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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
essence~守るべきものの定義~

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essence-09



 男が説明した通り、ブラック達は殆ど攻撃していない。だがどうも様子がおかしい。


「……まずいな」


「うん、防御に徹しているんじゃない、攻撃出来ないんだ」


「どういうこと? 攻撃しちゃいけないから防御しているんだよね」


 キリムとステアの声が魔物の咆哮にかき消される。バベルは少し大きめの声で2人に疑問を投げかけ、キリムも大きな声で理由を告げた。


「俺とステアは亜種っていう魔物と戦った事があるんだ! イノシシの見た目で熊のような動きをしたり、どんな魔物か全く読めない!」


「相手の攻撃は今のところイノシシに似ている。だが時折尻尾を振る素振りを見せ、後ろ足での蹴りも使っている」


「馬……なのかな? 尻尾も少し長くなった」


「あれはミノタウロスなどの二足歩行が出来る種類かもしれん」


 ギアナは熟練の旅人であり、仲間達もそうだ。だがかつてキリム達は熟練の旅人達と共に亜種と対峙し、それでも全滅の危機を味わっている。その当時のメンバーは等級8が5人、等級10が3人、等級5が2人。それにクラムステア。


 今魔物と戦っているのは、等級8のギアナと仲間のうち2人、そして等級4~5と見られるブラック達5人。


 当時の亜種が3体だった事を考慮しても、決して有利とは言えない状況だ。


「おい、盾を持っている男が圧されてるぞ」


「踏ん張れ!」


「ああ、お願い、旅人さん! どうかうちの子を守って!」


 見守る患者の家族が頭を抱えて見守っている。同じ魔物の血を流していても、彼らにはもう闘争本能や鋭い爪は備わっていない。亜種に対抗する手段はないのだ。


「すみません、今まで助からなかった患者はいないんですよね!」


「ああ、今まではなんとか無事に!」


 状況を教えてくれる男が大きく頷いた。やはり、手術の成功率、生還率は100%で間違いない。


「では、助からなかったヒトデナシは」


「……ああ、何人かいるよ。毎回ではないが、時々」


 男は気まずそうに俯く。ヒトデナシが無事に生還出来る保証はない。ブラック達がその時々に当たってしまう可能性は十分にある、という事だ。


 そしてそれは今回の戦いかもしれない。ただ、状況を見る限り今のままでは患者も医師も逃げられそうにない。医師は振り向かず、黙々と縫合の手を動かしている。


 旅人が負けてしまえば、檻の中で全員の命が尽きてしまう。


「俺は、ブラックさん達がヒトデナシだとは思えない。そして、今まで戦ってきた人たちもそうだ。確かに魔人の皆に酷い事を言ったり、物を盗んだり怪我させるのは悪い事だ」


「悪いのに、ヒトデナシじゃないの?」


「……黙って我が主の考えを聞け」


「患者が無事、でも旅人は死ぬこともある。それって、旅人が魔人を助けるため、身を犠牲にして庇ったからだよね」


「被害に遭った者への贖罪と、それ以上の改心を見せたと」


 キリムはステアの言葉に頷いた。


「罪は消えない。多分、一生終わらない。でも許される事はある。彼らは……きっともう許されたよ」


 キリムの言葉に頷いたのは、解説してくれた男だった。


「ああ、彼らは初めて手術に立ち会った瞬間から許されているよ。この町の者を殺した、治せない怪我を負わせたって奴は別だけどね。ヒトデナシの働きは手術費用の一部。それは被害者に見舞金として支払われる」


「それで納得してくれるのですか」


「もちろん納得するさ。そのヒトデナシがこの町の小さな命を救ってくれるんだからね。彼らは悪者だった過去を断ち切り、許され、英雄になった」


 いつしか見学席からは声援が沸き起こっていた。昨日ヒトデナシになったばかりの者達も、祈るように見守っている。


「頑張れー!」


「あと30分もすれば討伐出来る! 回復薬はいっぱいある!」


 患者の家族が檻に駆け寄り、回復薬などが入った小さな鞄を隙間から投げ入れる。


「許されるために必死になる、その者達が許されるに値するかを試す、か」


「彼らの初戦は、被害に遭った者達も見に来た。そいつらが許したんだ、誰ももう責める立場にいない。彼らも本当はとっくに解放されてる」


「じゃあ、何で命の危険を冒してまで……」


「使命感、さ。全員じゃないけどな。罪の重さで回数が決まるんだが、仮に5度の手術に立ち会うと決まれば、殆どのヒトデナシ……いや、旅人さんが最後までやり遂げようとする」


