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片や、受付スタッフは、記者を名乗る男性と話していた。相手は少々強引で、自ずと身構えてしまう。
「どうかアポを取って出直しを。取材の場合、そういう規則です」
「それは申し訳ないと思ってる。でもご存知でしょう、この病院の医師が姿を消した。今や、彼の家族は世間に広く捜索を求めてる。我々も、新たな糸口になりそうなものがあると、それを掴まないはずはない。失踪中の彼のためにもね。それが仕事なんで」
ぐずぐずしていられないでしょうと、記者はカウンター奥の内線に視線を流した。しかし受付スタッフは、記者から目を離さなかった。
「ここは患者様優先の場所です。ビジネスということであれば、別で設けている番号がある。こちらにかけて、出直しを」
「ステファン・ラッセルの検査の件で、言えないことでもあるんですか?」
「しつこいぞ」
受付スタッフの態度を見た途端、記者は薄ら笑みを浮かべると、声を荒げるのかと、静かに煽った。その時――誰かに肩を取られた。
記者が振り向いたそこに、ステファンの恩師と、ゾーイから通報を受けた看護師がいた。
「病院ではお静かに。記者であれ何であれ共通ルールでしょう。警察を呼びますよ」
咳払いをした記者は、受付スタッフを横目に見る。
「先に騒いだのは誰かな」
彼はいやらしい笑みを引っ込めると、再び前の2人に向く。恩師は僅かに記者を睨むと、淡々と告げた。
「直接来られたのなら、案内ができていなくて申し訳ない。お求めの件なら、当院は記者に直接話しをするつもりはない。必ず警察を通じてやりとりするとしている。お引き取り願う」
「いなくなった医師が森をうろついてると仮定した場合、どう考えます? 本当に検査に異常はなかったんですか? オペミスは?」
構わず問い質す記者の腕を、恩師は溜め息混じりに掴むと、エントランスまで引っ張った。それでも、記者は止まらなかった。
「今朝、彼の自宅が落書き被害にあったんですよ。あれは、なかなかデカかった。そこには“獣”と書かれていた。貴方がたや警察は、他に何をご存知で?」
恩師は記者を突き放すと同時に、睨みつける。
「大きな声が好きなら、原っぱに行くか。ほら、リードは外してやったぞ。誠意があるなら、アポを取って別の担当者を寄こすんだ。そしたら適した場所をやる。どうだ、まるであんたが好きな獣みたいで、いいだろう。何を言っても無駄だ。とっとと帰れ」
恩師が立ち去るのを、記者はそれ以上引き止めず、その姿が見えなくなるまで目を光らせていた。
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