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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【IDENTITY】~Look your fears in the eyes~

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IDENTITY-04(142)



 亜種たちの鋭い爪はキリムの防具を執拗にひっかき、キリムの軽鎧は所々亜種の血で汚れていた。トルクが張った障壁はすでに消えているのか、キリムの頬にもひっかき傷が見える。


「坊やたち、もう大丈夫! あとは全員でやろうかね!」


「ブグスは近接職の援護を頼む! シールドバッシュ!」


 キリムとステアは迫ってくる亜種の大群をマーゴとブグスに預ける。マーゴは左側の壁に背を向けて亜種を引き寄せ、ブグスは右の壁を背にして残りを受け持つ。そうやってひきつけているうちに攻撃職たちが倒していくのだ。


 待ってましたとばかりにニジアスタが槍を構え、亜種に突進していく。なぎ払いの後、槍を車輪のように回して切り刻みながら、ニジアスタはふとキリムと目が合いニヤリと笑う。


「ようやく俺たちが暴れられるぜ、槍振り回すから近寄るなよ! 今回は小声で技を繰り出すの無しだからな」


 ニジアスタは昨日の夜警の際、キリムが大笑いした事を再び思い出させようとしているのだ。キリムは緊張で強張った表情を崩してプッと噴き出した。ニジアスタはきっとキリムの肩の力を抜かせたかったのだろう。


「ニジアスタ、いったい何の話だ? 小声?」


「リャーナには関係ねえよ、いいから大剣ぶん回しとけ! そっち任せた!」


「やれやれ血の気が多いの、ほれリジェネ! 回復が欲しい奴は自分の名前と欲しい魔法言うとくれ」


「そんな無茶な!」


「あ、それいいな、俺も回復くれってお願いされたらヒール回すことにするかな」


「ダーヤ、てめー後で埋めるからな」


 各自がテンポの良い会話をしながらも、全力で亜種と対峙する。なにせ見た目だけでは全く判断できない相手だ。気を抜けばどの敵にやられるか分からない。


「なんだこいつ! 剣が殆ど通じてねえ! 見た目は狼のくせになんて堅さだ!」


「こっちは魔法が効いてない、ちょっと物理組は退いてくれ! 全体魔法を使って効く奴を判別したい!」


「んなこと言ってもよ、婆さん、全体に強化魔法を掛けてもらえるか!」


「あいよ! キヒヒ、婆さんが3人おるもんでね」


 ダーヤが味方全体に防御のバリアを張り、デニースとヤチヨが範囲攻撃魔法を畳みかけていく。


「リャーナ、さっき堅いって言ってたのはどいつだ!」


「俺の目の前の3体だ! それがどうした!」


「中身は骨型のアンデッドかもしれない、弱く範囲ヒール掛けるから反応見てくれ……リジェネ!」


 ダーヤが敵の正体を見極める為に、ある程度傷を与えられた敵全体に弱い回復魔法を掛ける。イーストウェイの北の旧墓地でアビーが行ったように、アンデッドは少しでも傷を負っていれば、回復魔法によってダメージを与える事が出来る。


 ダーヤの読みは当たっていた。10体程が反応して苦しそうな悲鳴を上げる。


「分かったぞ! 俺の周りには5体いる! 他の魔物が回復しちまうけど、強めにヒールかましてくれ! アンデッドだけ先に倒しておきたい」


「分かった! レベッカ婆さん、一緒に頼む! メガヒーリング!」


「あいよ! あたしは分かってる奴だけ確実に仕留めようかね、ホーリーシンボル!」


「ギャァァァァァァ!」


 アンデット系の亜種はダーヤのヒールによって大ダメージを喰らい、そしてレベッカが単体それぞれに聖なる炎の魔法を唱えて焼き、灰にする。


 そうやってアンデッド系の亜種を倒した結果10体ほどがその場からいなくなり、魔物の密度は幾分低くなった。今空間にいる以上の亜種はなだれ込んでくる様子が無い。


「アンデッドは一掃した! 魔物もこれ以上は増えない、攻撃再開だ!」


「はいよ、今のうちから魔力補給しときな、あんたの魔法は大技が多いでの」


「有難う、いくぞ! ラーバウェーブ!」


「駄目押しじゃ! アイスバーン!」


 デニースが溶岩を呼び出し、発動後一瞬で魔物全体を襲うと、予め唱えられていた魔障壁が作動し旅人を守る。その溶岩を今度はヤチヨがアイスバーンで瞬時に凍らせ、その温度差によって更なるダメージを与えた。


