番外編 ナルガ・ラインズオスについて
ナルガがちょっと酷い人になってます。こんな人になっちゃったのねと思ってみてやったください。
俺はナルガ・ラインズオス。ラインズオス伯爵家の長男という立場にある。まあ、俺は継いでも継がなくてもいいんだけどねぇ。何故こんなに楽観的なのかというと、ラインズオス家の特色にある。ラインズオス家はあまり自己主張というか権力に興味を持たず、自分にある才能を磨くことに重きをおいている。だから俺の父も長男だからという理由だけで当主の座に就いてはいるけど、実質取り仕切っているのは母だったりする。ではここで我が家の紹介をしようかな。我がラインズオス家はこの国でも有名な芸術肌の一族だ。血が濃ければ濃いほどその才能は溢れ歴史に名を残す。現に俺の父も舞台などで現役で活躍している。息子の俺から見ても年齢不詳の見た目で世の女性を虜にしている。ちなみに母は嫁いできた人だから特になにかの才能があるわけではないけど、父並みに年齢不詳でその美貌は枯れることなく今でも華開いている。あと愛する弟と妹はそれぞれどこかしらに両親の特徴を引いていて弟は絵を、妹は詩を得意としている。
そして両親に恵まれた(容姿的な意味で)俺はまさに神の奇跡だそうで、産まれたときから大層可愛らしかったそうだ。後から産まれた弟と妹も大層可愛いけど2人の親の遺伝子を上手く組み込めたのはどうやら俺だけだったようだ。そして才能・・・俺には音楽関係が相性がいいらしく、どんな楽器も一通り操ることができ更に俺の声はまるで人を惑わすローレライのようだと言われた。そんな俺は7歳の頃から王宮で歌っていた。この見た目と歌声を王妃様が気に入り特別に出入りさせてもらっていたんだ。
この頃は楽器を演奏することも歌うことも純粋に楽しかったと思う。それが変わったのは10歳くらいだろうか。幼い顔つきから少し大人びた雰囲気に変わりだした俺に、ある貴族の奥方が邪な気持ちを抱いたのだ。別室に連れ込まれ性的な悪戯をされた。拒否したかったけど相手は侯爵家、下手に怒らせれば家族に迷惑をかけてしまう(今思えば決してそんなことはなかった)。俺は心を殺してその苦行に耐えた。俺のまだ幼さの残る身体に欲情する女が満足するように、こちらもその気だと思わせたんだ。この日から俺の日常は変わった。王宮や貴族邸で歌や楽器を披露した後は、欲を持て余した奥方達へ身体の奉仕をする。相手を悦ばさればこちらにもそれなりの見返りはある。嫌々だったものが次第に一つの遊びのような感覚になっていった。まあ、俺も思春期に入り一人前に欲を抱えるようになっていたからそれを発散できるいい場所だと考えるようになったのもあるんだけどね。お互い避妊さえ気を付ければいいだけだ。どちらもそれは望んでいないからね。これはただのお遊び。気持ちよければそれでいい。たまに本気になる人がいて困ったけどね。女同士の修羅場なんてものもあったかな。醜い争いを眼前でやられて、さらに女性への期待は減っていった。ああ、最初に侯爵家の奥方に半ば犯されたときから、俺の女性像はがらっと崩れたよ。母の賢母っぷりを見ていたから基準が高かったのかもしれないけど、現実はこんなものだったんだって落差が大きかったな。てか父も若い頃はそうとうな放蕩者であちこちの奥方を性的な面でも虜にしていたらしいけど(この快楽主義は父譲りかもしれない)母に出会ってからは母一直線。当時から賢妻ぷりを発揮した母は公私ともに父を満足させたそうな。だから今でも熱烈な求愛を受ける父だが母以外にはもう欲情せず綺麗にあしらうのが常なのだそうだ。いいねぇ、こんな母のような奥さん俺も欲しいよ。
そして月日は流れ、俺も学校へ通う年齢になった。学校へ通いだした頃から女性のお相手は減ったかな。まあ昼は学校、夜は鍛練や演奏会などでそこに体を使うのが勿体なかったんだけどね。あと珍しいものを見つけたから。アリッサ・ディストリーという子爵家令嬢はその欲を隠すことなくひたすらに男漁りをしていた(本人は綺麗に隠してるつもりだったけど)。男が喜びそうなことをつらつらと並べては満足げにしている姿は見てて面白かった。勿論アリッサは俺のところにもやってきた。家柄ではアルフォード・キリングブレッドには叶わなかったけど俺には彼に勝る美貌と音楽の才能があったからね。ちょっと摘まみ食いでもしたいんだろうね。勿論俺はその誘いに乗ったよ?楽しそうだったからね。
アリッサ自体はまあまあ好きだよ。顔も可愛いし養子ではあるけど子爵家令嬢だしね。だけど結婚には向いていないよね。さすがの俺でも誰にでも尻尾を振るアリッサをお嫁さんにする勇気はないよ。誰とも分からない子供を貴方の子供よとか言われたくないし。まあいい遊び相手としては適しているかもね。だけどさすがにあれはだめでしょ。まさかクラリーチェ・アストロフを階段から突き落とそうなんて馬鹿なこと考えるよね。俺が止めなかったら主に弟君から生き地獄へご招待だったんだよ?まあ弟君がこわーいこと言って脅したからもう変なことはしないだろうけどね。
「てことでロッシュ、君も姫君争奪戦に参加しなよ」
「どこから話が飛んだのか分からないですが脈絡が無さすぎです。貴方は阿呆ですか」
ここ最近でとっても仲良くなったロッシュに会いに図書室へ健気に通っている俺って結構乙女だよね。ロッシュは種類は違うけど打ち込むということにおいて共通するものがあるから一緒にいて楽しいんだ。でもたまーにこうやって軽くあしらわれちゃうんだよねぇ。まあロッシュの言葉に悪意がないから言われても傷つかないけど。よく考えたらこうやってなんの柵もなく俺と接してくれたのってロッシュが初めてかもしれない。ほら、こんな見た目だからみーんな下心があるんだよ。
「ねえロッシュ、俺達って友達?」
俺の言葉にきょとんとするロッシュ。そりゃそうだよね。いきなりこんなこと言われたら俺でもなんだと思うよ。俺も、なんでこんなこと口走ったのかよく分からない。暫く俺を見ていたロッシュはなんということもなく口を開いた。
「そんなの当たり前でしょう?じゃないとこうやって一緒にいません」
当たり前でしょう・・・か。その言葉ににんまりと笑ってしまう。
「なんですか気持ち悪い。誰もが貴方の容姿に見惚れるわけではありませんからね?」
「うんうん、分かっているよー。いやー、いい友達を持って俺は嬉しいなー」
ロッシュは本当に俺がほしい言葉をくれるね。きっとこの先俺という人間をわかった上で接してくれる人はたくさん現れると思うけど、俺のことを最初に分かってくれたロッシュだけはずっと傍にいてほしいな。
「はあ、ロッシュが女の子だったら良かったのになぁ・・・そしたら絶対お嫁さんにしてたのに」
「例え僕が女の子であったとしてもきっとナルガだけはお断りですね」
「なにそれ酷い!!」
こうやってふざけながら毎日を過ごすのも悪くないよね?
END
ナルガが女性に対してそこまで優しくない理由でした。そりゃ思春期にあんなことされれば普通は女性不振です。だけどそこはナルガ。自分にいいように解釈し直す事が長所です。そしてロッシュへの愛が強い。勿論友愛だけどもし本当にロッシュが女なら確実に落としにいっているでしょう。




