表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【Pageant】悪は正すべきか、滅するものか

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/274

Pageant-02(120)


 クラムは人を傷つけたりはしない。もっとも、召喚主が危害を加えられたなら話は別だが……その点、キリムはステアの事を信用していた。


 ただステアは明らかに苛々していて、女性を怒鳴りつけるくらいの事はしかねない状況だ。


「あの……どうかしましたか」


「あ、すみません! この方、間違いない、絶対にあのクラムステアです! ……って、まさかキリム・ジジさん!?」


 女性はキリムよりも何歳か年上に見えた。赤い天然パーマの三つ編み、くるくるした前髪が動作の度にふわふわと揺れる。そばかすの消えていない垢ぬけない顔は人懐っこく、白と赤のチェック柄のブラウスに赤いスカート、足には黒いブーツを履いている。


 お洒落だがどこか素朴で優しい雰囲気だ。


 キリムが不審そうに女性に視線を向けていると、女性は慌てて直立し、そして腰を75度程に折ってお辞儀をした。


「あ、あの! わ、私は旅人フリークの記者をやっています、ゼッファ、ゼッファ・レイディという者です!」


「旅人フリーク……何か聞いた事がある。何だっけ、フリーク屋さんって……どこで聞いたんだっけ。フリークって、何だっけ」


「知らん」


 どこかで聞いたと思いながらも、キリムはそれが思い出せない。フリークという言葉の意味を理解しておらず、キリムの頭の中では服や野菜が浮かんでは消えていく。


 女性はガッカリしたようにため息をつくと、肩から下げた黒い鞄から1冊の本を取り出し、キリムに見せた。


「あっ」


「これは、サスタウンで旅人から貰った例の情報誌だな」


「うん、マーゴさん達や、ミミディアさんが載っていたよ」


「良かった、ご存じでしたか!」


 ゼッファは人懐っこい顔でニッコリ笑い、そして何を言っても返事すら期待できないステアではなく、キリムへと縋るように頼み込む。


「お願いします! 次回号でキリムさんとクラムステアの特集を組ませて下さい! インタビューをさせていただけませんか!」


「えっ……」


 キリムは自分が取材を申し込まれるとは思ってもいなかったようだ。


 勿論、日頃から自分を過小評価し過ぎると言われているため、思っているよりも有力視されているのかもしれないとは思っている。しかし、まさか特集を組まれ、マーゴ達に肩を並べるような存在になっているとは考えてもいない。


「だって、マーゴさんやリャーナさんは旅人が憧れる強い人たちで、ミミディアさんもその次の世代の筆頭格ですよね。そんな凄い人みたいに書かれるのはちょっと……」


 キリムはとんでもないと大げさに両手を交差させて断る。記者として諦める訳にいかないと考えたのか、それともキリムがインタビュー自体を嫌がっている訳ではないと悟ったのか、ゼッファは鞄から更に1冊の旅人フリークを取り出した。


「すみません、私も編集長から機会があれば何としてでもキリムさんのインタビューを取って来い! と言われておりまして。これを見てから、それでも相応しくないと思われるなら仕方がありません。諦めます」


 ゼッファは今月末に発行されるという最新号のページを開き、そして円や線や棒で表されたグラフを指さした。


「これは、うちの雑誌の独自調査の結果です。先々月号でアンケートを取っていたのを御存じですか?」


「マーゴさん達がインタビューを受けていた月のですよね。確か、昨年の活動で気になった人物、驚きの発見……とか」


「そうです。あの……情報誌の中身が事前に知られてしまえば売り上げに響きますから、出来れば旅人の多い協会の前ではなく、場所を移させていただけませんか」


 協会前は人の行き来が多く、メイン客層の旅人が最も集まる場所でもある。キリムやゼッファが話す内容が外に漏れてしまえば売り上げにも響く。


 キリムはインタビューを受けると決めたわけではないが、聞きかけたアンケートの結果が気になり、近くの喫茶店に入ることにした。


「支払いは私がしますので。好きな物を頼んで下さい」


「えっ」


「大丈夫ですよ、頼んだからって強制的に取材を承諾させたりしません」


 キリムはお言葉に甘えてと頭を下げ、珈琲とチョコレートケーキをお願いする。


「ステアは?」


「ビール」


「いや、無いんだけど」


 メニューを見もせずにビールを頼むステアに苦笑いし、キリムはステアの分も珈琲をお願いした。ゼッファは店員にオーダーし、赤いレンガが剥き出しの店内の、落ち着いた明るさの照明の下で雑誌を広げた。


