表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* Dearest  作者: Terra
Reflexed ~反りかえる花弁~
98/133

2




 そんな睥睨(へいげい)する態度を流し、ステファンは、改めて辺りの匂いを嗅ぐ。その香りは、眠りに落ちた街の臭いの中に、凛と際立った。

 眼を凝らすと、バス停があった。歪な揺れを見せる灰色の風景の中で、その匂いは棚引いているようだった。


 近づいてみると、紙が煽られているのが見えた。そこから、匂いが微かに立ち込めている。

 吸い寄せられるようにそこに立つと、そっと触れてみた。



「失踪……情報……ステファン……ラッセル……」



 眉が僅かに動き、眉間に皺が寄る。その紙を剥ぎ取ると、あらゆる箇所に鼻を押しあて、匂いを嗅いだ。そこに載っている1文字1文字をなぞり、1文をなぞり、写真を穴が開くほど見つめた。そのまま、ずっと下まで目を這わせていくと、滲んだ1文に辿り着いた。他の文字とは違い、角張っておらず、柔らかな形をしている。



“息子と待ってる いつまでも 愛してる ホリー・ラッセル”



「何だ……これは……」



 足先から一気に震えが迸る。寒気でも苛立ちでもない何かが、全身を揺さぶってきた。


 その途端、どこからともなく、コヨーテが目前を過ぎった。気づけば手元には何もなく、ステファンは、辺りで紙を探し回る。そして、来た道から獣の臭いを嗅ぎつけた途端、じっと歯を鳴らした。


 コヨーテが用紙を咀嚼しかけた瞬間――ステファンは、寸秒でそこに追い着くと、その下顎を引っ掴み、紙を地面に弾き出した。コヨーテが悲鳴を上げるのも余所に、ステファンは紙を拾うと、慎重に皺を伸ばしていく。



『モノ好きな。紙食とは、改良もぶっ飛んだもんだぜ』



 低く籠った声に、ステファンは辺りを睨んだ。そこには、5頭もの煌めくコヨーテが集まっていた。それぞれ、身体に僅かな違いを持つ彼等は、ステファンの揺らぐ感情を嘲笑い、乱してくる。


 煩い――言葉になるよりも先に、ステファンは威嚇を放った。まるでハリケーンが過ぎるような勢いは、辺りに点在していたコヨーテ達を、あっさりと弾き飛ばしてしまう。




 その場は雪の音に包まれると、ただの夜道になってしまう。

 怒りに震える息が、闇を白く染めては、消えた。両手に握り締める紙に、手汗が滲んでいく。コヨーテの唾液と自らの汗に、嗅ぎつけた香りが覆われてしまう。その苛立ちよりも、鋭く突き上げてくる困惑に、堪らず吠え声を上げた。


 そこへ、遠くから物音がした。振り返った先に、この瞬間まで見て取れなかった灯が見える。新たな匂いが細く漂い、こちらに近づいてきた時、人の気配を察した。ステファンは、逃げるようにそこから駆けた。




 用紙の内容は、読めるだけだった。それぞれが何を表しているのか、何を意味しているのか、分からなかった。でも、眼と鼻は、手は、放そうとしない。奪われないために、我武者羅に走った。もっと速く、もっと、と――


 意識よりも先に、身体がそうさせてくる。唯一、歪な細胞に抗えるような気がした。








Instagram・Threds・Xにて公開済み作品宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め 気が向きましたら是非



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