Pageant-06(124)
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パバスを出てステアの家に泊まっていたキリムとステアは、翌日にはゴーンにあるエンキの工房を訪れていた。
「朝から悪いね」
「いいんだよ、装備のメンテナンスだろ」
「んー、装備は大丈夫。エンキどうしてるかなと思ったのと、マルス達からの手紙が届いてないかなって」
「この通り材料も豊富だし元気だ。ああ、手紙ならゴジェさんが転送してくれてるよ。先に読ませてもらったんだけど……分かんねえんだよな、やっぱり」
マルス達の手紙はゴジェがノウイで旅客協会に交渉し、キリム宛ての手紙だからとクラムヘルメスの便に載せてもらっていた。そのため、ノウイから3日でエンキの手元に届いていた。
手紙に書かれていたのは、エンシャントで無事に活動を続けている事、ただし旅客協会がないためクエリで稼ぐ事が出来ず、魔物から取った素材を商人に売ったり、キリムから渡された軍資金で食いつないでいる状況など、特に不可思議な点はなかった。
ただし、やはり今回もリビィの描いた絵は解釈が難しかった。
「リビィが描くエンシャント大陸の名物料理の絵……これはなんでしょう? だって。なんだろこのお皿? に載ってる黒い靴みたいなの」
「靴? 皿の上に? いや、これは靴だな。あの女、この絵心では呪符は作れんだろうな」
「あんまり上手くないよね。これじゃ何のことか分かんないよ……前回の絵の意味聞いた時も分かんなかった」
「あまりなどという域では無い、酷過ぎる」
ステアの遠慮のない言葉を聞きつつ、キリムはその料理という説明書きが無ければ、料理だとすら分からない絵に苦笑いをする。
前回、前々回と、リビィは強烈な絵を送ってきた。それはどちらも危険を告げる内容とは言い難く、見かねたエンキが何の絵だと書いて返事の手紙を送ると、
・町の外でキャンプしていたら怒られた。次やったら牢屋に入れられるらしい
・私の誕生日! だけどエンシャントにはケーキがない!
という意味だった。どちらも危険とは程遠いほのぼのエピソードである。
「何かあったらリビィが絵を描くって、決めたよね」
「っつうことは、何かあったんだろうけど……危険を知らせている内容ではなかったんだよな」
「何かあったらの意味、完全に間違ってるよね」
キリムは一体何を示しているのか全くわからない絵を見ながら考える。料理と言われてもおよそ料理とは思えない黒い塊は、正解を当てるには難易度が高い。
今までの例で言えば、どの絵も大したものではなかった。ただ、あまりにも分からないせいで気になって仕方がない。
キリムもエンキも、肉なのか野菜なのかさっぱり分からないと考えていると、一緒に覗き込んでいたステアがある事に気付いた。
「おい、料理と思われるものの横に並んでいるのはなんだ」
「これはリビィ達じゃないかな、遠近感どこに忘れてきたんだろ。人の形に見えるから。順番に並んでるように見える」
「それならばいくら絵が下手であろうと、テーブルについている様子や、自分たちの装備の特徴を描かないか」
「こんな暗号の解読なんてした事が無いよ。意味がない訳じゃないと思うけど、料理、人が並んでる……この横の棒はなんだろう」
真ん中におそらく料理、右側には人の列。そして左側には何か棒や上着のようなものが描かれている。やや乱雑にも見えるその絵の配置に意味があるとしたら、料理が何か以上に推理が難しい。
「武器……と服?」
「何故そんなものを描いている」
「賑やかや可愛さの演出ではないよね」
「ありえなくも無いが」
「この料理はなんでしょうって、これはサンの字だよね。サンが俺たちに何かを伝えようとしてリビィに描かせたとしたら」
「何故この絵で良いと指示を出したんだ」
「わかんないよ」
キリムは再度手紙を読み直しながら、文中に何かヒントが無いかと見ていく。そして少し手紙を離してみると、ある事に気付いた。
