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「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey  作者: 桜良 壽ノ丞
【Outbreak】守り、守られる者たちへ

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Outbreak-10(099)



 ステアがゴジェの店に戻ると、エンキとワーフも戻っていた。ディンとワーフで手分けをし、旅人達をノウイやゴーンに送り届けたという。


「戻ったか。報告がてら寄ったら、キリムがまだ目覚めてねえって言うから」


「ああ。キリムは体力が低いのではなく、回復が著しく遅い可能性があると言われた」


「あらやだ、何だか大変な体質ね。それでよくここまで戦ってきたものだわ」


 ゴジェ達はキリムが目覚めない原因について、まさかキリムがあるべき主従の影響が出ているせいだとは思ってもいない。ワーフもまた、クラムとして心当たりが有るわけでもなく、首を傾げている。


「キリムの自己治癒能力の低さは、俺達があるべき主従であることが理由ではないか、そう言われた」


「えっ? 真の主だとかクラムだとかって話は何度か聞いたけど、あるべき主従自体はキリムくんに何か良くないものじゃなかったかと」


「そう、そうよね。クラムステアが不調になった話は聞いたけれど、キリムちゃんは特に何も……」


「クラムにしか影響が出ないと思っていたが、俺を使役することで、キリムの体にも変化が起きているのではないか。情けない話だが、その可能性を全く考えていなかった」


 影響が事実だったとして、ではなぜ自己治癒能力が下がったのか。


 誰も正解を知らない問題について、ワーフとエンキも交えて色々と意見を交わす。クラム側は現在カーズとなっているクラムメルリトの事を語り、人側は気力や霊力、召喚について思ったことを語る。