「この場合、この女はカレシでもカノジョでもないのだな」


「えっ? うん」


「そうか、年長者でもないのに、新しいルールだな」


 ゼッファは2人の会話に首を傾げつつも、身を乗り出すようにして黒い木製テーブルの上に広げた雑誌を丁寧に捲っていく。


「ここです。もう少し読んでいただけると載っていると思うのですが、あなたの名前が何度も出てくるんです」


「俺の名前ですか?」


「はい。皆があなたのことを高く評価しているようで、『召喚士キリム』を特集してほしいという要望が事務所に沢山届いています」


「高く評価している者は良く分かっているな。俺は誇らしい」


 ステアはふんぞり返って腕を組み、キリムの評判に満足気だ。一方のキリムはそんなにも評価が上がるような事をした覚えがない。


 もっとも、連合に加入した時点で一気に等級5に上がるなど、目立つことはあった。ただ、その3か月ほど前には面と向かって非難されたり、陰口を叩かれてもいたのだ。


 襲われたジェランドを救ったのは最近であり、アンケートを取った時期よりももっと後である。そう考えると、急に等級が上がった事で、さらに嫉妬や不正疑惑なども増していた可能性だってある。


 僅か数か月で、その評判がひっくり返る事などあるだろうか。


「あの……何故、みんな俺の事を知っているんでしょうか。知っていたとして、どうして認めてくれるんでしょうか」


 キリムがそう思うのは至極当然だった。ゼッファはその答えをちゃんと分かっていたようだ。


「アンケートだけでなく、色々なご意見が寄せられていますからね。実際に戦う所を見たり、助けて貰ったり……」


 手元にはないというが、スカイポートでの戦いっぷり、魔窟での探索スピード、連合への加入、旅人1年目での推薦による5等級昇格など、数々の声が届いているという。


 メーガンやアデルゲイトのパーティー、ジェランドでも会った召喚士のケイナ、それにマーゴ達、そしてトルク、レベッカ、ヤチヨ……特に実際にキリムに会ったベテラン、中堅の旅人が支持し、ミミディアのようにキリムの悪い噂を払拭してくれる者もいる。


 連合でネクサスを組むことになったブグスのように、態度が悪かったとしても、実際にキリムと出会った事で考えを改めた者もいる。勿論、全員が全員ではないだろうが。


「この際だから言っておきますが、もちろん全部が好意的な意見という訳ではありません。不正をしているはずだから調査をしてくれ、という依頼も数件ありました」


「やっぱり」


「ただ、私達が重要視したのは、やはりキリムさんと実際に会った方々ですね。電話調査ではゴーンの武具店の店主さん、各町の旅客協会の職員の方、あなたを知る人が揃っていい子だと言うんです。噂を検証しようとしたら私がとんでもない大馬鹿者扱いされちゃいました」


 そう言って舌を出して見せるゼッファの前に珈琲が置かれる。キリムとステアの前にもそれぞれ置かれ、どうぞと言われると、ステアが迷わず熱い珈琲を一気に飲み干した。


「味わおうよ」


「十分味わっている」


「そう……ならいいけど」


 ゼッファは驚いて目をまんまるにして、それから咳ばらいをした。


「という事で、あなたに注目する人は大勢いるんです。まだまだ独り歩きしている噂もあるでしょう。ご自身の口で、それを払拭して真実を語るつもりはありませんか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