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COYOTE Harvest Moon[21]
大人数が退室する中、数名が、質問のために教壇へ集まった。講師は生徒達に、参考資料になるものの紹介をするほか、就職に関する情報を提供したり、自身の職業についても話した。
そして、人だかりが引いていった時。最前列にいたキャシーは立ち上がると、講師を呼び止め、教壇に向かった。
「何て言っていいか……いい言葉が見つからないのですが、素晴らしいお話でした」
「あら、嬉しい。寝る間も惜しんで作った甲斐があったわ」
とは言うが、講師は、最後の追い込みでは睡魔に負けていたことを横目に流しておく。
「ところで、目が乾いてるんじゃない? かなり集中してたわね」
それを聞いて、キャシーは笑って恥ずかしさを隠すと、もう一度心から礼を言った。
この場は2人だけになり、しんと静まり返る。その静けさが、その生徒のエネルギーのようなものを掻き立てているようで、講師は口を開かずにはいられなかった。
「貴方も自然が好きそうね」
「ええ、とっても。この1つ前に、環境学の講義を受けてました。困難な問題について触れた直後だったので、そんな世界と向き合うラッセルさんが、本当にかっこよくて……私は、なかなか話しを上手く聞いてもらえないんです。スキルや経験が足りないせいで、揶揄われることが多くて」
キャシーは笑顔を絶やさずにいるものの、眼差しはどこか曇ってしまう。
講師はそれに頷くと、皆まで言わなくとも分かると、微笑みだけで示した。そして、彼女に少し待つように告げると、バインダーから小さなカードを取り出した。
急にペンを走らせる講師に、キャシーは目を瞬くと、その手元を覗き込む。掌に収まるほどの白いカードの縁には、あらゆる緑色で描かれた、可愛らしい植物の絵が連なっていた。
講師はペンを仕舞うと、キャシーに優しく笑いかけながら、それを差し出す。
「私と似た匂いがするから、期待してるわ。いい? “私達には、私達にしか見えない世界や、聞こえないものがある。それを言葉に変えて広げる事で、世界は、やっと少し変わる。諦めないで”」
その言葉が、そのまま優しいタッチでカードに綴られていた。キャシーは、末尾のホリー・ラッセルというサインに目が留まる。隅には勤め先も印字されており、興味があればいつでも力を貸すとまで添えてくれた。
「色んな人がいるわ。私も貴方も、その中の1人。お互い、堂々としていましょうよ。だって、そうしていることで助かる人や、動物が、ちゃんといるんだから。貴方も、沢山のところに行って、その人柄を魅せつけてやりなさい。信じてもらうために」
キャシーは震えると、目に籠りはじめる熱を振り払い、勇ましい表情で、講師の手を握った。
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