Terminal-02(130)
ステアの申し出に対し、皆は瞬間移動とは何かを尋ねてくる。マーゴ達はジェランドに渡る際に経験したが、他の者はそうではない。
ステアは説明せずとも当日になれば分かると言ってそれ以上何も言わず、キリムが簡単に解説をして聞かせた。
「成る程、旅の効率が上がるな……クラムを召喚し続ける事の出来るキリム・ジジだからこそ出来るのだろうが」
「クラムにその気があればいつでもしてやるさ。ただの運び屋として呼び出されるならお断りだ。認めた者しか運ばん」
「それでも今回のように大勢で隠密に行動するには助かる。クラムステア、感謝申し上げます。さて、現地での行動についてはキタキからの船の中で行うとしよう。キタキでの情報収集の結果に応じて作戦も変わる。特に質問がないようならこれで……」
レッツォは暗くなってきたからと、打ち合わせを早々に切り上げようとする。それを止めたのはキリムだった。
「あの、どうしてもお伝えしたい事が」
「何だい」
「と、友達が、等級2の友人のパーティーが、エンシャントに渡っているんです」
「何だって!?」
レッツォの大声に驚き、解散する雰囲気になっていた者達が一斉に注目する。
「どういう事だ、教えろ!」
「えっと、召喚士はエンシャントへの渡航が禁止されているからって、俺以外の4人が数ヶ月前に船で……」
「それで、連絡は取れているのか!?」
「毎月手紙は届いているので無事だとは思います。あまり現地の様子は書けないようですけど」
マルス達は使いこなせる最上級の装備を使い、同レベルのパーティーよりは有利に戦える。ただ、現地の状況が分からずどこまで通用するのかは未知数だ。
レッツォは他にも旅人がいる可能性を考えるが、実際に帰って来た、現地を見てきたという話を一切聞いた事がなかった。
「救出班を編成し、合流させてもいい。クラムステアがいるのなら、一番近いキタキやノウイに送り届ける事も出来るだろう?」
「現地に出来ない理由が何もなければ、そうだろうな」
キリムは、もし現地が危ないようであれば、そうして貰えれば助かると返事をした。マルス達による現地での探索については、抽象的な表現の報告が多い。何処に何がある、何を見つけた、どんな危険がある等、エンシャントの実態が分かる内容が一切ないのだ。
いや、その唯一の内容がリビィの絵なのだが、この解読を試みるくらいなら、現地に直接赴いた方が早い。
「こっちからの手紙は? 届くのか?」
「はい、ちゃんと返事が書いてあります。警告のようにも受け取れる手紙もあったんですが、次来る手紙にどう書いてあるか」
「その手紙を後で見せて欲しい。他に現地に知人が居る者は個別に教えてくれ! 俺は明日1日、協会の戦斧士ギルドにいる」
* * * * * * * * *
2日後も良く晴れ、波も穏やかな絶好の旅立ち日和となった。コンクリートで固められたパバスの港では、船のマスト程の高さでウミネコが鳴き、地上ではおこぼれに預かりたい猫やネズミが行き交う。
だがエンシャント渡航組は船に乗らない。各地の町や村の警備に携わる者は、昨日の早朝にパバスを離れている。
キリム達の集合場所は、パバスの東、ユネスタ地区から門を出てすぐの平原だった。集合30分前にやってきたキリム達は、どうやら最後だったようだ。
「これで全員揃ったな」
「ごめんなさい! 早めに着いたつもりだったんですが」
「時間は守られている、問題ない。さて、これからまずはジェランドのフカに向かう! 旅客協会があるのはフカだけで、それ以降は連絡が取れないと考え、各々が……」
レッツォの有難い演説ならぬ訓話が始まるも、あまり聞いていない者が多い。特にそれはキリムと同じネクサスの者に多かった。
「やあ、こうやって一緒に行動出来る事が嬉しいよ。昨日はよく眠れたかい?」