 ブラック達は恐らく亜種に太刀打ちできる等級の旅人ではない。ギアナ達がいてこそ戦える程度の強さだ。


 それでも投げ出さずに戦っている。許された後もこうしてずっと患者を救い続けてきた。


「……じゃあ、これは人助けなんだね」


「刑の邪魔にはならないという事だな」


 そう言ってキリムとステアが立ち上がった時だった。


 魔物がふいに後方へと振り向いて口を開いた。悪い予感がし、咄嗟にキリムが叫ぶ。


「みんな、避けろ!」


 キリムの声で数人が腰を浮かせた。だが旅人と一般人では反応速度が全く異なる。一般人は視認し、状況を把握しなければ動けない事が多い。


 家族らもまた、何が起こっているのかを理解できないまま、動けずにいた。その家族めがけて漆黒の炎の弾が吐かれたのだ。


「危ない!」


 バベルの声が部屋中に響く。それと同時に青白い障壁が発生した。バベルの力が発動したのだ。


「だ、大丈夫か!」


「は、は……い」


 檻には結界が張ってあるはずだが、魔物が放った漆黒の炎は結界を突き破った。バベルがいなければ恐らく数人が死んでいた。


「嘘だろ、結界が……」


「結界は絶対破られないんじゃなかったの!?」


「一定の強さがあれば結界は効かない! どうやら選定した魔物が強過ぎたらしい! もしくはこの子の中に潜む魔物力が高過ぎたか」


「そんな! うちの子は、旅人さんはどうなるの!」


 見学者が口々に早く檻から出ろと叫び、医師たちももう手が震えて処置どころではない。だが患者の容体は安定しておらず、まだ縫合も終わっていない。


 むやみに動かせる状況になく、しかも麻酔が効く時間には限りがある。処置を終えるまでは動けない。


 だが、もし先程の漆黒の炎が吐かれたなら、ギアナの仲間の魔法使い1人では防げるか分からない。


「ステア、行こう!」


「ああ。バベル、お前はこの場の全員を守れ。いいな」


「うん」


「いいか、全員だぞ」


「うん、守るよ、僕が全部守る」


 バベルの目が青く光っている。いつものふんわりとした様子とは違い、今は鋼のように固い決意に満ちた表情だ。


「加勢します! 一度態勢を整えて!」


 キリムがブラック達に声を掛ける。まだあと20分以上の時間が必要だが、ギアナともう1人が全力で攻撃を防ぎ、治癒術士は防御魔法で精一杯だ。


 ブラックの大剣が魔物の背へと振り下ろされたが、あまり効いていない。


 攻撃術士2人が目くらましの炎を浴びせ、更に氷の鋭いつららを弾丸のように浴びせていく。ブラックも攻撃術士も、もはや時間稼ぎではなく全力と思われた。


「加勢は有難いが、檻の扉を開ける訳には……いかない!」


「フン、俺を誰だと思っている」


 ステアがギアナの言葉を鼻で笑う。ステアはキリムの腕を掴み、そのまま檻の中へと瞬間移動をした。


「視認できる場所なら瞬時に移動できる。クラムをみくびるな」


「俺とステアで残り時間を耐える! みんな、万全の体制を! 外にいるのはクラムバベル、彼に守れないものはない」


「キリムさん、あんた……」


「これは俺達の罪滅ぼしだ、いくらなんでも巻き込めねえよ!」


 ブラックにとって、キリムは故郷を救った英雄だ。ブラックは攻撃を受けては歯を食いしばりつつ、その英雄が悪人である自分を庇うなどあってはならないと叫ぶ。


「ブラックさん達は、今からこの子にとっての英雄になるんです!」


「貴様らが死ねば、次はこの子供やその親が罪の意識に苛まれるぞ」


「……だけど」


「使命感だけで人を救える程甘くはない。背負えない分は俺達に任せておけ。それが悔しいなら、人に戻ったのなら、二度と悪事を働かんことだ」

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