表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* Dearest  作者: Terra
Swelling Bud ~ふくよかな蕾~
14/133

7




 時はあっと言う間に過ぎ、辺りが夕陽に染まり始めた頃、夫婦は下山し始めた。




 2人はあれから何度も写真を見返し、少年の気持ちに浸っていた。レトロ感が溢れるモノトーンから、背景をぼやけさせたポートレート。被写界深度がシャープに際立つ風景画のようなショットに、無加工のナチュラルなもの。全てがいい仕上がりのあまり、どれを飾るかが悩ましかった。そしてあれこれ話す内に、ひとまず、自然体の1枚にすることになった。



「パワフルそうな男の子だったけど、芸術に富んでて、なんだかいいギャップね」



 ホリーは、緩やかな散策路に出てから、夫の手を放さないでいる。来る時とは違い、彼と隣り合って歩いていた。荷物はある程度消費でき、途中のうたた寝もあって、2人の身体はすっかり軽くなっていた。



「興味をそそられるものがあると、それに夢中になってそうだ。あの子はあの時、随分と汗をかいてたから、少し気になってたけど。自分で撮影させてくれなんて言うところが、前のめりな感じだった。いいものを魅せようとしてくれてたんだって、よく分かる」



 その少年を分析する内に、ステファンは、自分達夫婦の好奇心旺盛なところを――お互い、やりたいことにすぐ夢中になる部分を、少年に重ねていた。


 ホリーもまた、同じように振り返っていた。この頃にはもう、今日まで気になっていた縺れがすっかり解け、前向きになれていた。


 その、髪の影に隠れる妻の微笑みを見たさに、ステファンは彼女の頬に触れ、振り向かせる。互いの視線が合うと、楽しみが膨らんでいった。それはまるで、蕾が色づき始めた時のようで、少し胸が高鳴る。






 通路の分岐点が見えてくると、隣のエリアに繋がるルートから声がした。2人はそれに振り向くと、そこには数名の猟師が歩いており、更に彼等の後方から、他のグループが下りてくるのが見える。



「今は何が獲れるんだ?」



「多分、シーズン限定の動物はいないかもね。コヨーテやグラウンドホッグか、アルマジロは年中獲れるようだし、その辺りかも」



 ステファンの問いに、妻はいつものように淡々と答える。



「へぇ……一体、何に役立つんだか」



 見当もつかないステファンの呟きにもまた、ホリーは易々と解説した。


 どうやら彼等は、食料の他にも、多くの道具に変わるそうだ。コヨーテの被毛は、防寒性に優れている。一方で、グラウンドホッグの毛はそれほどでもなく、フライングフィッシングのための疑似餌の材料として、鳥の羽根など自然素材や合成素材とともに使われる。また、この辺りに多く生息するアルマジロは、その固い甲羅で、楽器の共鳴板や装飾品が作られている。



「まぁ、最も高級な被毛はボブキャットだけどね。冬にしか獲らせないようだけど」



 ここまでの妻の口調は、どこか色褪せており、単調だった。そうなってしまう本当の理由は、話のずっと底の方で、熱を帯びながら佇んでいる。そんなこともまた、ステファンはよく知っていた。



「近頃は、ハンター教育の話も聞くけど、ここではやってないと思う。あの猟師達が持つ銃は自前のようだから。10歳未満からでも参加できるのよ。スポーツハンティングがあるからね」



 生きるために腹を満たし、暖をとること。人が動物を殺す目的は、本来シンプルなもののはずだった。動物達が命を繋ぐように、人もまた、同じ自然としてそうする。それだけで十分ではないのかと、声にならない声が、ホリーの胸の底で(くすぶ)る。




 妻は、引き攣ってしまう顔を隠しているつもりなのだろう。しかしステファンには、それ以外のものも全て見え透いていた。彼女がまだ何か言いた気なのは、目付きはもちろん、唇を強く結ぶか、僅かに噛むといった仕草で分かってしまう。








Instagram・Threds・Xにて公開済み作品宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め 気が向きましたら是非



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