表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
Evangelist~誇り高き者達へ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/274

Evangelist-01


 Evangelist~誇り高き者達へ~



 chit-chat【Meanwhile】大草原の中くらいの猫型クラム~evangelist-01



 ニキータは今日もどこかで露店を開いていた。


 彼は商いの神でありながら1人……もしくは1匹の行商人でもあり、一か所に3日と留まらない。取り扱うものは持ち運びできてあまり重くない商品だ。


 食材、調理済みの食べ物や飲み物も売るが、生きた動物は取り扱わない。


 良さそうな場所を見つけたなら、黄色い大きなシートを敷き、小さな折り畳み式のローテーブルを置き、猫の姿に似合わず足を投げ出して座る。お気に入りの赤い帽子、お気に入りの枯れ葉色のコート、お気に入りの黒い長靴。いつもと変わらない格好でお客を待つ。


 平原には背の低い草が広がり、風が葉先を優しく撫でて通り過ぎていく。青い空にポツポツと浮かぶ高い雲は、朝から動くことを諦めたように佇んでいる。


 大草原のど真ん中。今日の彼はそこを商いの場所に決めたようだ。


「今日もいっぱい売るにゃ」


 近くには粗末な小屋があるだけだ。旅人が雨風を凌ぐため、何十年も前に建てられたという。


 ニキータはいっぱい売りたいといいつつ、いつもわざわざ人の来ない場所を選ぶ。1時間待とうが、3時間待とうが、彼にとってそれは何ら問題がない。「こんな所で買えるなんて!」と旅人が喜ぶ顔、思ったより安いと安堵する顔、それこそがニキータにとってのご褒美だ。


 キリムの宿も「人の来ない場所」の定義に入る。宿に置かれた物販コーナーを確認するのが、最近のニキータの一番熱い楽しみだ。


 100年、200年前よりも、物価は随分と上がっている。ニキータはそれも加味しつつ、この値段なら買いたいと思わせるギリギリの値付けを考えながら客を待つ。


「この手前の町の体力回復薬ヒールポーションは90マーニ。ここで90マーニに……いや、80マーニ? でもそれだと町の価格を割高に思ってしまって、いざという時に困る旅人が出るかもにゃ」


 体力回復薬、魔力回復薬マジックポーション霊力回復薬スピリットポーション、それらのすぐ横には「お買い上げのお客様の空いた小瓶引き取ります」の文字がある。


 旅人は不要品をポイ捨てしてはならない。旅客協会が口をすっぱくして言い続けている事だ。ニキータはそんな旅人のため、このようなサービスも考え出した。


「そうにゃ、小刀にゃ! こんな草原のど真ん中でワーフが作った小刀が手に入るなら……にゃひひっ! 旅人も儲けもんなのだ。吾輩も儲けもんなのだ! 吾輩、お金が大好きである!」


 ワーフの小刀は、元々果物用に作られたもの。とはいえ、ワーフが「とりあえず果物用にしよう」と言っただけで、切れ味は名匠の短剣をも凌ぐ。魔物と戦う短剣としても使える逸品だ。


「ワーフからの仕入れ値が8万マーニ(1マーニ≒10円)にゃ。この前のオリハルコンの剣は幾らで売れたんだかにゃ」


 ニキータは勘定帳を取り出し、直近の記録を読み返す。どうやら2年前にオリハルコンの剣を11万2000マーニで売ったようだ。


「じゃあ、気前良く9万9000マーニにするのである!」


 場違いな値段だが、相当品の流通価格よりは安い。ワーフが作ったとなれば、もっと高くても飛ぶように売れるだろう。後は、通りすがるパーティーの手持ちがあるかどうかだ。


 ニキータはあまり町の中で店を出したがらない。


 決して税金を払うのが嫌な訳ではない。お客が集まり過ぎて何でも売れてしまい、単純に商売が面白くないのだ。


 そこでは悩んだ値付けなど全く意味がない。ニキータが売っているというだけで売れてしまう。


 最適なものを最適な人に、安過ぎず高過ぎない最適な価格で。


 時々最適とは言えないが、とんでもない逸品を幸運な通行人に。


 ニキータはそれこそが商売だと思っている。もしも町の中で売るのなら、3倍の金額を付けたかもしれない。


「むむ。魔物が来たのである。吾輩、とても困ったのである」


 クラムとしての力を漲らせたなら、そうそう魔物は寄り付かなくなる。だがニキータは困った顔をしたままのんびりとバックパックを漁り、毒々しい黒い小瓶の蓋を開けた。


「アスラから仕入れておいて良かったのである。吾輩、目利きには自信があるにゃ」


 それは「魔物除け」として作られたアスラ特製の薬だった。強い魔物の体液を集め、それを過熱し、濃縮して詰めたものだ。ある程度の魔物なら、強い魔物の気配に怯えて近づかなくなる。


