DEFENDER-12
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「あー駄目にゃ。こんなものを売ってお金を稼ぐなんて商売人じゃないにゃ」
「あーあ、これどこの工房で作られた奴だよ、銘打ってねえよな」
「うん、偽物だね。そっちの盾は本当にミスリルかい? 不銹鋼に見えるけれど」
キリム達が協会に帰り着いた頃、エンキ達は付近の困っている店や工房の者達と共に、素材市で大暴れしていた。
青空の下に並べられた品々に対し、雑貨などはニキータが、武器防具類はエンキとワーフが、それぞれその真の価値を告げていく。
「このフライパン、すぐそこの工房のもんだよな」
「あ、そ、それはですね! あちらの工房からどうしても素材市で売って欲しいと」
「アイカの父親と同じ、か。素材市でしか売れなくなって……」
エンキ達は素材市の実態を知らず、時々利用してもいた。鍛冶以外に興味がなかったため、実態などどうでも良かった。
だがそれがいけなかった。エンキ達が買い物に訪れる事で、お墨付きを与えてしまったようなものだ。エンキはノウイの衰退に加担していたと分かり、心から反省していた。
「く、クラムニキータ……」
「ま、まずい」
「く、クラムワーフ、また来たのか! くそ、いなくなったと思ったのに」
ニキータとエンキ達が何をしに来たかに気付き、商人達が慌てて店じまいを始める。
だが、平然と店を続ける者もいた。やましいものを売ってないという意思表示かと思ったが、それだけではないようだ。
「うちはやましい事はしてないよ、ちゃんと役所にも届けてる。ほら」
1人の老婆が役所の許可証をエンキに見せる。そこには老婆の名前、使用可能な区域と期間、販売可能な商品などが明記されていた。
聞けば、一部の区域は届け出をし、使用料を払う事で自由に使えるという。だが多くの商人は無届けで露店を出していた。そうして手数料分を値引きに回し、客を集めていたのだ。
「今撤収を始めてる奴は、全員無届っつう事か」
「ああ、そうだよ。アタシらが目くじらを立てても無視さ。役所も動かないし、役人が裏で金貰ってるって噂だよ」
許可証を見せてくれたのは僅か7,8軒。取り締まらないのが馬鹿らしくなり、許可を取らなくなったと告白する者もいた。
エンキ達の行動を聞きつけてやって来たノウイの役人も、黙認していた事に対して平謝りだ。
「父が要望を出しに行った時、相手にしてくれませんでしたよね。どうしてエンキさん達の言う事だったら素直に聞くんですか?」
「そ、そういう訳では……」
「この町に住んでる人より、行商人の方がそんなに大事ですか?」
「そ、そういう訳ではなくてね、取り締まってはいたけど、そう頻繁には……」
アイカは役人の対応にも不満があるようだ。役所が動いてくれたのはほんの1,2回だという。多くの利用者も、素材市の大半の区画が違反者だったとは知らなかったくらいだ。
「じゃあ何で? 騒ぎになって無届けだらけって知られちゃったからですか? あーもしかして本当にウラでお金を貰ってるとかー!」
「あー、あー! お嬢ちゃん、そういう事じゃないんだって、これからはきちんと取り締まりますから!」
役人は口に人差し指を立て、アイカの大声を止めさせようとする。だが、今度は周囲の商売人が黙っていなかった。
「これからは? じゃあ今まではサボってたっつう事だな? 俺達が無届の連中がいると訴えても、怠けて取り締まらなかったんだな?」
「……にゃ? このお役人、商売人をナメてるにゃ?」
ニキータは意味ありげに赤い手袋を外し、鋭い猫爪を出し入れする。
「アタシなんて、役所で商売仲間を売るのかと言われたよ。ほら、あいつらからさっさと今日までの使用料を取ってきな! 警備隊はどうした!」
「は、はい!」
老婆に喝を入れられ、役人が数人がかりで無届の者達に声を掛けに行く。来週の素材市はすっかり数を減らし、まがい物やボッタクリがなくなっている事だろう。
「ハァ、すっきりした。クラムニキータ様、クラムワーフ様、お連れの皆様、有難うございました。アタシらは後で役所に宣言書を書かせて、必ず取り締まると約束を取り付けますわ」