「マーゴさん、こんにちは」
「若者は元気だもんねえ。あたしらはキタキで煎餅ば買うて、船でゆっくりするばい」
キリムは同じネクサスの面々と挨拶を交わし、当然のようにレッツォの話を聞いていない。
「ようキリム・ジジ。婆さんの相手より俺達と船の中回った方が楽しいぜ?」
「断る。俺とキリムは2人で散策する」
「えっと、とりあえずレッツォさんが何か言ってるみたいだけど」
「頑張ろうみたいな事言ってんだろう、まあ、そこそこでいいさ」
マーゴまでもが呑気だ。ベテランの余裕なのか、それとも協調性が無いのか、特攻ネクサスに指名されたキリム達は、どのネクサスよりも緊張感がない。
「という訳で、フカに着いた後は説明通りだ!」
「げっ、先ほど説明したって、何を?」
「向こうで一度飯でも食うんじゃねえの?」
「え、もしかして誰も聞いてない?」
老婆たちは一体何を? という顔で、ステアは話など全く興味が無く、キリムに構おうとするダーヤをけん制し続けている。
ニジアスタは自分が認めたキリムとの旅をひそかに嬉しがりニヤニヤしていて、リャーナはダーヤを落ち着かせようと必死だ。
マーゴに至っては前を向いてすらいない。
「ハァ、俺が聞いてるよ。フカからは徒歩で、キタキには3日も歩けば着くだろうって」
「よっ、デニース! エルフ族ってば耳がいいんだから!」
「クーン族の猫耳が勿体ねえぞお前ら……」
真剣に聞いていたはずのデニースまでもが、ダーヤ達のペースにはまってしまう。周囲の者達も大差ないが、説明が無駄だと分かると、レッツォは見せつけるようにため息をつき、ステアに瞬間移動を依頼する。
ステアはその後、ノーム、ディン、シルフ、ワーフを連れ、数回の往復で全員をフカの港まで運んだ。
あっと言う間の出来事に、皆が放心状態だ。
「本当だ、確かにここは……ジェランドだ」
「クラムが召喚主の許に駆け付けるのは、こうした移動を行っているからなのか」
召喚士のミゴットまで周囲をキョロキョロと見渡し、血をねだるノーム達の声にも上の空だ。
ジェランドの雲は空高く、広葉樹の鬱蒼とした森は大陸であまり見かけない光景だ。パバスの平原とは全く異なる光景にようやく頭が付いてきた頃、皆がそれぞれ「指示通り」に歩き始める。
もちろん、キリム達のネクサスはその指示を聞いていない。
「思うんだけどさあ、フカから船に乗ってもいいと思うんだよね。何でキタキに?」
「さあ。フカからだと目立つんじゃねえの? キタキって実質村だからな」
「あー、そういう大事なところを誰も聞いてないんだな……まあいい、行こうぜ。土産なら帰りに買えばいい」
「えっ……魚のひらき、買って行っちゃ駄目ですか?」
キリムは、港のすぐ脇で売っている青魚の開き干しから目が離せない。魚の開き干しはキリムの大好物であるにも関わらず、前回ジェランドに来た時は何も口にしていない。水1杯すら飲んでいないのだ。
キリムはどうしてもと頼み込み、急いで1軒の店に駆け込んだ。
木造家屋の店は左右に3つずつの引き戸を全開にし、広い玄関の土間の上に木箱を並べただけの店構えだった。藁を敷いた上にはびっしりと天日干しや燻製が並べてある。
「あの、一番大きくて、よく干されているのを1枚……あー、2枚下さい!」
「おや、旅人さんだか! 港が襲われでがら、旅人さんなあ受け入れの再開すだけれど、駆げ込んで買いにさ来でくれた旅人な、あんたがはずめてだ」
訛りの強いジェランド弁を何となくで理解したキリムは、2枚と言ったが、結局3種類の魚の天日干しを購入した。支払いを済ませ、耐油紙で巻いて貰っていると、ふいにキリムの装備の裾を引っ張られた。
「あっ!」
「やっぱり! あの強い兄ちゃんな!」
「おれのこと、覚えでるけ?」






