Pageant-10(128)
キリムはこの連合に参加し、他の旅人の戦いを見ているうちに、己の技量に不安を覚え始めていた。
威力という点ではカーズのおかげで格段に上がった。だが、キリムの動きは一からきちんと習ったものではない。おまけに多彩な攻撃手法を用いる訳でもない。
それは勿論当然の事だった。キリムは召喚士として武神を召喚したのであって、自身は双剣士でもなんでもないのだ。武器を手に他の者と遜色ない戦いをしている時点で、己の役割以上のことをやっている。
だが、キリムは自身への期待値がどれ程高いかも分かっていた。だからこそ不安になってしまう。
キリムは「規格外だ」「天才だ」などという噂が皆の中で膨らみ、実際の戦いを見られた時に「そうでもなかった」と思われるのが怖いのだ。
「ステア、俺って結構使える技少ないと思うんだけど、どう思う?」
「そうでもないさ。覚えている技を挙げてみろ」
「回転斬、双刃斬、風車、水平……斬り、逆袈裟斬り、双突剣、剣閃……」
「水平斬り、逆袈裟斬りは型の名であって技ではないな。1年で5つ習得しているのだから十分だと思え。しかし……そうだな、回転斬に気力の刃を乗せ、旋風刃斬に昇華させたなら威力は格段に上がる」
「あー、そうか。双剣自体の威力じゃなくて、気力をしっかり乗せないとね」
キリムは立ち上がってステアを伴い、皆から少し離れる。ステアに動きをチェックしてもらうつもりらしい。試験の直前になって不安になり、ギリギリまで暗記を粘る町の学生のようだ。
「双剣士自体が大きなダメージを狙う職じゃない分、攪乱して毒や麻痺みたいな攻撃をもっと使えるようになりたいな」
「俺は双剣の武神であって、双剣士という括りとは違う。双剣以外の毒や麻痺の薬を使う攻撃までは管轄外だ」
「あ、そっか」
キリムは自身の覚えている技を頭の中で並べていき、攻撃系と、補助系に分けていく。どれもまだまだ威力が上がる可能性はあるが、必殺技に昇華出来るものは1つも持っていない。
ステアもその点に気付いたのか、少し考え込む。そして自身が使える技の中から、キリムなら使えるだろうという技を幾つか選び、キリムへと提案した。
「試験の順番までまだ暫くあるな。1つくらいなら即席で覚えられるだろう。ちょっとついて来い」
「え、覚えられるかな」
「無理と思えば使わなければいい」
ステアはキリムに双剣を構えさせ、覚えている技を1つずつ披露させた。多少のふらつきがあり、剣で斬り込む際の角度の調整も必要だが、キリムの攻撃は技として概ね出来ている。
「双剣の技は溜めが少なく、どの技も威力に然程の違いはない。お前が使う中では剣閃や回転斬くらいか。風車に溜めを取り込むのがせいぜいだ」
「そういえば確かに、動作の勢いで斬りつけるだけっていう技が多いね」
「という事は、溜めを作れる技を増やさなければ、手数だけで強さは上がらんという事だ。同時に俊敏さが命の双剣士にとって、一番難しい課題でもある」
そもそも双剣士というスタイルは、自分1人で倒すことを想定していない。
ブリンクのように、陽動、妨害、毒などの状態異常など、他の攻撃職が確実に攻撃できるように補助する補佐として動く事が多い。その特性上、溜めが必要な一撃必殺には不向きであって、パーティーでこそ輝くと言える。
徐々に相手の体力を削る方法で戦うなら、長期戦になるが双剣士は都合がいい。ただしそれも1対1に限られ、討伐スピードが遅いが故に効率も悪い。
「溜めってことは、一度動きを止めることになるんだよね」
「足はともかく、腕はそうだな。剣は構えたままになる。その時間をいかに稼ぐかだ。お前ならどうする」
ステアはキリムに考える事を促す。
今までのキリムは、腕に力や気力を込めて斬りつければ威力が上がるという、脳まで筋肉で出来たような物理攻撃職もびっくりの思考をしていた。しばらく考え込みながら、キリムは思いついたことを挙げていく。
