Terminal-01(129)
【Terminal】すばらしい明日のために
晴れ渡っていた青空が少しずつ朱色を帯びてきた頃、パバス市の北にある浜では、最後の1組のデル討伐隊遠征選抜が行われようとしていた。目の前には今までよりもやや大きめの檻が用意されている。
「キリム・ジジ、本当に1人でやるのか?」
「はい。ステアも一緒だし、大丈夫です」
キリムは他の者と組むことなく、ステアと2人だけで試験に挑むつもりだ。レッツォは心配そうに檻とキリム達を交互に見ては、スタートの合図を出せずにいる。
当落はその場で伝えられるらしく、見ればミゴットのパーティーも合格していた。もっとも、早速教えて貰った固有術でクラムディンを召喚したなら当然の結果だが。
「ま、まあ……危なければ俺達が助っ人に入る。頑張ってくれ」
「分かりました。それにしても、なんか檻が大きいですね。もしかして2匹入ってたり」
「あー、その、キラーベアーの数が足りなくてな。これは最後の余興で使おうと思っていた魔物なんだ。まあなんとかなるさ!」
そう告げると、レッツォは檻を覆っていた黒い布を取り払い、鍵を開けた。
「えー!? 全然違うじゃんこれ、何!?」
「見た事はあるが、名までは知らん」
現れた魔物に、旅人達は驚き、絶句していた。魔物はキラーベアーよりもはるかに大きく、そして長い。
それは15メルテ程はありそうな巨大な芋虫に見えた。乳白色の胴体は、蛇腹のように伸び縮みしている。
顔の部分は体の径と同じだけ開く大きな口があり、尖った小さな歯が無数に生えている。目や鼻は見当たらない。
「シーワームだ……」
旅人の誰かが魔物の正体を呟く。それと同時に、放たれたシーワームはキリムめがけて疣足を使って這い寄る。砂埃が舞う中、シーワームは下向きについた大きな口を開け、捕食の体勢を取った。
「ステア、いくよ!」
「この口の大きさでは噛みつきを防げない。防御はするな」
「分かった!」
キリムはファイアを唱えると、ステアと自身の双剣に炎を宿らせる。そして噛みつかんとするシーワームの頭部を避けると、体の左側面へと走る。
「双刃斬!」
飛び掛かって双剣を突き立てれば、そこから炎が回って身を焦がす。シーワームが痛みに体を振り始めると、今度はステアの攻撃が始まった。
「剣閃」
高速の斬撃と共に光の帯が放たれ、それが刃のようにシーワームの尾にあたる部分を寸断した。尾の部分には大きな棘があり、脅威になると判断したのだ。キリムは魔法、双剣技の両方を駆使し、シーワームを翻弄する。
だが、双剣士 (キリムは召喚士なのだが)という特性上、やはり動きの俊敏さ、華麗さは見せつけることが出来ても、強さを証明する決定打には欠けている。
何か凄いと言われるような事をやらなければ、新人の割によく動く程度の評価しか貰えない。
「まずいまずい、いくらステアが強くても、俺の見せ場がないと……ステア! 飛んで、俺を打ち返して!」
「どういう事だ!」
「風車を使う! 足場が欲しい!」
「……成る程、分かった、跳べ!」
シーワームが向きを変え、体をくねらせて押しつぶそうとしてくる中、キリムは足に気力を込めて砂浜から跳び上がった。教えられた通り、いつもより余計に気力を込めた事で、その高さは6、7メーテ程に達し、シーワームの胴体を見下ろせる位置に到達する。
「行け」
そのキリムよりもやや早めに跳んだステアは、空中で双剣の腹を平行に並べている。キリムは魔窟での戦いを思い出し、それを足場にする事で反動をつけ、威力を上げようと考えたのだ。
ステアの双剣に両足をつけ、キリムは足をばねのように曲げ、一気に蹴り出す。ステアの力ならキリムの脚力や衝撃に押し負ける事はない。咄嗟に思いついたコンビネーション技だが、2人の呼吸はピタリと合っていた。
「風車!」
キリムは斬りつける寸前で回転し、更に遠心力を付加する。そのままの勢いでシーワームを斬りつける寸前で、更に雷を放つサンダーボルトを両手に込めた。
