Pageant-05(123)
「共通点……何かひっかかりますね」
「えっ」
「ジェランドのフカの町にある旅客協会は最近再開されたばかりですが、ノウイ、スカイポート、ジェランド、この3つに共通するもの、反対にベンガ、イーストウェイ、サスタウンに共通するものに心当たりは?」
「心当たりって……」
キリムはそれぞれの町で何をしたのかを考えていた。どの町も宿泊をし、それなりに知っているはずだが、共通点と言われると思い浮かばない。ステアにも促すが、ステアも共通するものは分からないらしい。
考えても出てこない様子を見て、ゼッファは答えを告げた。
「召喚士ギルドがあるか、ないかです」
「え?」
「正確に言うならば、駐在員の配置ではなく、ギルドとして開設されているかどうか、になります」
「イーストウェイなんかには、召喚士ギルドがないんですか?」
「ええ。旅をサポートする駐在員はいますけど、召喚士登録などは別の町に行かなければ出来ません」
キリムは旅客協会ならどこの町も同じだと思っており、駐在員しかいない町もある事を知らなかった。周辺人口が少なかったり、召喚士が殆どいない町などは需要がない。運営費削減のため、簡易的なサポートしかしないのだ。
「剣盾士、剣術士、治癒術士、攻撃術士のギルドはほぼ全ての町にあります。目指す者が多く、パーティーを組むのに必須だと言われている基本職ですからね。けれど召喚士ギルドは、この大陸ではパバスを入れて5か所、ジェランドを入れても6つの町しかギルドがありません」
「そのうち3つ、それにミスティ……召喚士が狙われている可能性がある」
「ええ。ただ召喚士や旅人のパーティーの入島を制限していた、ジェランドの考えは裏目に出ました。勿論、偶然召喚士ギルドを設置した町が襲われただけかもしれません」
落ち込みやすいキリムの性格を見抜いたのか、ゼッファはフォローする事も忘れない。デル戦で家族を失い、連れ出されるように旅に出た少年に、これ以上無用な絶望を味わって欲しくなかった。
その他、ゼッファは情報として連合の存在も知っていると告げた。デル討伐だけでなく、ノウイの魔窟に現れた強敵の手がかり調査の連合も作られているという。キリムがデル討伐連合に加入している事も調査済みだった。
「話せない事情は勿論知っていますから、記事にも書きません。これは旅人や各町や村の存続に関わる問題です。私は……注目されたいから記事を書くんじゃなくて、旅人になれない私が旅人と繋がれる、役に立てる唯一の手段だからです」
そう言うと、ゼッファは自らの旅人証を差し出した。
「ゼッファさん、旅人だったんですか?」
「半年だけ。と言ってももう6年も前の事です。半年で旅人だったなんて名乗れません」
旅人証の身分証明ページには、資格取り消しのスタンプが押されている。はく奪であれば旅人証は没収される。取り消しは自ら申し出る事が必要だ。
「やめちゃったんですね。あの、差支えなければ何故か教えてくれませんか」
「そうですね、私だけキリムさんに訊いてばかりじゃ不公平です。私はね、旅立って半年経った日の魔物との戦いで……パーティーは壊滅、発見された私も瀕死でした」
そう言うと、ゼッファは大事にしているという、1枚の写真をキリムに渡した。そこにはまだ幼さの残る顔立ちのゼッファ、屈託のない笑顔を見せる同年代の男女が写っていた。
真新しい装備に包まれ、希望に満ちている写真。5人全員で写ったのはこの写真だけなのだという。
「私は攻撃術士だったんです。助かるには輸血が必要だったと後から言われましたが、目が覚めた時にはもう魔力が失われていました」
「魔力が、新しい血で上書きされちゃったんですね」
「その通り。武器の扱いも習っていない、運動も苦手。魔力を失えば旅人として出来る事は何もない。仇討ちも叶わない。それでも何か出来ればと旅人情報誌の企画を打ち出して雑誌社に勤め始めました」
