Pageant-07(125)
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レッツォの説明が一通り終わり、あとは志願者が選抜を受けるか、受けずに各町の警備を名乗り出るかを待つ段階になった。
だが、事前にそう説明されていなかったせいか、一度組んだはずのネクサスの中で、意見が割れ始めた。
「おい、俺達のパーティーは是が非でも行くぜ? 足を引っ張んなよ」
「これだけの人数がいるんだし、町の警備も必要よ! 私の故郷はスカイポートなの、また襲われたら壊滅だわ!」
「召喚士のいるパーティーで責任持って警備しろよ、俺達はデルを殺すために加入したんだ!」
当初よりやや人数が減ったというが、それでも250名程の集まりである。顔合わせをしただけの旅人同士が協調できるはずもない。レッツォもここまで対立を招くとは思っていなかったのだろう。
「お前らみたいな等級低い奴らが混ざってたら不利だ! おい、メンバー変えてくれ!」
そんな言い合いが始まり、これから共に戦うという結束が崩れ始めた時だった。
「おだまりひよっこ共!」
レベッカが静かに壇上に上がり、小柄な老婆とは思えない大声で皆を叱りつけた。その迫力でその場が一瞬にして無音となる。
「ここにはそれぞれが、色んな思いで集まっとる。故郷を既に潰された坊やも仇討ちに来とる。特にミスティの戦いを知らん者はおらんはず」
ミスティと聞いて、数名がキリムへと視線を向ける。何人かはまずいと思ったのだろう、視線を逸らして俯き、数人はキリムがいる事に驚いていた。
「一級の召喚士が何人も参加し、居合わせた旅人も戦った。辺境の村はね、それぞれが戦う術を身に着けとるの。それでも結果があのミスティの壊滅なんよ。今のあんたらの結束で何に勝つの? ん? 言うてみなさい」
レベッカの声だけが広い講堂に響く。この協調性に欠けた集団が己の強さだけを信じて勝てるなら、今頃とっくにデル討伐は成し得ている。レベッカから叱りつけられ、それぞれがその協調性のなさに気付いたようだ。
「何か、言う事はないんかね」
レベッカは再度皆に問いかける。すると、1人の弓術士の男が手を挙げた。
「だけどよ、ネクサス単位でって話になれば、行きたくても行けねえ高等級のパーティーも出てくるだろ。選抜するなら精鋭で行くのは当然だ」
「ふん、一理あるね」
レベッカは少し考えた後、レッツォに向き直り、身長差をものともせずに叱りつけた。
「あんた、状況が変わったんだからちっとは参加者の意見を聞きな。もう一度、町の警備に回りたいパーティーと、エンシャントに向かいたいパーティーを分けなさい」
「は、はい……分かりました」
流石に旅人等級10の元ギルド長に意見されたなら、口答えは出来ない。レッツォはネクサスを一度解散し、パーティー毎に希望を聞き、100名前後で島に渡ると告げた。
「それでは、エンシャント行きを志願する者は皆から見て右側に、町の警備を担ってくれる者は左に!」
そう言って戦力がどれほど残るかを確認し始めたレッツォを見ながら、キリムはどこか不安そうな顔をしていた。それに気付かないステアではない。
「どうした」
「いや……さっき、デルを殺す為に来たって声が聞こえて」
「それがどうした」
「俺は……やっぱり何故ミスティを襲ったのか、それを聞きたい。デルを倒してハイ終わりって、本当にそうなのかな」
ミスティに現れたのがデルであった事は、撮られた写真やデルと名乗った事などで間違いないとされている。デルはクラムが瞬間移動するように現れ、そして消えた。襲った理由を自ら語ってはない。
この場で最年少のキリムが意見しても、ベテランに聞き入れて貰えるとは思えない。
見かねたステアが代わりに壇上に向かおうとしたところで、講堂の後方にいた女性が手を挙げた。
「ちょっといいですか!」
その澄んだ声は大きくないもののよく通り、ざわめきも収まる。動きやすそうな膝丈の黄色いローブに茶色のブーツを履き、手にミスリル製の青いロッドを持った女性は壇上に立つと、レッツォに質問を投げかけた。
