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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
DEFENDER~バベルと召喚士~

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DEFENDER-09


 今でも十数年に1度、新しい横穴が見つかっている。大抵は管理者が奥を確認し、崩落等の危険性を判断する。岩盤は強固であり、今までに魔物が大暴れしても大きく崩れた事はない。


 ただ、新しい通路が出来たとしても、大勢の旅人が興味を示すとは限らない。


「魔窟を抜けて山脈の北に出る、か。需要がないね」


「そうですね。山脈の北は森林限界を超えていますし、集落もありません。魔窟内を1日、2日歩き続けるリスクを負わずとも、船ならノウイから1日ちょっとで行けます」


「とりあえず、下の階層に行くしかないね。いなかったと報告するのは情けない」


 ステアも大抵の旅人パーティーも、地下7階層までは遭遇した魔物を簡単に処理できる。だがこの先は戦闘に厳しさを感じるパーティーもいるだろう。


 不慣れな者達がいて、ステアを追う魔物をなすりつけるような事になれば大変だ。ステアは単独での捜索を諦め、キリム達と共に潜る事になった。


「他のパーティーの目撃情報を得ないとね」


「目撃していれば先へ進むことを止めたと思うが」


「引き返そうとしても、引き返せなかったとか」


 4人は安全区域を抜け、先へと進んでいく。20分程進んだところで明かりが見え、別のパーティーが戦いの合間の休憩をしていた。


「こんにちは」


「こんにちは……ああ、この時間だと外は昼か。随分と若いな」


 出会ったのは男女5人組だった。全員20代後半ほどだろうか、装備も立派で、苦戦した様子もない。女性の剣盾士に、女性の双剣士。他は全員男性だ。役割分担としてはやや珍しい部類に入る。


