Pageant-04(122)
ゼッファは、取材対象から面と向かって苦情を言われたことが無かったらしい。
「すみません、そんなつもりで撮った訳じゃないんです! 撮った写真は掲載するつもりもないです! もっとも、お2人の姿は写っていませんし、本人に許可を取らずに掲載なんてしません!」
ゼッファが必死で釈明する声に、思わず店員や客達が振り向く。この場でこれ以上話をすれば、迷惑をかけるどころか会話の内容まで筒抜けだ。
取材を断ってもいいが、せっかくマーゴやミミディアが推してくれているのに、格下のキリムが断るのは生意気にも思えた。店員や客の中にキリムを知る者がいたなら、揉めた上に断ったという噂が広まる事になる。
「あの、この場では話せない事が多すぎます。場所を移せませんか」
「場所を? それは構いませんが」
「キリム、どこへ行く」
キリムは少し考えた後、写真の件についての噂は雑誌に載せないように念押しする。そしてステアに耳打ちをした。
「ステアの家に。この話、知っている人がいる事自体、まずい気がしてきた。ゴジェさんや召喚士ギルドの人は俺の事をむやみに喋らない。だけど、それ以外の人がどこで聞いてるか分からない」
「分かった。召喚士ではない者を連れて行きたくはないが、やむを得ん」
キリムとステアは無言で席を立ち、ゼッファに手招きをした。そしてゼッファの分も支払いを済ませて店を出ると、人気のない路地に入った。
「目を瞑れ」
「え? あ、はい」
ここで言う通りにしなければ、今度こそ信用は地に落ちる。ゼッファは素直に目を瞑った。急にひんやりとした空気に満たされ、次にゼッファが目を開けた時、そこにあったのは小さな小屋のような家の室内だった。
「ここは……」
「多くは語れん。俺達の秘密が暴かれない安全な場所だと言っておく」
ステアの家は誰にも知られることがない。厳密に言えば洞窟の入り口はあり、物理的に到達不可能な訳ではないが、場所も知られていなければ、その奥にクラムの住処がある事も知られていない。
キリムはここが一番安全な場所と考えた。伝えなければここが洞窟の中だということも分からないだろう。
「質問には答えます。ただ、応じたのはパバスのあの喫茶店という事にして下さい」
「分かりました」
キリムとステアはベッドに腰かけ、ゼッファは椅子に座る。ランプの灯りに照らされた薄暗い部屋の中で、ゼッファは聞き取り用のノートを開いた。
キリムは目から炎という噂から不正疑惑まで、おおよその噂について全て説明をしていった。嘘は否定しつつ、トルク、レベッカ、ヤチヨの3人組に推薦を受けるまで、等級が5に上がる事は自分も知らなかった事など、出来る限り詳細に語った。
「有難うございました。読者からの質問は以上です。順番が逆になりましたが、キリムさんは何故旅人に?」
「それは……」
キリムはデルに襲われたミスティの話、そこから旅立てずにいた話などをした後、デルを捕まえたいという目標は伏せ、自由に世界を回りたいために、ステアと2人だけで旅をしていることにした。
デルを倒したいという旅人は多く、それ自体はなんら特別でもない。しかし召喚士であるキリムが明確に打倒デルを掲げたなら、デルに伝わった時にどうなるか分からない。そのため、キリムは連合に入った事も、連合が結成されている事も話さなかった。
「クラムステアに双剣の扱いを習っていたんですね。色々と有難うございました! しかし、写真を撮れないとなると、このインタビューそのものを疑う人も出て来そうです」
「そうですね、でもそれは俺達では何とも……」
ちゃんと写って下さいと言われても、どうしていいのか分からない。カーズの事もデル捕獲を考えるなら伏せておきたい。キリムはどう言い訳をしようかと悩んでいた。
「キリム、ちょっといいか」
「ん?」
ステアが立ち上がってキリムを呼び、部屋の端で腕を組む。何か考えがあるのだろうか。
