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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
DEFENDER~バベルと召喚士~

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DEFENDER-03



 * * * * * * * * *




 ノウイは短い夏が終わり、夜間には冷え込む季節になっていた。世界の数多の町の中でも特に北方に位置し、決して快適な生活が送れる地域ではない。


 にも関わらず、魔窟のおかげで旅人が今も多く行き交い、それを狙う商人もよく集まって来る。ラージ大陸の中ではパバス、ゴーンに続いて3番目に活気がある町だ。


「ワーフ様! 素材市に行きましょう! お金など全部使っても構わないんですから」


「そうだね、有り金を全て使ってでも逸品を見つけ出すんだ!」


 レンガ敷きへと変化した通りを歩きながら、エンキとワーフは荷物を宿に置くのも忘れて素材市を目指す。その目は輝き、欲しい材料や作りたい装備の形状などを満面の笑みで想像している。


「オリハルコンの純度99%以上が出てねえかなあ……あれをアダマンタイトのハンマーで叩いた時にほんの僅か出来るなめらかな凹み、たまんねえ」


「おいらはオリハルコンをめいっぱい熱した時、一瞬ぷくりと泡立つあの瞬間がたまらないよ!」


「分かります! あの後で脱炭層を削るのもいいですね、薄皮を少しずつ剥いでいくような」


「うんうん、僅かなムラもない滑らかな鏡面に仕上げた作品は、100年眺めていたても飽きないね!」


 200年以上ひたすら鍛冶を極め、おおよその材料は鍛え尽くした。作った事のない武器防具の種類など恐らくない。それでも2人は楽しそうにオリハルコンの特性を語り始める。


 2人はもう作りたいものしか頭にない。という事は、一緒に連れて来たバベルの事も忘れているという事だ。


「あ、あの、僕は……」


「あっ、そうだった! 悪い悪い、ついクセでな。ワーフ様、どこかに荷物を置きましょう」


「はっ、ごめんよバベル! 君の装備を作るんだったね!」


 エンキとワーフはすまなそうに笑う。立ち止まってしばし考えた後、一度荷物をクラムの棲み処にあるワーフの家に運んだ。


 ノウイで材料調達をしても、ノウイで製作出来るわけではない。それならばノウイに宿を取る必要はない。


 クラムは他のクラムのものを盗んだりしない。人が到達できるような場所でもない。材料の置き場にも困らない。瞬間移動をするため移動時間のロスもない。


「おいら、どうせ宿に泊まってもお風呂には入れないからね……ごめんよ、おいらのために」


「お湯に浸からなければ大丈夫だったり、最後に入れば大丈夫だったり! ワーフ様の家の方が便利だから宿を取らなかっただけですって!」


 エンキがしょんぼりするワーフにフォローを入れる。ウサギ男は全身がふわふわの毛に覆われており、お湯に浸かれば毛が大量に浮いてしまう。キリムの宿で風呂に入る時も一番最後だ。


「僕はどこでも楽しいよ。ここならクラムのみんなもいるんだよね」


「ああ、いるぜ。他のクラムと仲良くなれるといいな」


「うん!」


 バベルはまだクラムの全てと顔を合わせた訳ではない。オーディンや海に棲むリヴァイアサンなど、バベルの事を知らないクラムもいるくらいだ。


 少しずつ自分を誇れるようになってきた事で、バベルはクラム達と対等になれる日を楽しみにしていた。


「ただーし! アスラとエイルの怪しい薬だけは飲むなよ。あのステアが1日起き上がれなかったからな」


「毒、か」


「いや、毒じゃねえ……のか?」


「おいらは二度と飲まないよ。ちょっと飲んだだけで、とても苦くて舌が痺れて体中寒気がするんだ」


「あー、やっぱり毒だよな」


 エイルは新たな術の開発と称して実験台を常に求め、アスラは新たな回復薬の開発と称して、やはり実験台を常に求めている。クラムは基本的には死なないため、時々手伝うのだが……大抵の場合、体力の回復には代償を伴う。