しかし、シーワームは図体の割には俊敏で、風車を繰り出す前には顔を持ち上げて口を大きく開いていた。このままではシーワームの体内に飛び込む事になってしまう。
「すげえ技だ……けど、飲み込まれちまう!」
「坊やだけを見ていればそう思うだろうね」
キリムは無数の牙が近づいても動じない。ステアが攻撃を加えるのを待っているのだ。
「双刃斬」
隙を見せるシーワームの首を、ステアの強力な一撃が見舞う。その衝撃でシーワームの顔が砂に埋まった瞬間、キリムの刃が頭部を襲った。
パンパンに詰まった体は表皮が潰され、斬り裂かれる。それと共にまるで袋入りの食品が押しつぶされはみ出たような、不快な音と共に肉を撒き散らす。
ステア、キリムの2人によって斬り付けられたせいで、シーワームは首をもたげることが出来ない。この状態であれば覚えたての技を披露できる。もはや口を開けても襲い掛かれないシーワームの前に立つと、キリムは双剣を構えた。
「……熾焔斬!」
キリムは両手に持った双剣を体にひきつけて押し出す。残像がシーワームに斬りかかる寸前で、僅かな時間に溜めた力と気力を乗せ、手首のスナップと腕の押す力で一気に突き破るように斬り裂く。
シーワームに目はなく、本来ならば残像剣は必要ない。けれどキリムはどうしても覚えた技を試してみたかったのだろう。大きなシーワームの頭部が破裂し、僅かに痙攣していた胴体は弾力を失っていく。
固唾を飲んで見守っていた旅人達は、キリムの攻撃の双剣とは思えない威力に、言葉を失っていた。完全に倒し終わったと分かると、ようやくそれぞれが静かに呟き始める。
「シーワーム相手に1分……掛かってねえぞ」
「しかも実質1人。最後のあの技は何だ? 勝手に破裂したぞ」
「一瞬、手元の剣が増えたように見えた。その後急に破裂した……」
「驚いたのは、それをやったのがクラムステアじゃなく、あのガキの方って事だ」
戦闘を颯爽と終えたキリムは、シーワームの体に火を放ち、亡骸を焼却し始める。ただ、その気持ちはとても沈んでいた。
「……最悪、シーワームの体液まみれで臭いし、汚いし……」
「すまん、キラーベアーありきで技を教えた」
皆を驚かせる戦いをし、苦戦する様子もなく勝利を収めた。その点については望み通りだ。
だがキリムは紫色の体液を頭からまともに被ってしまった。とても嫌そうにその場を離れ、自身に水魔法のフラッドを何度も掛けると、装備を脱ぎ、乾く前にとシーワームの体液を落とし始めた。
「あー……すまない。シーワームを用意した俺達が悪かった。しかし見事だ、1人とクラムだけであっさり倒すとは! キリム・ジジは合格!」
レッツォが謝る中、キリムは悲しそうな声で有難うございますと応えた。
* * * * * * * * *
もうじき陽が暮れるという時刻になったが、エンシャントに渡航する者が決まり、各町の警備に回る者と別れてのガイダンスが始まった。
エンシャントに渡りたいとゴネるパーティーもあったが、エンシャントに渡った際、デルが待っているかは分からない。もしかすると、その隙に他の町を襲うかもしれない。全員を連れて行く訳にはいかないと説明すると、それぞれがおとなしく引き下がった。
エンシャント渡航組は、全員が合格したキリムの属するネクサス10名、その他に35名となった。合計で45名4つのネクサスに分かれ、もちろんミゴットもいる。
「出発は2日後の正午、パバス港とする。時間は掛かるが、ジェランドのキタキ港で一度下船し、直行便があるキタキで聞き込みを行う」
キリムはまた船旅、それも今度は大陸をぐるりと回り込む程の距離だと分かって意気消沈していた。自分だけはフカまで行き、北上してキタキまで歩かせて貰えないかと、我が侭を言えそうにはない。
そんな中、ステアはレッツォの計画を鼻で笑い、自らの力を貸すことを申し出た。
「俺が皆を運べばいいだろう。1度に5人程度が限界だが、他のクラムも手伝わせたならすぐに終わる」