「あの、歳は30代くらい、軽装備の不慣れなパーティーを見かけませんでしたか」


「軽装備? どんな?」


 キリムは事情を話し、そのパーティーの救出に来たのだと告げる。5人は首を横に振り、見かけていないと答えた。


「この階と、下の階にも3組くらいいるはずよ。でもそんな5人組は安全区域でも見かけていないわ」


「本当にここに来たのかい?」


「入り口では確かに2日前に入った記録が」


「等級3が2人、他は素人、か。命知らずというよりも愚か者だな」


 5人は現在の深層の状況を教えてくれた。月に2度、1週間ずつ魔窟に籠り、戦闘の腕を磨いているのだという。


「バーンスパイダーはこのところ見かけていない。そういう時期なのかもしれないが」


「俺達も探し人らしいパーティーがいたら帰還に手を貸すよ。えっと、あんたの名前は」


「え、あたし?」


 治癒術士の男が白いローブのフードを取り、短い茶髪についたクセを撫でつけながら尋ねる。ナターリアに尋ねたのは、この中で一番年上に見えたからだろう。


 もしくは不愛想なステアには声を掛け辛かったのか……。


「ナターリア・ベスパです。アイカ・エールさんが帰りを待っている、と」


「ああ、遭えば必ず伝えるよ」


「あ、あと、最近新しく見つかったっていう横穴の話は聞きましたか」


「聞いたよ、でも山脈の北に出ても意味がないからね」


「外に近い部分だと、魔窟の魔物が寄り付かないのよ。比較的安全といえば安全だけど、それじゃ特訓にならない」


 魔窟の探索自体が目的でない限り、おおよその旅人は目的外の場所へ向かわない。


 キリム達は会釈し、その場を通り過ぎて奥へ進んでいく。バベルはナターリアのローブの袖を引っ張り、小声で耳打ちした。


「ねえ、この近くに魔物が……いるよね」


「え? ええ、そう言われると右の後方に曲がる通路の先に何か」


 バベルは頷き、先ほどの5人の許へ引き返す。小声で魔物の位置を知らせると、また駆け足で戻って来た。


「魔物がいるよって、教えてきた」


「特訓に来ているといっても、不意打ちされるのはリスクしかないですからね」


 4人は急ぎ足で地下9階層へ向かう。途中で現れる魔物も、キリムとステアにとって脅威ではない。


「十字斬! 前方に逃げるよ!」


「フン」


 熊のような見た目の魔物が現れ、キリムが背中を、ステアが腹を切り裂く。ステアの双竜斬によって2本の深い傷を負った魔物は、腹から黒い臓器を撒き散らしながら息絶える。


 この魔物の咆哮を間近で聞いた者は気を失うというが、バベルの防御壁は囁き程度の音量しか通さない。


「うっそ……たった2撃で」


「この魔物なら、200年ちょっと前にも何十体と戦いました。経験です」


「咆哮は怒り狂った時に上げる事が多い。その前に倒すまで」


「2人だけで、いや、1人でもあたし達のパーティーより強い……」


 キリムもステアも溜めを行わず、タイミングを計る様子もない。双竜斬も十字斬りも派手な大技ではない。双剣士なら初心者でも習得しているいたって初歩的な技だ。


 裏を返せば、威力は高くない。にも関わらず2人はこの階層の魔物を瞬殺できる。

ナターリアは伝説のコンビの実力を目の当たりにし、驚きのあまり開いた口が塞がらない。


「急ぎましょう。さっきのパーティーが言った通りなら、8階層と9階層にもいないはずです」


「安全区域に戻って来てないし、さっきの人達もナターリアも見てないんだったね」


「15階層に設けられた小さな安全区域にまで到達したとは考えにくい」


 地下11~15階層は開放的な空間が続いており、方向感覚を失う程複雑ではないい。上の階に繋がる通路には、誰か旅人がいればランプが灯されている事も多い。


 9階層でも1組のパーティーに遭遇したが、やはり見かけていなかった。


「最短経路を歩いたなら、10階層まではそう遠くないよ」


「俺達は今戻る所なんだ。結構奥で戦っていたし、西の端でももう1組戦ってたよ。最短経路を歩いていたなら見ていないだけかも」


 10階層より下に向かうのは、15階層の安全区域を拠点にするベテランだけだ。11~14階はその階層自体に目的がない限り、最短経路以外を通らなくなる。


「慣れない奴は壁沿いに歩きたがる。現在地を見失っていたら、もしかしたらこの下で迷子になってる可能性はある……かもな」


「10階層で迷ったら命はないぞ……ただ、彼らが訪れたとしたらかなり疲弊しているはず。安全区域で僅かな休憩を取り、どんなに急いだとしても俺達の倍は掛かっているはずだ」


 キリム達はパーティーに礼を言って、地下10階層を目指す。


 最短経路で来たとはいえ、キリム達が魔窟に入って既に5時間が経過している。2日前の午前中に魔窟入りしたアイカの父親は、昨日の朝に最短経路で地上を目指し出発したナターリア達と遭遇していない。


「昨日の深夜安全区域にいた人は、アイカの父親達を見ていない。仮に10時間で地上から安全区域に到達したなら……」


「あたしが安全区域に入ってご飯を食べ始めたのが23時くらい。他に1パーティーいて、あとから2パーティー来たの」


「20時頃かそれ以前に着いたとして、ナターリアさんとすれ違うのに3、4時間……」


「他のパーティーは最短経路とは離れた場所で戦っていた。安全区域から3時間もあれば10階層に入れる」


「バーンスパイダーが多く生息しているのは地下10階層から。それを知っていたなら、戦いを避けつつ最短経路で最短時間で10階層を目指したはず」


「バーンスパイダーを求めるのなら10階層より下に用はない。魔物が強くなるだけだからな。そして、慣れない者は壁沿いに歩きたがる」


 キリムが光を放つ魔法「ライトボール」で4人を照らし、入り口で貰った地図を広げる。


「壁沿いに……南へ行くと11階層に向かうね。だけど」


「東に向かえば壁沿いに北へ……まさか」


「10階層でも目撃情報がなければ……いや、安全区域まで連れ帰って貰っていない時点で、他のパーティーとも会えていない」


 北には新しく見つかった横穴がある。その先は外に通じており、進めば進むほど魔物が少なくなる。そして特訓中の旅人が近寄らず、見つけて貰えない区域だ。


「行こう、10階層の最北端に」

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