Pageant-09(127)
ニジアスタが澄ましていると、マーゴが「よう」とキリムに声を掛ける。そしてニジアスタの頬をつねって言った。
「キリム君に気付いた時のあの嬉しそうな顔。気概があるとか何とか言って、キリム君の事を自分のように自慢してんだぜこいつ」
「なっ……!」
「ほらそこ! ……ったく、ダーヤ達のパーティーか。相変わらず落ち着きがねえ」
マーゴ達の仲の良さにキリムが思わず吹き出すと、レッツォがキリム達を注意する。もちろん、大人しくしていないのが悪いのだが……
「ちょっと! レッツォさん、俺の名前を出さないでくれよ! 悪いのはマーゴとニジアスタだ!」
名前を出されたダーヤが猛抗議をする。これから選抜されるというのに、まったくもって緊張感がない。レッツォはわざとらしくため息をつき、マーゴ達5人を手招きした。
周囲には黒い布を掛けられた大きな箱が幾つもある。中からは低く心臓まで響くような咆哮が聞こえる。試験課題となる討伐対象が入れられているのだろう。
「叱られるんですか?」
「さあ、どうだろうね」
「フン、キリムに絡んだ報いだ」
大剣を背中の鞘から抜き、リャーナがキリムに小さく手を振る。5人はレッツォの前に集まり、叱られるのか、それとも怒られるのかと覚悟していた。
「元気が良すぎて待てないらしいので、この5人から先に戦って貰う! さあ、5人以外は岩場まで下がってくれ。皆が相手にするのは……この魔物だ!」
黒い布が外され、頑丈そうな檻が現れる。
「げっ! こいつは!」
「よくもまあこれだけ捕まえたもんだ」
中にいるのは巨大で黒い熊のような魔物だった。ダーヤは尻尾をピンと立てて驚く。リアクションを起こさないが、同じくニジアスタの尻尾も逆立っていた。
「キラーベアーだな」
「ステア知ってるの?」
「攻撃はハイランドウーガとそう変わらないが、とにかく爪、噛みつき、突進、全てが脅威だ。1体を準備するのも大変なところ、レッツォ達は相当な腕前なのだろう」
ステアがキラーベアーの強さを認めた事で、キリムを恐怖が襲う。双剣の柄をギュッと握るキリムに気が付いたのか、ステアは悪巧みでもしているかのような笑みを浮かべた。
「お前が魔窟で相手したあの気味が悪いドラゴンよりも弱いさ。皆の腰を抜かしてやれ」
「キヒヒ、年寄りの腰は労わっておくれな、クラムさん」
「さぁ、あたしらも他のパーティーの動きば見て、実力を測るかね。坊やも自分だったらどうやるかをよく検証するんだよ」
「ヤチヨさん、レベッカさん……」
キリムが振り向くと、そこにはレベッカ、ヤチヨ、トルクの3人がいた。更に後方にはブグスの姿も見える。
「よう、キリム。元同じネクサスが揃ったわけだな。悪いが俺は1人だ、一緒に組んで……」
「あんたはあたしらの盾になんなさい。ほらお座り、おせんべいがあるよ」
どうやら緊張感がないのはキリムやマゴス達だけではなかったらしい。良く晴れた空に広がる砂浜。老婆達にとっては絶好のお茶日和だ。
「キリム、お前は双剣士がいるパーティーが現れたらよく見ておけ」
「分かった」
マーゴ達は檻から放たれた魔物を相手に、ダーヤを守るように陣形を整えて戦い始めた。
まずマーゴが盾を構えて体当たりをし、片手の剣で突き刺す動作をし、視界を盾で塞いで挑発する。その間にニジアスタとリャーナはキラーベアーの死角に移動し、それぞれがタイミングを合わせて武器を構えた。
「ダイブスパイク!」
「旋風……斬!」
ニジアスタが足をバネのように使い、砂の上で高く跳び上がった。キラーベアーの頭上で矛先を首へと定め、投擲でも行うのかと思うほど振りかぶる。
リャーナは低い姿勢で剣を大きく後ろに引いて溜めを作ってから、体を素早く回転させる。その剣筋は遠心力でキラーベアーの右半身を螺旋のように深く切り刻んだ。
同時にニジアスタの槍がキラーベアーの首の後ろを突き刺し、キラーベアーが痛みに体を仰け反らせる。
