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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【TRANSIT】彼にとってそこは、目的地ではない町。

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TRANSIT‐08(013)


「3階から7階が売り場、8階と9階が商人ギルド、10階が展望台……」


「3階だね! じゃあ防具から見よう、さあ行こう!」


 ワーフはキリムの装備を選ぶことより、人が作る最近の装備に興味津々だ。


 受付で教えてもらった通り、昇降かごがむき出しになった油圧式のエレベーターに乗り込むと、キリムは数字の3が書かれたボタンを押した。


 3階から7階が売り場と書いてあるのに、3階のボタンの上が8階だったからだ。


「うわっ!?」


 上昇時の揺れと加速でよろけながら、キリムは思わずワーフの肩に手を置く。主にすると決めたからには頼られたいのか、ステアはムッとした表情でキリムを引き寄せ、目の前に立たせた。


 丸い塔の中心部は太い柱が通っていて、外周には装備品を売る店がずらりと並んでいた。天井は高く、4メルテほどはあるだろうか。


「1周回ったけど、6つも店がある……どこがいいんだろう」


「ワーフなら視界に入っただけで良し悪しが分かる。おいワーフ」


「ワクワクするね! 全部見るというのはどうだい?」


「ワーフ」


「うう……分かったよ。それじゃあそこの店にしよう。表に飾ってある重鎧はなかなかの出来だ」


 キリムは木製の厚い板の扉を押し開き、そっと中に入った。


「すみません……」


「いらっしゃい……うっわ、何だいその恰好は」


 扉のすぐ左手にあるカウンターでは、1人の女性が帳面に何かを書いているところだった。赤髪を無造作に束ね、キリッとした眉に切れ長の目でキリムを品定めしている。


「この恰好は……もう何も言わないで下さい。防具が欲しいんです」


「初心者だね? それならこの階で選びな。上の階は中級者と上級者の装備だ、あんたには売れないね」


 女性はそう言うとカウンターの椅子に腰かけ、こちらを見ずに本を読み始めた。アドバイスをする、お勧め品を教えてくれるという気はないらしい。


 苦笑いするキリムに遅れてステアとワーフも入って来る。キリムは眉尻を下げて2人……いや、1人と1匹に助けを求めた。


「ワーフ、頼んだぞ。キリムは武器を持たせる、ローブや重い装備は要らん」


「えっ、ローブがいらないってどういう事!?」


「お前は俺を呼びだすのにローブが必要か? 軽鎧が最善だ」


 ステアはキリムに軽鎧を着せるつもりらしい。ワーフは軽鎧とだけ聞くと、キリムの好みも聞かずにフロアを物色し始める。


 初心者用の装備という事は、そんなに凝った造りや強度ではない。それでもワーフは嬉しそうに視界に入った装備を確認し、めぼしをつけていく。


 キリムとステアも分からないなりに見て回るのだが……。


「6000マーニ……こっちは7000マーニ」


「所持金は5000マーニと言ったな。俺も500マーニ紙幣なら1枚持っているが」


「そんな、ステアのお金まで借りられないよ!」


 そう、装備が思った以上に高いのだ。


 ワーフが予算で買える中で色々と選ぼうとしてくれるが、一見割安と思えるようなものは見事なまでにワーフが選ばない。


 ワーフが選ばなかったものを着る訳にもいかず、武器はこのままでは絶対に買えない。必要な時にはステアから借りるしかなさそうだ。


「あの、クラムワーフ」


「ん? なんだい?」


「どこが悪いのかを教えてもらえたら、今後装備を買う時に自分でも判断できるんですけど」


「あ、そうだね、ごめんねつい」


「キリム、ワーフの判断基準を聞いても分からないぞ」


 キリムはどのレベルが合格かではなく、どこがしっかりしていれば妥協ラインなのか、それを知りたいと考えた。取り急ぎステアと一緒にいる間、噛みつきや突進さえ防げたならいいのだ。