「おい女。貴様はそこに座っていろ。少しでも動けばキリムの写真は生涯撮れないと思え」
「は、はいっ!」
「ステア、そういう脅しみたいな事は……印象良くないよ」
「興味はない。考えたんだが、俺を召喚している事が関係してはいないか」
「えっ?」
キリムは自分がカーズとなった後、ステアを召喚士ギルドで召喚した時を思い返していた。
ステアの力や思いが体中を駆け巡る感覚は、確かにキリムに変化をもたらしていた。その変化はステアにも表れ、元々クラムであるにも関わらず、実体で写真に撮る事ができなくなっている。
カーズは解消できないが、召喚の解除は試すことが出来る。
「クラム化している事が理由なら、ステアも写らないってのはおかしいよね。カーズになって、召喚した事で変化が起きているのかも。やってみる」
キリムが召喚を解除すると、周辺の空気が僅かに振動し、長いゼッファの三つ編みが揺れる。何が起こったのか分からないゼッファに、キリムは写真を撮って欲しいと頼んだ。
「分かりました。では、お2人で1枚、そして私を入れて3人で1枚」
「はい、お願いします」
ゼッファはまず1枚、念の為と言ってもう1回シャッターを押した。出てきた写真には少々顔は固いものの、キリムとステアの姿が写っていた。
「えっ!? 写ってる……どうして」
「いや、本当なら写っている方が普通なんですけど」
「そ、そうですよね。私、また写らないかもと思っていたのでつい」
「俺の力が作用していたらしい。俺が霊力を制御していれば写る」
ゼッファは霊力の制御とは何かを訊きだそうと思ったが、真相は教えて貰えないのだろうと追及を諦めた。今度はタイマーをセットし、自身もキリムの左隣りに並ぶ。
周囲に場所を特定できるようなものはなく、写っているのは壁と玄関扉のみ。それでもパバスで撮ったと言えば、場所を調べようとする者も現れるはずだ。ゼッファは撮影用にセットを用意した事にし、インタビューの終わりを伝えた。
「有難うございました。微力ながらキリムさんへの誤解や悪意ある噂をなくすお手伝いが出来るよう、良い記事にしてみせます」
「はい。宜しくお願いします」
ゼッファは無事に終わったとホッとしつつ、せっかくだからとキリムに尋ねた。
「キリムさんから、逆に何か質問はありますか? その、私は仕事柄旅人の事にも詳しいですし」
「そうですね……魔物の出現情報なんかは」
「任せて下さい、得意分野です!」
ゼッファはニッコリ笑って両手の拳を握り、何でも聞いて欲しいと自信満々に構える。キリムはそれならばと、ミスティ、ジェランド、他にも町が襲撃されるようなケースがあったのか、もしあれば共通点は何かを尋ねた。
「ただの魔物の襲来なら各地に。しかし、原因不明のものはデル戦と言われたミスティ、ジェランド、ノウイ、昨日はスカイポート……」
「えっ、ノウイとスカイポート!?」
「ええ。あ、心配はいりませんよ! 4日程前にノウイが襲われましたが、ベテランの旅人が多く、撃退に成功しています。スカイポートはあなたが訪れたと聞きつけた旅人が、運良く何組も滞在していてなんとか」
キリムはゼッファの話を聞き、嫌な予感がしていた。ジェランドを除けば、どこも自分が立ち寄った場所だ。
「イーストウェイは、ゴーンは……ベンガは? サスタウンは!?」
「イーストウェイは厳戒態勢を布いています。ゴーンとベンガは警戒のみですが、結界は大陸一ですから大丈夫かと。サスタウンは情報がありません」
「キリムが滞在している場所は、もしかするとデルに知られているのか」
「全部デルが狙ってるって事? 共通点は……まさか、俺?」
キリムは自分が各地の不幸を招いたのではないかと、顔色が真っ青になった。自分がデルに狙われているとしたら、これ以上町や村に迷惑を掛けられない。
そんな絶望を感じていたキリムを救ったのは、情報通を自負するゼッファの言葉だった。






