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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
DEFENDER~バベルと召喚士~

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DEFENDER-08



 「一瞬……それに、さっきの防御障壁はまるで結界だわ」


 クァールはさほど強い魔物ではない。等級3のパーティーでも落ち着いて戦えば無傷で倒せる。素早いため逃げる事は難しいが、地下3階層程度なら最短ルートを通る旅人に助けを求める事も出来るだろう。


 アイカの父親は戦闘をなるべく避けようと、最短ルートを通っているはずだ。これまでに負傷の痕跡はなく、まだ更に下の階層に向かっていると思われた。


「先を急ぎましょう。アイカのお父さんはもう少し先に進んでいるはず」


「待って」


 キリムが一歩を踏み出すも、ナターリアが引き留めた。バベルはじっと通路の先を見つめたままだ。


「何かありましたか」


「いや、何というか……分からない、まだ何かが近くにいる気がするんです」


「え?」


「魔物がこの先にいます、いや、見えている訳ではないんですけど、分かるんです」


 ナターリアは手で方向を指し示し、左前方の壁の先だと断言する。見えてもいない、音も聞こえない。それなのに魔物の位置を把握できる者など前代未聞だ。


 犬人族だからといって、耳が犬並みに良かったり、気配にやたら敏感だったりという訳ではない。


「俺が知らない間にそんな魔法を完成させていたのか、知らなかった」


「いえ、あたしは何も使ってません。だけど、頭の中でそこに魔物がいると、まるで地図にペンで黒丸を付けたように分かるんです。どうして……」


「もしかして、バベルくんの能力?」


 ナターリアはまだバベルの召喚を解いていない。ここまでの道のりは、魔物と遭遇するまで気配すら感じていなかった。キリムもナターリアもバベルへと視線を向ける。


「僕、さっきから魔物がいる気配が分かるんだ。でも場所までは分からない」


「とすると、召喚されている間、バベルくんは近くの魔物の位置を召喚士に把握させることが出来る……成程ね」


「成程って、どういうことですか」


「とりあえずこのまま進みましょう。壁の向こうならここに辿り着くのには時間が掛かります。魔物討伐より、アイカの父親捜索です」


 キリムは召喚を維持して欲しいと告げ、そのまま下層へと進んでいく。ナターリアへ成程と言った意味を説明しつつ、4階層も歩くのは最短ルートだけ。


 矢印がついた看板が所々にあり、4階層はまだ明かりも灯されている。その数は幾分少なくなったものの、これならば最短ルートを見失うことはないだろう。


「つまり、クラムバベルは自身が何を司るクラムなのか、分からなかったんですか」


「はい。バベルくんは『守りたい』という漠然とした思いを形にしたクラムだったようです。だから、先ほどの結界能力も、少し前に発動して初めて気付いたくらいで」


「僕、自分にこんな力があるなんて知らなかった」


「召喚された事はまだなかったからね。クラムは召喚士と力を合わせてこそ、真の力を発揮できるんだ。バベルくんの場合、守れる範囲の敵の感知も出来る、と」


「能力が召喚士側にも備わるというのは初耳です。霊力さえ切れなければ、こんなに心強いクラムはそうそういません」


 ナターリアは薄暗い足元に注意しつつ、もっと早くに存在を知っていたらとぼやく。


 危ないかもしれないと探索しなかった場所、魔物がいると分からずに死ぬ思いをした山道など、魔物の感知が出来ていればと悔やまれる場面が多かったらしい。


「僕……心強い? 召喚して、良かった?」


「勿論です! これで自信が持てます! 召喚士は……霊力があるだけでちやほやされていいよなとか、召喚士本人は大したこと出来ないくせに、なんて言われますけど」


「え、そんな事言われるんですか?」


「ええ。あたしは魔法を使えますが、魔力がなく、体も丈夫じゃない召喚士だっていますからね」


