Finally-01(152)
【Finally】~Paths are made by walking~
「ちょっと! あれ、どうすんのよ……」
「結界って、割れないよね? 大丈夫よね?」
キリムがガーゴイル相手に耐えている頃、町の外でも騒動が起きていた。デルやガーゴイルの力に引きつけられたのか、町の結界の外に魔物の大群が押し寄せていたのだ。
幸い結界を通り抜ける事が出来ず、門の前に溜まっているだけだが……門の上に登って見渡せば、遥か遠くからまだ魔物がこちらに向かっている。
「……どうしよう、これ、放置してられないよね」
「もしこの町に来ようとしてる人がいたら大変じゃないかな。これを強行突破して誰も犠牲にならずに済むとは思えない」
「……って、ちょっと、ちょっと! あれ、馬車じゃない!?」
「だってこの町の人は外に出ない……って、ほんとだ、馬車だ!」
リビィが遠くに魔物ではない何かを見つけた。馬車は魔物の大群に気付いたているのか、その場から動こうとしない。
「町に入れないし、あのまま引き返すって言っても2日掛かりだよね。襲われるかもしれないし」
馬車の正体は鉱山の労働者達だった。北東の村で馬を借り、キリム達のためにと素材となる鉱石などを持って来てくれたのだ。生憎、ズシ以外の村に住んでいるのは、魔物の血を引く者ばかりではない。
つまり、襲われてしまうという事だ。
「助けようにも、助けられないよな……」
イグアスが双眼鏡を覗く。そして「鉱山で面倒を見てくれた者達だと気付いた。助けたいが、とても全てを相手にする事は出来ないし、かといって強行突破も難しい。
門をどうやって通過できるかと意見を出し合っているうち、ブリンクが「よし」と言って荷物をマルスに預けた。
「ブリンク?」
「この中で一番身軽に動き回れるのは俺だ。俺がおとりになって魔物を遠ざける。絶対成功するとは言えないけど、門の前に魔物が居なくなれば魔法でも打ち上げて馬車を呼んでくれ! 俺は馬車が通過したら門に滑り込む」
「だ、大丈夫なのそれ!」
ブリンクの作戦に、皆は驚いて絶対に無理だと断言する。それでもブリンクには勝算があるのか、任せろと言って聞かない。
「サン、足が速くなるよう、俺にラピッドステップかけて」
「……分かった。そんなに長時間は効き目がないからね。走りだしたらフェザーも掛ける」
サンが走る速度を上げる魔法や、体が軽くなる魔法を掛ける。
「有難う。じゃあ、悪いけどリビィ、魔法を盛大に放って道を作って」
「分かった、いくよ。渾身の力で……トルネード!」
竜巻で魔物が空へと吸い上げられ、町のすぐ外の魔物が一時的にまばらになる。ブリンクが地面に落ちてすぐには起き上がれない魔物の間を駆け抜け、双剣を打ち付けて鳴らす。
「こっちだ!」
その大声に、魔物が一斉に振り向く。聞こえていない魔物も他の魔物の動きにつられて振り向き、そこにブリンクが居る事を認識した。
魔物に認識されると、今度は手に持っていた飛び苦無を投げて挑発をし、更に炸裂弾を数個手前に落とす。
その挑発に乗って魔物が数体、また数体とブリンク目がけて歩き出す。そして、ついには見える範囲にいた魔物たちが飛び、這い、走り、恐ろしいほどの大群となってブリンクを襲おうと追い始めた。
「フェザー!」
「まだ馬車が動かない! 迎えに行くしかないわ!」
「行こう!」
マルス達は数百メルテ先で立ち往生していた馬車に向かって走り、手招きや魔法で合図をする。気付いた馬車が猛スピードでこちらに向かって来るのを確認すると、まばらに残っていた魔物を倒し始める。
「早く! こっち! 早くー!」
「リビィちゃん達じゃないか!」
「話は後で! 早く入って!」
門の部分は結界が弱く、代わりに頑丈な扉で守られている。魔物の血を引いていても通れるよう、長年の研究と多くの犠牲を払って完成された鋼鉄の門だ。