文章の最初の言葉が「デル」で始まる文章、その下の行は「旅人」、その下は「食べられる」、そして、次の行では「帰れない」という言葉が続いているのだ。
「生きて帰れないって意味? これ考え過ぎかな」
「どういう意味だ」
「文章の頭の言葉をいくつかつなげていくと、料理の絵の説明になってる気がするんだよね」
キリムの説明を聞きながら、ステアとエンキも手紙を確かめる。確かに、文章の頭の言葉を繋げると1つの文章になるようようにも読める。全ての行の最初を繋げて読むことが出来ると分かると、エンキは少し考え、手紙をキリムに渡した。
「これは、お前が加入した連合に報告した方が良いかもしれないぜ」
「うーん、確かにエンシャントの事を知ってるメンバーなら、何か分かるかも」
「集合の日に渡すとしよう」
エンキはそろそろ鍛冶に取り掛かると言い、キリムとステアは邪魔になると行けないと思って工房を後にした。ワーフもよく現れているようで、近頃は自分の製作を放り出してエンキを手伝っているのだという。
「さて、手続きせずに不法滞在になっちゃうから、誰かに見つかる前に」
「ああ。掴まれ」
キリムとステアはエンキの工房の前の路地から消え、クラムの洞窟へと戻った。
キリムは用心のためステアを召喚しており、写真に撮られることもない。キリムは使える能力は使おうと、3週間は気持ちを切り替えて存在感を消すことに務めた。
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3週間が経ち、2度ほどゼッファから情報提供を受けつつも、キリムとステアは身を潜めていた。夜はクラムの洞窟で、日中はパバスの北になる海沿いの廃村や、サスタウンの南にあった荒野の猟師小屋を基点にして魔物を狩ったり、技の特訓をしていた。
気力は以前よりも使いやすくなって。それどころか自分の斬撃にステアの力まで乗っているような感覚もある。今までステアの戦いっぷりを眺めながら、あんなふうになりたいと思っていたキリムの、理想の戦闘姿がそこにあった。
ステアの方も快調で、動きが目で追えない程素早く、攻撃は鋭い。斬られた魔物が気付かずに1,2秒動き続ける程だ。誰にも見せつけていない事が勿体ないくらいにその強さは残酷で美しかった。
「そろそろ行こうか。ステア、お願い」
キリムとステアは今、パバスのユネスタ地区の北の草原にいた。クラムの洞窟で水浴びをしたり、洗濯をしたりと身綺麗にすることはできる。けれど乾かすとなると時間が掛かる。火を使ってもいいが、その度に薪を用意するのは面倒だ。
よって、キリムはパバスの草原の真ん中に棒を2つ立て、ロープを2メルテほど張ったものに洗濯物を下げて乾かしていた。半袖の白いシャツに白い短パンのようなパンツ姿。ゴジェに叩き込まれたセンスが台無しだが、風は髪を撫でられる程度に爽やかで、開放感がある。
すっかり高くなった陽の下でまどろんでいたキリムは、装備や下着が乾いた事を確認すると、装備を着こみ、下着や服を鞄にしまう。
「分かった。掴まれ」
パバスの大陸側の門に瞬間移動をお願いすると、そのまま記帳を済ませ、旅客協会に向かった。中に入ると既に連合に加入している旅人が待機していて、キリムとステアは会議室の端の椅子にそっと座った。
「みなさん、ご静粛に願います! 私はレッツォ、戦斧士だ。ノウイで説明をした際にいた者には挨拶をしたが、今回の連合召集に応じてくれたこと、心より感謝する!」
レッツォは簡単にノウイでも語った内容を説明し、作戦の決行を告げた。
「エンシャントに着けば魔物の中に乗り込むことになる。しかし、最近召喚士ギルドが狙われているのではないかという情報も入った」
会場にはどよめきが起こる。その情報源はキリムだ。レッツォはゼッファから話を聞き、きちんと考えてくれていたのだ。
「ここにいる者が全員エンシャントに渡った場合、大陸が手薄になったと捉えられ、襲撃が開始される恐れもある。そのためエンシャントに渡るネクサスの選抜試験に落ちた者は、各町の警備に回って欲しい」
そう言って、レッツォは試験の内容の説明を始めた。






