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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
DEFENDER~バベルと召喚士~

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DEFENDER-12




 * * * * * * * * *




「あー駄目にゃ。こんなものを売ってお金を稼ぐなんて商売人じゃないにゃ」


「あーあ、これどこの工房で作られた奴だよ、銘打ってねえよな」


「うん、偽物だね。そっちの盾は本当にミスリルかい? 不銹鋼ふしゅうこうに見えるけれど」


 キリム達が協会に帰り着いた頃、エンキ達は付近の困っている店や工房の者達と共に、素材市で大暴れしていた。


 青空の下に並べられた品々に対し、雑貨などはニキータが、武器防具類はエンキとワーフが、それぞれその真の価値を告げていく。


「このフライパン、すぐそこの工房のもんだよな」


「あ、そ、それはですね! あちらの工房からどうしても素材市で売って欲しいと」


「アイカの父親と同じ、か。素材市でしか売れなくなって……」


 エンキ達は素材市の実態を知らず、時々利用してもいた。鍛冶以外に興味がなかったため、実態などどうでも良かった。


 だがそれがいけなかった。エンキ達が買い物に訪れる事で、お墨付きを与えてしまったようなものだ。エンキはノウイの衰退に加担していたと分かり、心から反省していた。


「く、クラムニキータ……」


「ま、まずい」


「く、クラムワーフ、また来たのか! くそ、いなくなったと思ったのに」


 ニキータとエンキ達が何をしに来たかに気付き、商人達が慌てて店じまいを始める。


 だが、平然と店を続ける者もいた。やましいものを売ってないという意思表示かと思ったが、それだけではないようだ。


「うちはやましい事はしてないよ、ちゃんと役所にも届けてる。ほら」


 1人の老婆が役所の許可証をエンキに見せる。そこには老婆の名前、使用可能な区域と期間、販売可能な商品などが明記されていた。


 聞けば、一部の区域は届け出をし、使用料を払う事で自由に使えるという。だが多くの商人は無届けで露店を出していた。そうして手数料分を値引きに回し、客を集めていたのだ。


「今撤収を始めてる奴は、全員無届っつう事か」


「ああ、そうだよ。アタシらが目くじらを立てても無視さ。役所も動かないし、役人が裏で金貰ってるって噂だよ」


 許可証を見せてくれたのは僅か7,8軒。取り締まらないのが馬鹿らしくなり、許可を取らなくなったと告白する者もいた。


 エンキ達の行動を聞きつけてやって来たノウイの役人も、黙認していた事に対して平謝りだ。


「父が要望を出しに行った時、相手にしてくれませんでしたよね。どうしてエンキさん達の言う事だったら素直に聞くんですか?」


「そ、そういう訳では……」


「この町に住んでる人より、行商人の方がそんなに大事ですか?」


「そ、そういう訳ではなくてね、取り締まってはいたけど、そう頻繁には……」


 アイカは役人の対応にも不満があるようだ。役所が動いてくれたのはほんの1,2回だという。多くの利用者も、素材市の大半の区画が違反者だったとは知らなかったくらいだ。


「じゃあ何で? 騒ぎになって無届けだらけって知られちゃったからですか? あーもしかして本当にウラでお金を貰ってるとかー!」


「あー、あー! お嬢ちゃん、そういう事じゃないんだって、これからはきちんと取り締まりますから!」


 役人は口に人差し指を立て、アイカの大声を止めさせようとする。だが、今度は周囲の商売人が黙っていなかった。


「これからは? じゃあ今まではサボってたっつう事だな? 俺達が無届の連中がいると訴えても、怠けて取り締まらなかったんだな?」


「……にゃ? このお役人、商売人をナメてるにゃ?」


 ニキータは意味ありげに赤い手袋を外し、鋭い猫爪を出し入れする。


「アタシなんて、役所で商売仲間を売るのかと言われたよ。ほら、あいつらからさっさと今日までの使用料を取ってきな! 警備隊はどうした!」


「は、はい!」


 老婆に喝を入れられ、役人が数人がかりで無届の者達に声を掛けに行く。来週の素材市はすっかり数を減らし、まがい物やボッタクリがなくなっている事だろう。


「ハァ、すっきりした。クラムニキータ様、クラムワーフ様、お連れの皆様、有難うございました。アタシらは後で役所に宣言書を書かせて、必ず取り締まると約束を取り付けますわ」