「何体かこれで消えた! 動きやすくなったぞ! ……シールドバッシュ!」


 相手は強くとも、皆は勝利を収められると思っていた。


 しかし戦闘は長引き、徐々に余裕がなくなってくる。残るは3体。その3体がノウイの魔窟で戦った新種のドラゴンよりも機敏で体が硬く、そして強いのだ。


 人の背程の体高で、下顎から上に伸びる大きな牙をもつイノシシの体には、どうやら強靭な魔物が宿っているようだ。キリムがゴブリンと見間違えたように、その動きはイノシシのものではない。


 猪突猛進するかと思えば突如後ろ足で立ち上がり、方向転換も自在。短い前足で軽快なパンチを繰り出して襲い掛かってくる。


「なんだこいつ……技は確かに入ったはずなのにビクともしねえじゃねえか!」


「こいつだ、さっき俺の剣をまともに喰らっても動じなかったやつだ」


「こいつ、槍をへし折る気か! リャーナの剣が通じねえとなると、あとは……クラムステアとヤチヨ婆さんくらいしか……!」


「ニジアスタ!」


「ニジアスタさん!」


 イノシシの亜種は僅か数セルテも刺さっていない槍をそのままに、強引にニジアスタへと襲い掛かった。ニジアスタの脇腹に槍の柄が押し付けられ、そのままニジアスタは壁へと追いやられてしまう。


「俺の引きつけ技が効かない! ニジアスタさん、耐えられるか!」


「だ……いじょうぶだ、なんて力だ、くっそ、鎧が潰れちまう! けどこれならお前らは襲われない、俺が……このまま抑える! みんなでやってくれ!」


「俺はマーゴさんの加勢に行く! 踏ん張ってくれ!」


「早く! 俺の回復が追いついていない! ニジアスタ、跳ね返しやがれ!」


 ダーヤが焦ったように言葉を発する。そんな中、今度はデニースが後ろを振り向き、マーゴの状況を皆に伝えた。


「まずい、誰かマーゴの援護に行け! マーゴの障壁が切れた、婆さん達が狙われる!」


「旅人の亡骸に憐れんでる場合じゃなかったな、次になるのは俺達だ、クソ……っ! 俺がいく、大剣ならまだ攻撃を受け止めやすい!」


 ニジアスタをそのまま絶命させようと、イノシシは突進力と全体重をニジアスタの槍にかけ、その体を貫こうとする。


 マーゴ達は見た目が熊の1体と、見た目が山猫の1体、それぞれを押さえつけるだけで精いっぱいだ。火炎を吐くため、ドラゴンなどが使われているのかもしれない。尾を振り回すたび、ブグスは衝撃で押されている。


「キリム!」


「分かった! 双竜斬!」


「坊や伏せな! アイスニードル! 連続……ホーリーシンボル!」


「くそ、まだ倒れないか、このままじゃニジアスタがあと1分ともたない! レベッカさん!」


「だめじゃ! こっちの2人は障壁込みでギリギリ、少しでも抜けると2人共落ちる!」


 キリムはイノシシの手足を積極的に狙い、動きを封じようとする。対するイノシシ型の魔物は後ろ足を跳ね上げて、キリムの動きを阻止しようと蹴りを繰り出す。


 短いが俊敏なその足の動きに躊躇している間にも、ニジアスタの鎧には槍の柄がどんどんめり込んでいく。


「ふぅ、ババアにこの戦闘はしんどいわい、これが最後の更新じゃ、後はもう掛ける魔力が残っとらん! 回復するまで耐えとくれ!」


「ぐはっ…!」


 ニジアスタの鎧に、とうとう槍の柄が貫通した。ニジアスタの猫耳がピンと張り、口から血が流れる。


「ニジアスタ! 頼む、もう魔力がない、頼む……早く倒してくれ!」


「やってるさ!」


「もう、俺じゃ支えきれねえ、すまねえニジアスタ……」


 ダーヤの目には涙が浮かんでいる。


 自分の力不足で死なせてしまうという悔しさと、同じクーン族として同じパーティーで頑張ってきたのにという悔しさ、2つが重なってあふれ出る涙だった。


「クラムステア! ノウイの魔窟のように力を解放出来ないか!」


「意識して出来る事ではない!」


 キリムが傷付き暴走した時のステアは、今以上に強かった。マーゴの叫びを聞き、キリムはステアに申し訳ないと心で詫びながら、ニジアスタとイノシシ型の亜種の間に入ってニジアスタを支える。


「今のうちに、ニジアスタさんを!」


 デニースとダーヤが急いで槍を抜き、ニジアスタを引きずり出す。亜種の攻撃対象はキリムへと移り、キリムは背骨が折れそうな程の衝撃を1人で受けようとしていた。

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