「にゃひひ! 吾輩も堂々と商売するのである! 許可はどこで取ればいいにゃ?」
「あっしがご案内しますよ、クラムニキータ様」
「有難うである! む? お婆さん、そのお野菜……甘いにゃ?」
「え? ええ、うちの畑で採れた自慢のトマトです。こちらはきゅうり、なす……」
「にゃっ! 吾輩、それを南で売りたいのである! 仕入れたいにゃ! そちらの殿方、そのキラキラの小箱は……それも吾輩の店で売ってみたいにゃ!」
ニキータは目を輝かせ、自分が他所の町で売る姿を想像してうっとりする。
「ニキータはもうしばらくあの調子だな。どうすっか……素材市の悪徳商人は退治したし」
「協会に戻るかい? キリムくん達が帰っているかもしれないよ」
「そろそろ半日経ちますし、何らかの動きはあったかもしれませんね」
「父は……見つかるでしょうか」
アイカは目の前の大騒動が終わり、急に父親が恋しくなった。一時的に気がまぎれたとしても、父の事を忘れた訳ではない。
「まあ信じて待ってようぜ。ベテランの旅人が2人、クラムも2体一緒なんだ、見つけ出すさ」
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一方その頃、旅客協会内には人だかりが出来ていた。
キリム達が救い出したのは、アイカの父親達のパーティーだった。それは幸いな事であり、アイカからの依頼を無事に達成できたという事でもある。
5人は石の床の上であぐらをかいて縮こまり、叱責を受けながら項垂れていた。
「貴様らの無謀な行いのせいで、大勢が動く羽目になった」
「……はい」
「身の程を知れ。命を賭ける前に出来る事がなかったのか」
「……」
「娘が心配してクエリを発行した」
「……はい」
腕組みをして叱りつけているのはステアだ。通常、旅人資格を持つ者の行動は自己責任。人の立場からは咎めづらいと思ったのか、彼は周りの言いたい事を代わりに言ってくれている。
「皆が死を覚悟して向かう場所だ、旅人をみくびっているなら改めろ」
「……分かりました」
「ステア、もうきっと行かないよ。おおよその事情は聞いています。エンキ達が素材市に行ったそうなので、多分……」
キリムが間に入り、これ以上は本人の問題だとして協会に任せようとする。その時入り口の扉が開き、凸凹の3人……2人と1匹が入って来た。
「おやや? 帰って来ていたのかい」
「うわっ、それバーンスパイダーの糸か! すげえな。アイカの親父さんは?」
エンキがそう問い尋ねるよりも早く、アイカが人混みと白い糸の山を掻き分けて突進した。
「お父さん!」
「アイカ! ああ、すまなかった、心配を掛け……」
「心配してない! 怒ってるの!」
感動の再会かと思いきや、アイカは物凄い剣幕で父親を叱りつける。
「危ない事する前に相談してくれたら……」
「それは俺が言った」
「……旅人だって危ない場所なのに」
「それも俺が言った」
だがステアは当然のように頷き、アイカの怒りをへし折ってしまう。
「……ハァ、怒るのは後にする。キリムさん、クラムステア、クラムバベル、それにナターリアお姉さん。クラムワーフ様、エンキ様も有難うございました!」
キリム達はアイカに頭を下げられ、周囲からは拍手が贈られる。ナターリアは恥ずかしそうでも自慢気でもある笑顔で手を振って応えた。
「クラムバベル、あなたのおかげです。あなたは私の自信。私と私の存在意義を守って下さって、有難うございました」
「うん!」
ナターリアは細い腕を差し出し、バベルの顔に近付ける。
「いいの?」
「当然です。さあ、私の血で良ければ」
バベルはおそるおそる口を近づけ、ゆっくりとその皮膚に鋭い歯を突き立てていく。僅か数口、だがバベルにとって初めての「感謝の血」だ。
「やった、僕、成し遂げた! 必要とされて、守れたんだ!」
バベルはナターリアに抱き着き、またいつでも困ってくれと物騒なお願いをする。
事情が分からないクロス達を除く、その場の全員が「どっちがクラムなのやら」とひとしきり笑った後、その場はようやく解散となった。