「私はミゴット・ネイシー。召喚士で等級6です」
「あれ……」
ミゴットが名乗り、キリムはハッと顔を上げる。おでこを出して真ん中で分けた黒髪に、小さく細い顔、勝気そうな眉、切れ長の目。その顔には見覚えがあった。
「私のパーティーは話し合いの結果、私の故郷、ミスティ村の警備に回る事にしました。全員等級6の私達は、精鋭とは言えません」
「おい、ミスティの召喚士だってよ」
「本当か、ミスティの……」
ミスティの召喚士は資質値の高い者が多い。そして村の規模が小さいせいで人数も少ない。毎年数名が旅人になる程度で、その取り合いも激しい事など誰もが知っている。
キリムはミゴットの事を知っていた。村でいつも一緒だった悪友にそっくりなその顔を忘れた事はない。
「キリム、どうした。知り合いか」
「俺の、村で大親友だった……ダニヤって奴の姉ちゃん。ウシ地区の同じ集落だった」
「……そうか。お前が夢で逢えたという例の少年だな」
キリムは久しぶりに村の外で同胞に会えた喜びと、死んだ友人への追憶で泣きそうな顔をしている。一方のミゴットはキリムの方を見ていない。ミゴットの位置からはキリムが何処にいるのか分からないのだろう。
「さっき、この部屋に入る前に志願者一覧を見たわ。キリム、いるんでしょ?」
ミゴットが講堂の中を見回す。キリムはステアを連れて壇上へ駆け上がった。
「ミゴット姉ちゃん……」
「キリム! ああ、見違えるほど立派になったわ。あんたとダニヤと、小さい頃はマルスくんも、いつも一緒だった。必ず参加していると信じてた」
キリムよりやや背の低いミゴットが、弟同然に接していたキリムを優しく抱擁する。互いに自然と涙が溢れ、その様子をみた者達は怪物だ天才だと言われるキリムも、まだ17歳の少年に過ぎない事を思い知っていた。
「噂には聞いてた。クラムステア、有難うございます。キリムを村から連れ出してくれたんですね」
「礼には及ばん。俺は主を見つけられた」
「何もかも終わった後、ダニヤのお墓を見た時は信じられなかった。村に帰ればいつだって会えると思っていたのに……」
「俺、ダニヤに後を託されたんだ。ダニヤの為にもデルを捕まえないと」
ミゴットは力強く頷き、人差し指で涙を拭う。そして旅人達に向き直って話を続けた。
「この連合がミスティの仇討ちの為の集まりではないと承知の上で、お願いがあります」
ミスティの惨劇を知らない者はおらず、この連合に並みならぬ思いがある事は誰もが察していた。キリムもミゴットも等級で言えばこの中で低い方に含まれるが、思いに水を差す者はいなかった。
「連合の動きを知り、ミスティ出身の旅人に声を掛けて回りました。作戦の決行の日時に合わせ、その仲間も含めて7パーティーがミスティの警備に当たります」
「30人ちょっとか、よくそんなに集まったな」
「少なく見積もっても7人は召喚士だろうから、剣盾士と治癒術士さえ数が揃えば、クラムを従えた最強集団だ」
思わず旅人達の口から驚きの言葉が漏れる。キリムはミゴットがそのような声掛けをしているとは知らなかった。キリムだけでなく、故郷を想う気持ちは他の者も変わらないのだ。
「私達は今度こそ、ミスティに何かあった際には自分達で守ります。だからキリムを私達の代表としてエンシャントに連れて行って下さい!」
ミゴットは頭を下げて頼み込む。等級や戦力としての線引きではなく、仇討ちとして向かわせて欲しいという事は、つまり特別扱いだ。
キリムは自分の為だと分かっていつつも、特別扱いだけはされたくなかった。
「あの!」
キリムは緊張しながらも、しっかりを前を向いた。
「お、俺がミスティ代表というのは、あくまでも戦力になったらで結構です。もちろん選抜に残る自信があります」
「キリム……」
ただ優しく穏やかだった少年が、1年と少しの間に随分と力強くなっている。ミゴットはその姿に弟のダニヤを重ねながら、優しく微笑んだ。