最後まで自分を守ろうとしてくれた剣盾士の男の子の顔が、今でも忘れられないという。その子が覆いかぶさってくれたおかげで、命を取り留めた。そんな話を聞きながら、キリムはミスティで孤児になった自分の境遇と重ねていた。
キリムは守られて生き残った苦しみを、痛い程分かっていた。誰かの役に立っていなければ潰れてしまいそうな気持ちになる。そんな後ろ向きな理由で前を向いて生きていく。ゼッファもそうやって生きてきた1人だった。
「ゼッファさん。お願いがあります。召喚士ギルドがある場所が襲撃されている可能性があると、各町に知らせて貰えませんか」
「私が? 懇意にしている旅客協会の支部なら幾つかありますが……」
キリムはゼッファを頼ることにした。旅人として活動していない者の方が、連絡役には都合がいい。
「どういう理屈か分からんが、キリムの動きはデルに筒抜けになっている。おびき寄せるため、召喚士ギルドがある土地を狙っているのではないか」
「だから俺が動き回ると、怪しまれる気がするんです。情報網を持っていて信用して頼れるのは、ゼッファさんだけなんです」
襲撃だけではない。スカイポート、ミスティまで逃げてきた馬車、どれも普通に冒険旅をしているだけでは遭遇しない事件だ。ジェランドでは海沿いの結界が破れたはずなのに、何故かハイランドウーガが現れた。
キリムとステアはそれが偶然とは考えていなかった。
「内通者……」
「その可能性はある」
キリムはハッとし、今まで出会った人々の顔を思い浮かべた。まさかその中に内通者がいるとは思えない。
「でも、そうだとしたらもっと強い魔物を仕向けるんじゃないかな」
「内通者がいるとすれば、私がキリムさんとこの会話をした事も、伏せなければなりませんね」
どれだけ考えても、推測の域を出ない。ただ、自分の行動が筒抜けになっているのであれば、連合で動くまでは身を潜める必要がある。
「ゼッファさん、事務所はパバスにあるのですか」
「ええ、そうですけど」
「報酬はお出しします。連合の集合期日まで、追加で俺が収集できない分の情報を集めていくれませんか。情報の受け取りは、またあの喫茶店で。今日が7日……来週の水曜日はいかがでしょうか」
「分かりました。魔物の出現や、各地の最新情報ですね」
ゼッファは力強く頷き、そしてノートを閉じた。長居は無用だ。キリムとステアは再びゼッファを連れてパバスに戻ると、ゼッファからの取材報酬を丁重にお断りし、人気のない路地裏で別れた。
* * * * * * * * *
「これからどうしようかな」
「しばらく俺の家で過ごせばいいだろう」
「そうなんだけどさ。今まで船にも乗ったし、町の入門手続きもしたし、旅客協会に寄ったら記帳もしてきた。俺の動きを辿ろうと思えばできるんだよね」
「ならば入門手続きをせずに町に行けばいい。俺が連れて行こう」
「そんなことしたら、不法滞在だよ」
キリムとステアはパバスの町の中で、結局宿を取ることなくブラブラと歩いていた。食事を摂った後はパバスの町を陸側に出て、足取りの痕跡を消そうと考えている。
自分が狙われているかもしれないというのは憶測だ。ただ、このパバスも召喚士ギルドがあり、キリムが訪れた痕跡も残ってしまった。
「ねえ、どうしてデルが魔物を仕向けたとしたら、もっと全力で来ないんだろう。ミスティだけ何故?」
「確かに、他の町は雑魚のような魔物が大群で押し寄せただけだな」
「俺さ、何だかおかしい気がするんだよね。町の壊滅を狙ってるんじゃなくて、まるで何か警告しているような」
強くてもハイランドウーガ程度、サハギンやダークウルフなど低等級の旅人でも立ち向かえる魔物を仕向ける意味などあるだろうか。
キリムはゼッファの情報とも合わせて、何か腑に落ちない点があると考えていた。
「そうだ、マルス達からの手紙! 明日はエンキの工房に行かない? リビィからヒントになる絵が届いているかも」