「ん~えっと、この鉄のプレートを見てごらんよ。どう思う?」


「どうって、えっと」


「綺麗だと思ったかい?」


「んと、綺麗……そうですね、見た目は綺麗なプレートなのかな。でもちょっとなんか、作り物っぽいというか」


「キリムくん、分かってるね、君は分かる子だ! このプレートの表面は磨かれているんだよ。だから表面は平らになっているけど、磨けない窪みが残ってるよね。裏側は磨くと厚さが減るからそのまま」


「そうですね。でも、強度には関係ないのでは」


「鍛冶屋が叩いて仕上げるのに、こんなムラがあっちゃだめだ。そのムラを隠すように磨いて削るのはもっとだめだ、命を削ることになる」


「なるほど」


 ワーフはキリムの目線でも分かり易いように、自分が何を基準にして選んでいるのかではなく、絶対に選ぶべきではない装備の特徴から教えていく。


 教えられた通りに探していくと、素人ながらキリムにも選ぶべきではない装備が幾つか見つかった。


「削るんじゃなくて凝縮するんだ。だから叩く、熱を入れる。刃なら削るのは切れ味を出すためだけ。これも、布の強度が均一じゃないからそこを隠すように模様を貼ってある。初心者でもそのくらいは分かるはず」


「うん、そう言われたら分かります」


「良い装備を見続ければ、どこが物足りないか分かる。買えなくても、知ることが必要さ」


 勿論、ワーフが選ばないからと言っても、別に全部が粗悪品という訳ではない。鍛冶師はそこで気に入って貰えたら、強くなって装備更新の際にまた買ってもらえる。


 旅人はその上の装備を買う際「お得意様」扱いをして貰える。


 ワーフは分かりやすいようにキリムに初心者講座を続ける。自分の鍛冶の話を聞いてくれる者がおらず、自分の情熱を語り足りないワーフがキリムを横に置いたなら、当然の結果だろう。


「あ、この名前、さっきも見た。ジェインズの新レーベル・ヴォロス……」


「デザインは良いな。キリムにも似合うだろう。これは駄目なのか? 小手と足具も一式で5000マーニなら買えるんだが」


 キリムは装備がそれぞれ幾つかのレーベルに分かれていることに気付いた。デザインの好き嫌いで言えば、今見ている装備のレーベルがキリムの好みに合う。ワーフが難色を示すものの、キリムは他にそのレーベルのものが無いかを探した。


「キリムくんはそれが好きなのか、ふむ。好きな見た目は重要だ、でもこれじゃ君の命は長くは守れない」


「残念、かっこいいんだけどな」


「ワーフ、済まんがキリムは金を稼ぐために何も買わないという訳にはいかんのだ。5000マーニで買える装備はないのか」


「ん~、無い」


「鍛冶の神が認める基準を満たす装備を知りたいわけじゃない。程度ってものがあるだろ」


 初心者用として及第点のものを訊ねているのであって、決して逸品を探している訳ではない。


 そもそも逸品など駆け出しの旅人に売ってはくれない。ワーフは腕組みをしてう~んと3回唸った後、キリムが見つけた装備を手に取った。


「キリムくんが良いと思ったものも、悪くはないけど耐久性が足りない。パーティーを組んでいないのなら、打撃を受ける回数は普通の後衛の何倍にもなる。それじゃあこの軽鎧では足りない。ん~、どうしよう」


「金額としてはこれが限界だ。何がどう悪いかを教えてくれ、キリムがそれに納得できるかどうかだ」


「叩き方があと10回足りない、そんな感じだ。多分作った人の計算よりも材質が悪いんだよ。丁寧な仕事をしてるけど素材を選ぶ、性質を知る、強度を試す経験が圧倒的に足りない」


 つまり、新レーベルという謳い文句の実態は、新人の作品という事だ。


「単純に与えられた材料で今まで作ってきたんだろうね。でも、この布地と皮と鉄板の比率がいい、初心者が守られるべき攻撃をちゃんと分かってる」


 ワーフの説明を聞けば、確かに耐久度には不安が残る。しかしワーフは他の装備を薦める訳でもない。駄目じゃないけどと言うワーフにとって、この装備は「ギリギリ不合格」という事らしい。



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