「にゃひひ! 吾輩も堂々と商売するのである! 許可はどこで取ればいいにゃ?」


「あっしがご案内しますよ、クラムニキータ様」


「有難うである! む? お婆さん、そのお野菜……甘いにゃ?」


「え? ええ、うちの畑で採れた自慢のトマトです。こちらはきゅうり、なす……」


「にゃっ! 吾輩、それを南で売りたいのである! 仕入れたいにゃ! そちらの殿方、そのキラキラの小箱は……それも吾輩の店で売ってみたいにゃ!」


 ニキータは目を輝かせ、自分が他所の町で売る姿を想像してうっとりする。


「ニキータはもうしばらくあの調子だな。どうすっか……素材市の悪徳商人は退治したし」


「協会に戻るかい? キリムくん達が帰っているかもしれないよ」


「そろそろ半日経ちますし、何らかの動きはあったかもしれませんね」


「父は……見つかるでしょうか」


 アイカは目の前の大騒動が終わり、急に父親が恋しくなった。一時的に気がまぎれたとしても、父の事を忘れた訳ではない。


「まあ信じて待ってようぜ。ベテランの旅人が2人、クラムも2体一緒なんだ、見つけ出すさ」




 * * * * * * * * *




 一方その頃、旅客協会内には人だかりが出来ていた。

 

 キリム達が救い出したのは、アイカの父親達のパーティーだった。それは幸いな事であり、アイカからの依頼を無事に達成できたという事でもある。


 5人は石の床の上であぐらをかいて縮こまり、叱責を受けながら項垂れていた。


「貴様らの無謀な行いのせいで、大勢が動く羽目になった」


「……はい」


「身の程を知れ。命を賭ける前に出来る事がなかったのか」


「……」


「娘が心配してクエリを発行した」


「……はい」


 腕組みをして叱りつけているのはステアだ。通常、旅人資格を持つ者の行動は自己責任。人の立場からは咎めづらいと思ったのか、彼は周りの言いたい事を代わりに言ってくれている。


「皆が死を覚悟して向かう場所だ、旅人をみくびっているなら改めろ」


「……分かりました」


「ステア、もうきっと行かないよ。おおよその事情は聞いています。エンキ達が素材市に行ったそうなので、多分……」


 キリムが間に入り、これ以上は本人の問題だとして協会に任せようとする。その時入り口の扉が開き、凸凹の3人……2人と1匹が入って来た。


「おやや? 帰って来ていたのかい」


「うわっ、それバーンスパイダーの糸か! すげえな。アイカの親父さんは?」


 エンキがそう問い尋ねるよりも早く、アイカが人混みと白い糸の山を掻き分けて突進した。


「お父さん!」


「アイカ! ああ、すまなかった、心配を掛け……」


「心配してない! 怒ってるの!」


 感動の再会かと思いきや、アイカは物凄い剣幕で父親を叱りつける。


「危ない事する前に相談してくれたら……」


「それは俺が言った」


「……旅人だって危ない場所なのに」


「それも俺が言った」


 だがステアは当然のように頷き、アイカの怒りをへし折ってしまう。


「……ハァ、怒るのは後にする。キリムさん、クラムステア、クラムバベル、それにナターリアお姉さん。クラムワーフ様、エンキ様も有難うございました!」


 キリム達はアイカに頭を下げられ、周囲からは拍手が贈られる。ナターリアは恥ずかしそうでも自慢気でもある笑顔で手を振って応えた。


「クラムバベル、あなたのおかげです。あなたは私の自信。私と私の存在意義を守って下さって、有難うございました」


「うん!」


 ナターリアは細い腕を差し出し、バベルの顔に近付ける。


「いいの?」


「当然です。さあ、私の血で良ければ」


 バベルはおそるおそる口を近づけ、ゆっくりとその皮膚に鋭い歯を突き立てていく。僅か数口、だがバベルにとって初めての「感謝の血」だ。


「やった、僕、成し遂げた! 必要とされて、守れたんだ!」


 バベルはナターリアに抱き着き、またいつでも困ってくれと物騒なお願いをする。


 事情が分からないクロス達を除く、その場の全員が「どっちがクラムなのやら」とひとしきり笑った後、その場はようやく解散となった。

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