「あっ、キラーベアーが振り向く!」
痛みで蹲るようなら恐れられたりはしない。弱るどころかより攻撃は俊敏に、予測がし辛くなる。ただ、それで狼狽えるようなら上級者として失格だ。ダーヤはその動きを読み、リャーナへと補助魔法を掛けた。
「プロテクト! 来るぞ!」
キラーベアーはその体勢から溜めもなくリャーナを睨み、振り向きざまに拳を振り下ろす。リャーナはそれを目で追うと同時に、ダーヤから防御強化の魔法を掛けられたことで、自身が狙われる事も先読みしていた。足場が悪いながらバックステップで避け、キラーベアーの拳は砂飛沫を上げるだけに終わった。
「ふん、あのお耳の坊やは視野が広いね。それに戦闘をよく把握しとる」
「まるでリャーナさんが狙われると分かっていたみたいですね」
「キヒヒ、分かってたはずじゃろて。剣盾士は目の前を、攻撃手は1つ先を、治癒術士は2つ先を読んで戦わないけん」
「戦況を把握してパーティーに伝え、攻撃や回避に集中させる。治癒術士は誰かが傷付くまでボーっと待ってる仕事じゃないですよ」
キリムはレベッカ、ヤチヨ、トルクの3人に教えて貰いつつ、パーティーの動きの特徴を掴んでいく。魔物の状態は剣盾士のマーゴが叫んで伝え、どのような攻撃が来るか、どこが死角か等をダーヤが教える。
デニースはニジアスタとリャーナが近接攻撃をしている際には魔法を控え、攻撃で皆が防御体勢を取ったり、回避して離れた隙を狙って強力な魔法を放つ。
「相手する魔物が何であろうと、あんな風に皆がパーティーメンバーの動きを熟知し、如何にメンバーに攻撃させるかを考えている。上級者と言われる所以だな」
「ステアの目にもそう映るって事は、やっぱりマーゴさん達凄いんだ……ノウイで一瞬だけ一緒に戦ったけど、見てる余裕が無かったよ」
「竜槍!」
「地走り! ……からの、ブルクラッシュ!」
「サンダーボルト!」
ニジアスタが側面から飛び掛かり、槍でキラーベアーを突き刺す。その瞬間、まるで気力が竜のように湧き上がり、突き刺さった矛からキラーベアーの体内を抉っていく。戦いを見守っている者達にもそれがハッキリと分かった。
リャーナは大剣を砂地に剣先が付くほど低く構え、そこから一気にキラーベアーを斬り上げる。そこから今度は叩き潰すように剣を振り下ろした。
攻撃が終わると反撃を想定して飛び退く。デニースはその隙を見逃さない。
マーゴがキラーベアーを引きつけ、治癒術士のダーヤがカバーしてくれる。それを信頼して、3人の攻撃役が果敢に攻めていく。
「本当はもっと凄いぜ。マーゴさんは盾を使わずに、大剣を盾の代わりに使っていた時期もある。盾での打ち付けや長剣で間合いを取ってからの反撃もいいが、マーゴさんの大剣さばきは一緒にいるリャーナさんにも劣らない」
「そんなに凄い人達だったのか」
「俺も憧れていたからな」
ブグスがキリムにマーゴの動きを解説する。誰が何をしているのかを知れば、今後キリムもメンバーの事を考えた動きが出来る。
マーゴが盾で殴打した瞬間、キラーベアーに気力がベッタリ貼り付けられている事、魔物が視界を遮られることを嫌がる事など、基本的な事から面倒臭がらずに教えてくれ、出会った瞬間にあからさまにぶつけられた不信感が嘘のようだ。
これがブグスの本来の性格なのだろう。面倒見が良いところはマーゴに通じるものがあった。
「キヒヒ、もうあと何十秒も掛からんで終わるよ。ほら終わった」
キラーベアーが砂に沈み、動かなくなる。デニースが強力な炎の魔法で死骸を焼き始めると、旅人からは歓声が上がった。
陽気なダーヤが人差し指と中指をまっすぐに離して突き出し、他の指は曲げて手のひらは外に向けてサインを送る。平和や勝利を表す指サインだ。
「終わったー! お疲れ様俺たち!」
マーゴ達が戦闘を終えると、レッツォは2組ずつ試験を開始すると言い、パーティーの代表の名を1人ずつ読み上げ始めた。






