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閑話 魔法使いと願い事(前)

前回やると言ったクラリーチェが借りた物語です。絵本並みの薄さです。

ある小さな村にリディアという女の子とシュバルツという男の子がいました。2人は小さな頃からいつも一緒で、お互いが恋を意識するのにそう時間はかかりませんでした。



2人が大人になり、結婚という言葉を意識し始めた頃悲劇が起こりました。シュバルツが事故に遭い大怪我を負ってしまったのです。医者からは回復は絶望的だと言われたリディアは、眠るシュバルツの横で必死に祈りました。



「どうか彼を助けてください!私があげられるものならなんでもあげるから!」


悲壮に満ちた声が部屋に響くと、リディアの耳にシュバルツとは違う声が聞こえました。



「なんでも?それは本当に?」

「誰!?」


リディアが振り返ると、そこには黒いローブを纏った人物が不気味に立ってました。リディアはシュバルツを守るように彼の体を庇います。


「魔法使いとでも呼んでくれていいよ。それで、貴女はそこの彼のためになんでもくれる?」

「シュバルツが助かるなら、なんだってあげるわ」


リディアにとってシュバルツが全てでなにより大切なもの・・・彼が生きていてくれるならこの命を差し出しても構わないと思っていました。



「そう・・・ならば助けてあげるよ。君の、その魂と引き換えに」

「え・・・」



魔法使いと名乗るその人物を、信じられないという眼でリディアは見ました。



「わたしにかかれば、そこの彼の傷なんて一瞬で治るよ。あっという間に元気になる」

「私の命をあげればですよね」


ローブに隠れきれていない唇がニヤリと笑うのがリディアには分かりました。


「貴女の魂はとても綺麗なんだ。純粋な想いがそうさせているのかもしれないけれど、それを汚すのはとても惜しい」


容姿にこれといって特徴のないリディアは、自分の一部でも誉められたことに喜ぶべきなのか複雑な心境になりました。しかしその一部がシュバルツを救う糧になるのならと、リディアは魔法使いと契約を結びました。



「でもこれだと貴女が可哀想だね・・・ならば賭けをしようか。わたしは彼の傷と共に貴女と彼の恋人としての記憶を封印する。もし彼が自力で封印を解くかもう一度貴女を好きになったらその魂は取らないであげよう。でももし彼が貴女以外を選んだら・・・」


それはリディアにとって不利な賭けです。リディアと違い程々に容姿が整い優しいシュバルツは村でも人気があり、もしリディアと恋人でなければ自分がと思う娘が多いからです。自分に自信のないリディアは賭けに乗るか迷ってしまいました。しかしシュバルツが生き残り自分も生きる方法はそれしかないとも分かっていたリディアは、


「その賭けに乗ります。だから、彼を助けてください!」


魔法使いの誘惑に乗ってしまいました。すると魔法使いはニコリと笑い寝台に横になっているシュバルツに手をかざしました。


「ただ待つだけはつまらないから、邪魔はさせてもらうよ?そうだね、1ヶ月もしないうちに・・・貴女はわたしの物になるよ」

「大丈夫よ・・・シュバルツはきっと思い出してくれる。私をまた好きになってくれる」


ずっと一緒にいた2人なのだからとリディアは口にしないまでも思っていました。


「それはどうかな・・・人の心は変わりやすいからね。美しい女が目の前に現れれば、どうなるかはわからないよ」

「・・・・・大丈夫よ」


俯いているリディアを横目に見ながら、魔法使いは最後の一工程と彼の記憶を創作しました。



「これで彼は大丈夫。ではまた会いましょう。次は・・・貴女を迎えに来るときかな」

「そんなことには絶対にならない!もう2度と会わないわ!」



怒声にも似た声で荒げるリディアに微笑んで、魔法使いは夜の闇の中に消えました。しんと静かになった室内に響くのはリディアの荒い息遣いと落ち着いたシュバルツの寝息だけでした。リディアは安らかに眠るシュバルツの横で投げ出された手を握り締めました。



「お願い・・・私を思い出して・・・もう一度私と恋をしてよシュバルツ・・・」




悲嘆なリディアの願いは、闇に吸い込まれるように消えていきました。翌日、シュバルツは目を覚ましましたが、魔法使いのいう通り、彼はリディアとの幼なじみとしての記憶しか残っていませんでした。リディアは毎日、できる限りシュバルツに会いに行きました。彼はリディアを歓迎してくれますが、それは仲のよい幼なじみとしてでした。そして1週間もすればシュバルツは事故に遭う前と同じように町に仕事に行ってしまいました。そうなればシュバルツに会う時間は減ってしまいます。リディアは不安に陥りました。もし町で魔法使いが言ったような美しい女が現れたら・・・シュバルツがその女を好きになってしまったらと・・・






リディアの不安は現実となりました。ある日シュバルツから告げられたのです。


「好きな人ができたんだ。その人と結婚しようと思ってる」


今度紹介すると言ってシュバルツは行ってしまいました。残されたリディアは目の前が真っ暗になってその場に崩れ落ちてしまいました。


「信じてたのに・・・シュバルツはきっと私をもう一度好きになってくれるって・・・」


ポタリポタリと地面を涙が潤していきます。信じていたシュバルツに裏切られたリディアは、もうどうしていいのかなにも考えることができませんでした。




****************

クラリーチェ視点


「ふぅ・・・」


私は図書室で彼に勧められた本を眠る前に読んでいました。物語が半分まで差し掛かったところで本を捲る指を止め、栞を挟んで机に置きました。



「とても愛した方に忘れられることは、どれほど辛いのでしょうか・・・私は男性をそのような感情で見たことがありませんから、彼女の気持ちを共感することができません・・・」


私は机に置いた本の表紙を一撫でするとベッドに潜り込みました。



「私も、いつか彼女のように苦しくなるくらい誰かを好きになるのでしょうか・・・出来ることなら、苦しいものではなくて幸せに満ち溢れた恋がいいですね」



続きを読んだら図書室の彼とお話をしよう・・・私は次第に深くなる眠気に導かれ夢の世界へ旅立ちました。

後編に続きます。書く時間がなかったので分割しました。物語の終わりにクラリーチェと図書室の君との会話を入れる予定です。

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