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時はあっと言う間に過ぎ、辺りが夕陽に染まり始めた頃、夫婦は下山し始めた。
2人はあれから何度も写真を見返し、少年の気持ちに浸っていた。レトロ感が溢れるモノトーンから、背景をぼやけさせたポートレート。被写界深度がシャープに際立つ風景画のようなショットに、無加工のナチュラルなもの。全てがいい仕上がりのあまり、どれを飾るかが悩ましかった。そしてあれこれ話す内に、ひとまず、自然体の1枚にすることになった。
「パワフルそうな男の子だったけど、芸術に富んでて、なんだかいいギャップね」
ホリーは、緩やかな散策路に出てから、夫の手を放さないでいる。来る時とは違い、彼と隣り合って歩いていた。荷物はある程度消費でき、途中のうたた寝もあって、2人の身体はすっかり軽くなっていた。
「興味をそそられるものがあると、それに夢中になってそうだ。あの子はあの時、随分と汗をかいてたから、少し気になってたけど。自分で撮影させてくれなんて言うところが、前のめりな感じだった。いいものを魅せようとしてくれてたんだって、よく分かる」
その少年を分析する内に、ステファンは、自分達夫婦の好奇心旺盛なところを――お互い、やりたいことにすぐ夢中になる部分を、少年に重ねていた。
ホリーもまた、同じように振り返っていた。この頃にはもう、今日まで気になっていた縺れがすっかり解け、前向きになれていた。
その、髪の影に隠れる妻の微笑みを見たさに、ステファンは彼女の頬に触れ、振り向かせる。互いの視線が合うと、楽しみが膨らんでいった。それはまるで、蕾が色づき始めた時のようで、少し胸が高鳴る。
通路の分岐点が見えてくると、隣のエリアに繋がるルートから声がした。2人はそれに振り向くと、そこには数名の猟師が歩いており、更に彼等の後方から、他のグループが下りてくるのが見える。
「今は何が獲れるんだ?」
「多分、シーズン限定の動物はいないかもね。コヨーテやグラウンドホッグか、アルマジロは年中獲れるようだし、その辺りかも」
ステファンの問いに、妻はいつものように淡々と答える。
「へぇ……一体、何に役立つんだか」
見当もつかないステファンの呟きにもまた、ホリーは易々と解説した。
どうやら彼等は、食料の他にも、多くの道具に変わるそうだ。コヨーテの被毛は、防寒性に優れている。一方で、グラウンドホッグの毛はそれほどでもなく、フライングフィッシングのための疑似餌の材料として、鳥の羽根など自然素材や合成素材とともに使われる。また、この辺りに多く生息するアルマジロは、その固い甲羅で、楽器の共鳴板や装飾品が作られている。
「まぁ、最も高級な被毛はボブキャットだけどね。冬にしか獲らせないようだけど」
ここまでの妻の口調は、どこか色褪せており、単調だった。そうなってしまう本当の理由は、話のずっと底の方で、熱を帯びながら佇んでいる。そんなこともまた、ステファンはよく知っていた。
「近頃は、ハンター教育の話も聞くけど、ここではやってないと思う。あの猟師達が持つ銃は自前のようだから。10歳未満からでも参加できるのよ。スポーツハンティングがあるからね」
生きるために腹を満たし、暖をとること。人が動物を殺す目的は、本来シンプルなもののはずだった。動物達が命を繋ぐように、人もまた、同じ自然としてそうする。それだけで十分ではないのかと、声にならない声が、ホリーの胸の底で燻る。
妻は、引き攣ってしまう顔を隠しているつもりなのだろう。しかしステファンには、それ以外のものも全て見え透いていた。彼女がまだ何か言いた気なのは、目付きはもちろん、唇を強く結ぶか、僅かに噛むといった仕草で分かってしまう。
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