「見ただろ、お前らがいねえ間にキリムの宿に設けられた、不気味なアスラコーナーを」


「うん。きっとあの毒を使って魔物を倒すんだね」


 エンキ達はバベルの勘違いを訂正しないまま、ノウイの素材市へと向かった。


 工房が並ぶ通りの入り口に広場があり、20年程前から素材市が開かれるようになった。


 約50年前、魔窟の近くにあった鉱山がついに閉山となった。鉱夫達は別の場所で新たな鉱脈を探し、30年前にようやく良質な鉄鋼石を掘り当てたのだが……その場所は元あった鉱山よりもはるか南、ノウイからは遠すぎる位置にある。


 トロッコの線路が新たに敷かれるまで、ノウイの鍛冶師達は殆どを輸入品で賄っていた。しかし、そうなると素材の質、量、価格の面で他の地域に対抗できない。


 一時期のノウイは、鍛冶の町の地位が揺らいでいた。


「おおー、また魔窟の底から色んなもんを持って来てやがるなあ」


「あの大きな牙はなんだい? おいらも見た事がないよ!」


「魔物から取ったものを材料に使うんだね。大丈夫なのかな」


「心配ねえさ、ちゃーんと『魔抜き』すっから」


 鍛冶師の流出が止まらず、鉱山という勤め先もなくなって人口も減り始めると、ノウイは町を挙げて復興に力を注いだ。


 そこで目を付けたのが魔窟だ。


 魔窟の低層階は、素材と呼べるものも殆ど採りつくしている。下層もずいぶんと攻略が進み、今では電線を引っ張って薄暗くとも明かりが灯されている程だ。


 採り尽くされた魔窟に珍しい鉱石など期待していない。珍しい魔物の皮や牙などを手に入れ、それを売るのだ。


 旅人はひっきりなしに訪れ、珍しい素材を求める鍛冶師も戻って来た。そうこうするうちに鉱山からの線路も開通し、ノウイは再び漁業と鍛冶の町の座を奪還した。


「魔物の写真も飾っていますよ、あれは牙じゃなくて背中の角だと」


「ドラゴン種だね。ドラゴン種のものは加工しにくいけれど、強度は優れているね」


 エンキは魔窟の地下13階層で狩ったという、黒緑のデモンズドラゴンの角をじっと観察する。光をあまり反射せず、炎天下にあってもまるで影が差したようだ。


 商人はワーフを見て驚き、鍛冶の神が自分の店を覗きに来たと分かって嬉しそうに立ち上がった。


「やややっ! ようこそクラムワーフ様!」


「おいらの事を知っているのかい、嬉しいね」


「ワーフ様を知らないなんて、モグリですよ! さあ、どうぞ見て行って下さい!」


 商人は嬉しそうにオススメ品を小さなローテーブルに並べていく。


「おっちゃん、このデモンズドラゴンの角は」


「ああ、7日前に狩られたやつさ。魔窟の歴史の中で目撃されたのはたった4回、狩られたのはこれで2度目だ」


「強い魔物って事か、それとも珍しいだけか?」


 露店の商人は自慢げに値札を見せ、「両方だ」と告げた。ターバンを頭に巻き、顎髭を指でつまんで整えながら、等級9のパーティーが2組がかりで倒したと言って微笑む。


「まあ毒は吐くわ大きいわ翼は広げるわ、硬いわ火は吐くわ力は強いわ、もう大変だったとさ」


「つうことは、この角はそんなに出回ってないって事だな」


「ああ、背中にある角は左右に対で並ぶ6本のみ。以前のものは研究者が2本買って調べたそうだよ」


「で、どうだったんだ?」


 この角がもし有用であれば、バベルの盾に使えるかもしれない。温度変化に強い、硬い、破断しない。求める条件は厳しいが、条件に合うなら何を差し置いてでも欲しいものだ。


 何より、未知の素材という響きがエンキとワーフにはたまらない。


「まず1つ、オリハルコン製の剣で骨を叩き割るのに2時間かかったそうだ」


「並みのオリハルコンより硬いかもしれない……」


「2つ目に、魔力を吸収する」


「魔鉱石と同じ特徴だな」


 商人は売り込むチャンスだと判断し、含みのある笑いを漏らした。そして最後の1つを告げる。


「3つ目に!」


「3つ目に?」


「毒が含まれているのです! さあこれは買いですよ!」


「うおぁ、待った待った! そんなもん盾や防具に使えるか!」


「毒……アスラが喜びそうだね」


 バベルの中で、アスラはすっかり毒使いだ。


「お前の装備に使うんだよ、毒はナシ!」

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