 自分の仕入れた商材だけで身を守る。それもまたニキータのモットーだ。


「にゃひーっ、魔物くさいのである!」


 魔物を追い返し、ニキータは再び腰を下ろす。昼前の陽射しはいつしか午後の影を曳航しつつ、穏やかになっていく。


「日が暮れるまで、まだまだ時間はあるにゃ。あっ、体力回復薬の値付けがまだである! むー、85マーニ……いや、5%引きの表示を付けて、お買い得感を出すのも」


 ニキータは1時間かけて全ての商品に値札を付けた。消耗品は町よりもちょっと安く、靴下やパンツなどの衣料品は町よりちょっとだけ高い。値付けが終わった彼は、もうそれだけで満足しているようにも見える。


 そんな時、ニキータの猫耳が微かな話し声を捉えた。耳だけをピクリと動かし、決してワクワクした顔を向けない。自信満々で構えるのがニキータ流だ。


 と言っても、その表情はキラキラし、お客の登場に心底喜んで見える。そんなニキータの前を無視して通り過ぎるのは、やってみるとなかなか難しい。


「疲れたー、次の町まで遠いんだよ! 機械駆動4輪はー! 定期馬車はー!」


「舗装道路が作れないっつうんだから仕方ねえだろ、疲れたって言うな」


「途中の湿地や茂みを超えられないのよね。はぁ……出来立てのパンが食べたい!」


 西の方角から4人組の旅人が歩いてくる。雑草に浸食されそうな道の上、お世辞にも軽快とは言えない足取りだ。


 そうしてあと100メルテ程まで近づいただろうか。剣盾士の男がニキータの耳を視界に捉えた。


「おい、あれ……魔物か? それともトラ?」


「えー? こんなに疲れたのにまた魔物?」


「いや、待って。近くに何か……」


「ああ、休憩小屋だろ? ちょうどいいや、あそこで休もうぜ」


「違う違う、その手前! あれは……看板?」


 攻撃術士の女が双眼鏡を取り出し、謎の耳生物の近くにある立て看板を確認する。女は覗き込んだまま嬉しそうに口角を上げた。


「見て、クラムニキータの店よ!」


「うっそだろ!? こんな所で!?」


 4人は疲れなどどこへやら、嬉しそうに駆け出す。そしてニッコニコなニキータの目の前に並んだ。


「にゃ? お客様にゃ?」


「はい! うわー見てよこの品揃え! え、空き瓶も回収してくれるんですか」


「買ってくれたお客様にはサービスにゃ」


「あたし、このコッペパン! え、えっ、魚もあるの!? これ下さい!」


「靴下の替えが欲しいな、足のサイズ、ありますか?」


 4人パーティーはここぞとばかりに欲しいものを買い漁る。必要なものを必要なだけ、そしてちょっとだけ贅沢を。そんなお客にニキータも大満足だ。


「お、お、お……こ、これ本物か?」


「ワーフから仕入れたにゃ。ワーフの証明書がいるなら付けるのである」


「クラムワーフの短剣! この値段で買えるなら……なあ、みんな、頼む! これ買わせてくれ!」


「ちょっと! パーティーの全財産の半分よ? でも、そうね。この値段でクラムワーフの武器が買えるなら」


「出費は痛いが、ここで買わなきゃいつ買えるか分かんねえ。いいぜ、買ってやらあ!」


「恩に着る! ああ、これで戦いも楽になる……箔もつく!」


「まいどありにゃ!」


 4人は大満足でお金を払い、ニキータに不用品の回収もお願いする。やがて日が暮れると4人は小屋に荷物を置き、食事の支度を始めた。


「ニキータ様も食べますか? まあ、さっき買ったお魚を焼いただけですが」


「にゃ? 貰ってもいいのかにゃ?」


「ええ。残っても持ち歩けませんからね」


「にゃひひっ! 吾輩、儲けたのである!」


 ニキータはアスラ特製の魔物除けを小屋の入り口に塗る。彼も泊まるようだ。


 そうして星空の下、商売の神は次の町までの護衛を取り付け、満足そうに店じまいを始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