 その中で、ふとエンキが気になる点を挙げた。


「召喚されずに戦うと、ステアの調子が悪くなるんだよな? ステアが召喚されずに戦った時、キリムの方はステアから影響を受ける理由がねえ」


「おいら達を召喚しない状態が駄目だったら、召喚士はくたびれちゃうだけで可哀想だよ」


「召喚されないとクラムは血を貰っても弱る、そして召喚士は問題なし。召喚したらクラムは血を貰って元気になる。召喚士は……」


「俺を召喚することで、キリムの自己治癒力が下がるとでも? そんな馬鹿な」


 エンキが投げかけた疑問は、キリムの状態に対するヒントになるかと思われた。だが何かが欠けているのか、こじつけにしか聞こえない。


 ステアを召喚することで、なぜ自己治癒力が下がるのか。そもそも本当に召喚することが影響しているのか。


「クラムステアは、召喚されて血を飲まないと……キリムちゃんは召喚して血をあげると……」


「あ、あっ! それですゴジェさん!」


 ミサがゴジェの呟きで何かを閃き、ゴジェの腕をゆすって自分の意見を伝える。


「私の勝手な推測ですけど、キリム君はクラムステアから、逆に何かをしてもらわなくちゃいけないんじゃないかなって」


「ステアから何かをしてもらう……あっ!」


 ミサはその何かが分かった訳ではない。その何かに一番早くたどり着いたのはエンキだった。


「おい、ステア。あんた、答え分かったよな」


 エンキの問いに対し、ステアはそうであって欲しくないという願望を込めて呟く。


「……まさか、俺の血を与えていないことで、キリムが弱っていると」


「今のところ能力的な問題は何もないとして、自己治癒できないって事は、本人の生命力が弱っているのね! クラムの血をキリムちゃんの体が求めているのかも」


 あくまでも仮定でしかない。まだこじつけの域を出ず断定はできない。しかし、ステアと同様、キリムも何らかの原因で弱っていると考えるのは自然だ。


「カーズに抵抗する事、それ自体がまずいってことか」


「それじゃあ、キリムくんにとっての期限はそう長く残されていないかもしれないね。ステアはどうするんだい?」


「俺はキリムの血しか受け付けない。だがキリムは俺以外を召喚することが出来る。血を与える事ができる。キリムに何が起こっているか、今の段階で断定することは……」


「最近試した?」


 ステアが他のクラムの召喚を許したことなど何度もない。ステアと出会って以降、唯一あったのはスカイポートでの戦いだけだ。


「試してはいない。起きてから確認させるが……頼む、まだキリムの成長を止める訳にはいかないんだ」


 もしも召喚出来なくなっていたなら、キリム側にも影響が出ている事がハッキリしてしまう。ステアはまだそれを知りたくないようだ。


「そうか! 今の状態って、カーズを拒否していると同じような状況なんだよな。互いにそれが良いはずねえんだ」


「とすると、キリム君の体はクラムの血に飢えているんだね。ただ人には元々血への欲求がない。だから行動として表面化しなかったのかな」


 ステアは召喚士ギルドで言われたことを思い出していた。準備が出来ている、言い換えればこれ以上長引かせることが出来ないという事。


「準備が出来ている……」


「なあ。元々あるべきって事は、2人が望まない状態にはならねえんだよな」


「それに抗ってしまったのがメルリト達……って事だね。彼の場合、主は血を与えられても目覚めなかったんだ。遅すぎたのかもしれない」


「もしかしたら、もうキリムはステアが理想とする姿に到達しているんじゃねえの?」


 キリムは出会った時に比べ、格段に強くなった。ステアの見様見真似、気力の制御方法の習得、筋力、それらは完ぺきとは言えないまでも、後は圧倒的に足りない経験で補える。


 いや、むしろ足りないのは経験だけであり、それはこれから幾らでも積める。だとすれば、長引かせる事は無意味だ。


「そうか、そうだったのか! 俺にとっての理想なんだ。キリムにとっての理想なのではない、どうして俺達はそこに気付かなかった」


 ステアが珍しく語気を荒げ、頭を抱えた。ステアが何に気付いたのか、ゴジェとミサは首を傾げる。


「いいか。キリムは今、自分の理想を追い求めている。しかし俺にとっての理想の主は、キリムが描くキリム自身と必ずしも一致しない」


「ステアの理想から、遠ざかろうとしている……」


「クラムステアの理想から外れてしまえば、ステアを繋ぎとめるのに多くの力を使わなくちゃいけないのかもしれませんね」


「成る程、ステアは最初からキリムくんの理想が生み出したものだ。そこに何かありそうだね!」


 それが正しい解だと教えてくれる者はいない。キリムが本当にステアの理想の状態にあるのか、それはステアにも分からない。


 だが、ステアは今日ここで繰り広げた話が突破口になるような気がしていた。自分が理想とする主とはどのような者なのか。


 自分はキリムに何を求めているのか。


「俺はキリムの理想である自信がある。俺はキリムに何を求めている……」


「おいらなら、一緒に鍛冶をしてくれる弟子が欲しい! 一緒に上手くなって、いろんな物を作って、試して、ちょびっと尊敬されながら暮らすんだ」


「いいですね。俺もそうやってワーフ様と鍛冶を続けられたらいいんですが。ちょっとキリムが羨ましいと思う事もあるんです」


「それだ、ワーフ、良い事を言った」


 ワーフの何気ない言葉に、ステアは自身が求める主が何かを悟った。それは今までの旅の中で、いつも感じていたありふれたものだった。


「俺は完璧な主に跪きたいのではない。少々頼りなくとも、主にかしずく事を望んでいた。俺は戦力として求められたいわけではない。主の標となり、主を育て、共に歩みたい。それはまさに今の俺とキリムの姿だ」


「カーズになるため、そうやって互いの理想が何なのか、認識を合わせる必要があったのかもしれねえな」


「ああ。キリムは最初から俺の理想だったんだ」


 キリムが目覚めたら何と言おうか。ステアにとって嬉しい事でも、キリムにとっては残酷な告知。ステアは掛けるべき言葉をまだ選べずにいた。

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