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COYOTE Waning Gibbous [6][7]
モーニングショーが始まる頃にはまた、外の騒ぎが押し寄せてきた。ホリーはリビングのソファで横になり、息子を抱き締めるように腹を包んでいた。
“またも、ハンターが襲撃されました。立ち入り禁止区域で、ハンティングを行っていた2人の50代男性は、救急搬送され、命に別状はありません。
目撃情報によると、銀に光る目を持つ凶暴な鳥類、小動物、コヨーテに襲われた。更には、失踪者ステファン・ラッセルと思われる人物にも遭遇した、と――””
画面には、昨夜搬送された被害者の映像が流れた。彼等の顔や首、手には、引っ掻き傷や噛み痕が目立ち、ホリーは身震いする。
“あいつに違いない! 見たんだ! 髪と目はシルバーに光って、まるで狼男だ! 歯を立てて唸りながら襲ってきたんだ、本当だ!”
“そいつが動物を操ってた! 吠えるなり、みんな急に光に変わっちまって、綺麗サッパリ消えた! 音声だってある! 完璧な証拠だ! さっさと捕まえてくれ!”
ホリーは、視界がぼやけていく。彼等の発言が耳の奥で滞り、情報を上手く整理できなかった。ただ音として舞い込むだけの、砂嵐とも呼べるそれを、すぐにでも遮断してしまいたかった。
気づけば、映像はスタジオに替わっており、この冬すぐに警察に出した、ステファンの情報が映し出されていた。それは、街やウェブですっかり馴染んだMISSING PERSONのチラシと同じものだった。柔らかな笑顔が冷え切って見えるのは、スタジオ内に集まる視線のせいだろうか。元犯罪捜査の専門家が目を走らせている様子に、ホリーは胸の疼きを掴み止めるように、手を握る。
“信じられない……被害者は冷静さを欠き過ぎだ。本来入ってはいけない区域に入り、勝手に行動して、世の中に貢献したつもりでいる。情報を改めて聞き直すべきだ。失踪者情報にある本人の写真は見ての通り、端整で、一般的な髪色をした若い医師”
事件の場所は、住んでいる地域から北上したところにある森林だった。被害者は不法侵入者だとも報じられ、ホリーの唇は震えていく。受け止め切れない情報に沸き起こる怒りを、どうにか静かな呼吸に留めた。そして、ゆっくりと身を起こすと、画面に見入った。
夫の情報が最悪の形で浮き彫りになり、見えない何かに、身体が握り潰されるようだった。妻の状況はどうなのかと騒ぐ、世間の大き過ぎる声に、耳を塞いでしまう。
落ち着いて外に出る隙も与えてもらえないのに、適当な仮説を立てて、こちらの様子を求められる。反論の言葉を探す気にもなれず、拳を握りしめることしかできない。
夫を探したくて取材を受けた。夫と生活をやり直したいという、ごく普通の理由から行動してきた。ところが寄せられる情報は、どういう訳か、足を引っ張るものだけが強調される。そのせいで、外の空気も碌に吸えなくなった。
「貴方達はっ……何を勘違いしているのっ……」
勝手気ままなゴシップを、こちらが知らないはずもない。嫌でも耳に入るのだ。誰かの口から口へ、金銭を含みながら、それは巡っていく。
「そんなことがっ……私は大嫌いなのっ……」
我が子のこともまた、そうだ。設けられた一定の線からはみ出ているというだけで、それはビジネスに変わる。それをいかに上手く捌き、調理するかで、売り手とコックの生活の潤いが決まる。
体内で歳をとり続ける息子の将来に踏み入ってよいのは、見ず知らずの他人ではない。
「私達の子にっ……近づかないでっ!」
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