「一度離れる、陽動を挟む……」
「少し違う。陽動は正しいが動作をすると溜めにはならん」
「ん~、後は一度敵を止めるような技の後に出すとか」
ステアはキリムが口にした案に、それが正解だと告げた。つまりは足止めや目暗ましによって一瞬の隙を作り、その間を溜めに利用するのだ。
「技というものは制約があればあるほど強い。その溜めの次に、強力な技を使えばいい」
「強力な技って、例えばどんな技?」
「熾焔斬」
「しえんざん?」
「相手の急所を突くんだ。血があふれ出て焔のように真っ赤に染まっていく事から、その名がつけられた」
ステアは急所を突く動作をし、幾度か見せると、そこから剣をねじったり斬り上げたりを追加する。
「……えげつないね」
「これは元は長剣術だったが、双剣なら敵の懐に入ればその短い刃で突くことも、斬り付けることも出来る。今は双剣術の高度な技として確立されている」
「そうなんだ、ステアよく知ってるね」
「双剣を司るクラムの前で『よく知ってるね』は流石にどうかと思うが。この熾焔斬は敵の懐に入り込まなければならない。捨て身にも近い。確実性を上げるためにどうするか」
「だから足止めなんだね。でも、それだと溜めじゃなくて、懐に入っていく為の時間稼ぎにしかならないよね?」
「ああ。その時間稼ぎには残像の剣を使う。陽動だけではなくその間に技を重ねるんだ。頭の中で想像できるか」
ステアが双剣を交差させて構える。
そこからゆっくりと腕を伸ばし、手首のスナップと腕の押す力で一気に突き破る動作を繰り返しキリムに見せる。キリムはそれを見ながら自身も動きを真似し、10数回繰り返すと頷いた。
「動きは分かったな」
「うん」
「そこに気力を乗せる。残像剣に力は必要ない。気力は腕を高速で動かす事に使え」
ステアはそう言うと、ほんの一瞬で一連の動作をして見せた。キリムの目には、ステアの胸元に構えたままの双剣と、伸びきった腕に握られた双剣が両方とも見えている。
「えっ?」
「この残像自体は錯覚であって当たっても切れる事はない。残像が動作に追いつくまでの間に熾焔斬を放つ」
ステアは実際に残像剣と、次に熾焔斬を交互に見せる。あまりに早過ぎるそのその動きは、目で追う事すら難しい。
それでもキリムは技を繰り出すイメージをし、ステアの横で真似をする。ステアはキリムに合わせてゆっくりと動きを見せ、次第にその速度を上げていく。ステアに都度矯正されながら30分ひたすら繰り返していると、おおよその型が出来てきた。
「披露するだけならそれで十分だ。そもそも使える者の方が少ない」
「え、そうなの?」
「ああ。皆の前だ、少しくらい見栄を張りたかったのだろう」
ステアはキリムの不安を見抜いており、だからこそこの場でとびきりの技を教えたのだ。キリムは嬉しくなり思わず口元が緩む。
主であるキリムの考えや立場を理解し、最適解を与える。そんなステアの一貫した姿勢はキリムにとって心地が良かった。
「あー……うん。実は焦ってた。大したことないじゃんって言われたくなかった。それと最前線で戦うには実力を見せないと話にならない。捕える時も俺が捕えたい」
「他の者が言いつけ通り、本当に生け捕りするかは分からんからな」
「そこまで皆を信用してない訳じゃないけど」
「突き刺す、切り込む、そのまま貫くのではなく破る。忘れるな」
「うん。やってみせる」
キリムとステアは皆の許へと戻り、砂の上に座った。目の前ではブグスがキラーベアーの猛攻を防ぎ、老婆3人衆が飛行術で空を飛びながら魔法を放つ姿が見える。
こんな並外れた戦いの後では、普通の戦い方をしても目立てないだろう。けれどキリムの表情は苦笑いしながらも自信に満ちていた。