「よし、入れた! ブリンク……!」
ブリンクは馬車が無事に入れたのを横目で確認し、今度は町めがけて猛ダッシュを始めた。鳥系の魔物はその速度が速く、ラピッドステップをかけたブリンクにも徐々に近づいてくる。
「ブリンク早く! 速度上げて! 追いつかれる!!」
「効くか分からないけど……魔法連続詠唱! ストーン! ソーンバインド!」
リビィが門の外に出て、鳥系の魔物を狙ってまずストーンを落とし、ブリンクのすぐ後ろを追ってくる魔物には草のつるを絡ませて転倒を誘発させる。
「ギェェ!」
空から落ちる魔物と転倒した魔物が他の魔物の追従を妨害し、その場に魔物が躓いて将棋倒しとなる。なおもその脇から追ってくる魔物から、ブリンクはゼエゼエと荒い息で逃げ、門のすぐ手前まで駆けてきた。
「ストーン! ソーンバインド! 追いつかれる!」
「ラピッドステップ! 早く!」
「ハァ、ハァ、うおぉぉぉ!」
ブリンクが門に入ろうとする瞬間、鳥系の魔物の爪がブリンクの背を掠る。間一髪でマルスがブリンクの手をしっかりとつかみ、結界の中へと引き込んだ。
結界に勢いよくぶつかった魔物が山のように折り重なるも、ブリンクの作戦はなんとか成功したようだ。イグアスがすぐさま重たい門を押して閉じる。
「すげえなブリンク、度胸もそうだけど感心したよ」
「ハァ、ハァ……俺が、目指してるキリムは……っ、こんなもんじゃ、ないよ。この状況を屋敷の皆に、知らせに行こう」
* * * * * * * * *
ステアがクラム達を呼んで来る直前、キリムはただ1人でガーゴイルと対峙していた。攻撃を仕掛ける間は無く、ひたすら避け続けているだけの状態だ。キリムは出来る限りの時間稼ぎを行っていた。
「ギェェェェェ!」
「あ~ステア早く、あっ! っぶないっ!」
時折ガーゴイルの攻撃がキリムの軽鎧や武器を掠め、キリムはその度に心臓が止まるのではないかと思う程の焦りを覚える。
幾度となく引っかかれた軽鎧のプレートには、しっかりと引っ掻き傷がついている。これがもしエンキとワーフが造り上げた防具で無く量産品であったなら、今頃キリムはここに転がっていたことだろう。
時計を確認する暇はなく、結構な時間が経ったのではないか、蘇生術が効かない者がいるのではないか、とキリムは心配していた。
この蘇生の成功率に大きく影響を与えるのが時間だからである。
「ぐ……っ、ゲホッ」
キリムは吹き飛ばされると更に距離を取り、必ず相手を視界に入れてから再び戦いを始めるようにしている。
痛みで下を向いたり、相手の間合いの中で体勢を整えることは、隙でしかないと分かっているからだ。
ライトボールを打ち上げてくれる者はいない。自身にもそのような余裕はない。僅かに2つ持って来ていたランプがほんのりと照らすだけの空間で、キリムは殆ど感覚だけで攻撃を避けていた。
「双刃斬!」
技を当てるつもりはない。繰り出す事で注意を引きつけているだけだ。もしも廊下にいる旅人に興味を持たれたら、キリム1人では庇いきれない。
幸いにもガーゴイルがキリムから目を離す素振りはない。そうキリムが安堵した時だった。ガーゴイルはキリムの顔の目の前で口を大きく開け、澱んだ炎の弾を作り始めたのだ。
「まずいまずい!」
ガーゴイルの攻撃を阻止しようと試みるも炎弾が消えることはない。そのまま放たれると悟った時には、もうガーゴイルがキリムを狙った後だった。
避けようとするキリムの動きを追うようにガーゴイルの首が回り、炎が放たれる。咄嗟に床に転がっていたマーゴの盾を拾いガードしたが、やった事もない盾での防御など、意味を成さない。
「ぐっ……!」
炎は防げたが、キリムは殆ど衝撃を和らげることも出来ないまま、勢いに負けて壁に打ち付けられた。