 召喚士は今も変わらず需要が高い職業だ。召喚能力はおまけのようなもの。仮に一級の魔法使いがおまけでクラムを召喚できるとなれば、単純に2人分の戦力になる。


 キリムのように双剣で物理攻撃まで行えたなら、それだけで3人分だ。召喚士はいるだけでいい、何もしなくていいと言われ、パーティー内で優遇される傾向にある。


 メンバーの内心はどうであれ。


「でも、クラムバベルの力があれば、戦い以外でも存在価値を見出せます。クラムノームなんかは、崩れた道を直してくれたり戦闘以外でも大活躍してくれますけど」


「召喚士本人が出来る事が、増える……」


「はい。いつものクラム任せじゃなくて、あたしが魔物の位置を感知出来る。召喚はあたしの能力だけど、結局何かをやってくれるのはクラムですから」


 ナターリアは魔物の感知能力に喜んでいた。通路の直線上にいなくとも、数十メルテ先の通路の曲がり角の先、壁を挟んだ数十メルテ右横など、嬉しそうに魔物の位置を知らせる。


 バベルもそれを聞きながら、嬉しそうにスキップをする。役に立っているという実感は、戦闘に携わるクラムにとって一番のやりがいだ。


「バベルくん、ご機嫌だね」


「うん! 僕、召喚して貰えたら戦ってなくても守れるんだ!」


「戦いを避ける事も、パーティーを守る手段の1つだからね。さあ、地下5階層が見えてきた」


「地下5階層からは、明かりもかなり少なくなります。最短ルートは地下8階の安全区域まで表示が続きますけど……」


「魔物と遭遇し、迷ったら危険度が格段に上がりますね」


 まだナターリアにとっても危険な階層ではない。キリム達はゆっくりと薄暗い下り坂の先へ消えて行った。




 * * * * * * * * *





「安全区域……着いちゃったな」


「あたし達も昨日9階層で戦いつつ、8階層の安全区域に1晩泊まっていたんです。辛勝という訳ではありませんけど、等級5以上ないとこの先は厳しいかと」


 安全区域は200年前よりもスッキリしていた。今の時間は誰も休んでいないようだ。


 電線はこの安全区域まで伸びており、3つのランプが数十メルテ四方の空間をほのかに照らす。替えの電球まで備蓄されている。


 床はコンクリートで固められており、木製の椅子なども転がっている。テーブルや簡易ベッド、長期滞在しやすい環境だ。


「あたし達は聞いただけですが、時々クラムニキータが行商に来ているそうです。水や食料を売っている時は飛ぶように売れると。有料ですが、纏めていればゴミも回収してくれるそうで」


「ニキータ……こんな所まで来てるのか」


 ニキータが訪れる頻度と値段が気になる所だ。


 流石にトイレまで完備とは言えず、外の標高が低い湖まで流れる小さな水路が使われているというが、それ以外はおおむね快適だ。


「ねえ、バーンスパイダーはどの辺りにいるの?」


「協会で説明を受けた時、10~12階層辺りって言ってたね。9階層付近でも目撃情報はあるみたい」


「ナターリアが昨日と今日の朝見てないなら、もっと下にいるかもしれないね」


「ええ、クラムバベル。でも、あたし達はラージ大陸じゃなくて南のアムースカ大陸だし、魔窟に詳しくないんですよ。深層には自信が……」


 等級5であれば、10階層程度まで無理なく進むことが出来る。ナターリアは初めての領域を恐れているものの、今はキリムやステアがいる上、バベルまでいる。


 だが、アイカの父親は等級3、仲間にはもう1人等級3がいるだけで、他の者は武器を持つ事すら初めてだ。これより先で生きている可能性は更に低い。


「ナターリア、僕が絶対に守るから大丈夫。魔物の場所、分かるでしょ?」


「はい、有難うございます。でも……」


 ナターリアが不安そうにしている中、ステアが戻って来る。


「あ、ステア!」


「上の階にはいない。それと、目撃情報はないが、聞き込みをした旅人から気になる情報を得た」


「気になる情報?」


 ステアはキリムに頷き、旅人から貰ったという地図をめくる。


「10階層の最北端に、先月山脈の北に出る道が見つかったと」

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