゃうんだよね」


「フッ、まだ難しかったか。それはその通りなんだがな。俺はクラムとして主に仕えながらも、今の生活を手放したくないんだ」


 ステアは戦う事以外を知らずに過ごし、キリムと出会った。好奇心旺盛なクラム同士でああでもない、こうでもないと色々試す事はあったが、ステアの役割は戦う事だった。


 そんなステアがふと、戦わなければずっと共にいられると考えてしまった。


「今更ながら、カーズを呪いだと表現したメルリトの言葉を思い出している」


「主の人が、ずっと目覚めないクラムのこと? 楽器を弾いて歌うのが好きな」


「そうだ」


 近くで虫がさえずる。その音は風のように周囲に広がっていき、大勢の虫達が似た音色を運んでいく。それが途切れないうちに、ステアは言葉を続ける。


「俺は今の暮らしが心地良いんだ。戦いに身を置くよりもずっと」


「戦う事、やめちゃうの?」


「いや。だが捨て身で戦えた以前に比べ、きっと俺は弱くなった。人は大切なものがあれば強くなれるという。確かに守りたければ強くなるしかない。だが、自分を犠牲に出来ない状況ならどうだろうか」


「ステアはキリムを守りたいんでしょ? 弱かったら守れないよ」


 バベルはこれからもっと強くなりたいと願っているところだ。それは守りたい全てがあるからであって、弱さに繋がるとは考えられなかった。


「俺はいつかキリムを抱え、共に戦場から逃げるかもしれん。カーズになり、単純に強くなったのは力だけだ。心は……キリムに守られ続け、弱くなったのかもしれんな」


「……よく、分からないよ。でももしステアが戦って、キリムも戦って、どうしても危ない時は僕が守るよ」


「貴様の力で太刀打ちできる相手に、俺が敵わんはずなかろう」


「でもそれなら安心できるよね。僕が守るよ。僕はステアもキリムも大切だから」


 バベルは自身が消滅する事など少しも考えていない。守れなかった経験もない。バベルの能天気な答えはステアによく響いたようだ。


「……そうだな。俺だけでキリムを守らなくても良いのは助かる。俺はな、今までずっとキリムが俺を庇うのが怖かった。助けられない可能性が恐ろしかった。貴様がいれば確かに心強い」


「うん」


 ステアが立ち上がり、また歩き出す。少し離れたキリムの両親の墓は、召喚士キリムの両親の墓として今でも大切にされている。手入れの行き届いた墓に花と焼き菓子を備え、ステアはまた腕を組んで目を閉じる。


「……キリムの親は、俺にキリムを託してくれた。あの優柔不断で引っ込み思案だった若造を旅立たせた偉大な人物だ」


「僕が守りたくても、もう守れない人なんだね」


「……そうだな」


 ステアは目を開き、バベルにそろそろ帰ろうと告げる。バベルのおかげでステアの心は幾分軽くなったようだ。


「人だけでなく、クラムもまた貴様のようなクラムを求めていたのかもしれんな」


「僕?」


「ああ。グラディウスが出来なかった事を、貴様は成し遂げるかもしれん」


「グラディウスは、何がしたかったの? いっぱい武器を扱う強いクラムだったよね」


「あいつはこの村を守れなかった。目の前で死にゆく者達の盾になる事も出来ず、斬りかかっていく事しか……できなかった。あいつは今のお前のように、ただ守りたかったんだ」


 虫の音が再び広がり、風に合わせて揺れる。その揺れが収まらないうちにステアとバベルの姿は見えなくなった。

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