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■ 4

自分の鼓動がびっくりするくらい大きく聞こえる。



課長さんにバレちゃいそう。やだなぁ、恥ずかしい。こんなこと思うのは、子供、かなぁ。





「すまんな、こいつで遊んでいいのは、俺だけなんだ」



目の前に来ていた手で目元を拭われた。


待ってお化粧が…!という気持ち以上に、触れられたことに対しての嬉しさが込み上げる。






目元を拭った手は私の肩にまわされた。




「そんなわけで、俺は存分に吉木で遊んできますのでこれにて失礼します」





この時、みんな気付いたよね。






課長、すっごい酔ってる。








みんな止めようかどうしようか微妙な顔してたけど、まぁいっかみたいな顔で送り出そうとしている。



待って待って!心の準備が!お姉さま助けて!って思って課長を狙っていたお姉さまを見たら、笑顔でサムズアップしている。



この会社サムズアップすればなんでもアリみたいな風潮あるよね。

知ってた知ってた。




もういいや。向こうで飯田も満足そうに頷いてるし。




「すみませーん!吉木あずさ、課長さんお持ち帰りしますのでー」




テンション上がったみんなに祝福されつつ、課長の上着と鞄を手にする。



課長はぎょっとしつつも、私の肩に回した手はそのままだ。




知ってますよ。もう限界突破してますもんね。





大荷物プラス課長という大きな荷物を背負って、私は拍手の中 居酒屋を後にした。









*****









「…課長さぁん、生きてますかぁー?」



「…ギリギリ…かな…」



「途中でキャラ変わってましたよ、課長さん」



あんな自己中な課長さん、見られるのは私だけかと思ってたのに。



「…飲み会のたびに、お前にこうやって送ってもらえるのが好きだった」



「…え?」




下を向いている課長の小さな声が聞こえる。




「酒の適量を覚えて、世話を焼いてくれるのが嬉しかった」



「俺のそばに座るときの嬉しそうな顔が好きだった」



「いつも俺のことを目で追ってるのがかわいかった」



「…年下なんだから、って思っても、お前のことばっかり考えてしまうんだ」






もう足なんかとっくに止まっている。



課長からどんどんこぼれる言葉。



待って待って。聞き逃しちゃう。



ちょっと待って、課長さん。






「…なのに吉木は飯田といちゃいちゃしてるし」



「えぇっ!?いちゃいちゃなんてしてませんよ!」



「してたじゃないか!エレベーターの時だって!」




急に大きな声になった課長は、私のアップにした髪に触れる。


大切そうに、いとおしそうに。




「お前の艶々の髪に触れやがって…あれをいちゃいちゃと言わずなんという」



「それは…あの…」




もしかして、課長。



エレベーターの時から不機嫌なのって、飯田が髪を触ってきたから?






「課長。実は、ずっと言いたかったことがありまして」



「…なんだい?今ならなんでも聞くよ?」




目を閉じて深呼吸して、私をまっすぐ見てくれる課長。



かっこいいなぁ。えへへ。





「あのですね、課長。今触っておられる私の髪に、桜の花がついてると思うんですが」



「うん、とっても似合ってるな」



「…それ、私が作ったんです」



「…へ、え?」



「飯田が訳知り顔だったのは、あの日のバレッタも私が作ったって知ってたからです。髪をさわったのは…嫌がらせ?」



「…」




あーあ、課長さん、フリーズしちゃった。




そう思った次の瞬間、ぼんって音が聞こえそうなくらい、顔が真っ赤に染まった。






「あー課長さん、真っ赤ですよぉ」



「…うっさい、お子ちゃま、こっち見んな」



「そのお子ちゃま呼び、やめていただけませんかね」



「んー。40男がせっかく覚悟決めたのに、ずっと言いたかった事って言って期待させといてそれだもんなぁ…」




だってこれだってずっと言いたかったことですもん!って。




言おうとしたけれど、抱きすくめられた驚きで声が出なかった。









「…なぁ、吉木。お前、俺のこと大好きなんだろ?」



「知りません。お子ちゃま扱いする人なんか知りません」



「おじさんは臆病なんだよ。な、言って?」



「…すき、ですよ?たぶん」



「たぶんってなんだよ…」




苦笑する課長さん。



だって、ねぇ。




アイノコクハクって、女子は憧れじゃないですか。







「かっこいいお顔も、低く響く声も、骨ばった手も、血管の浮き出た腕も、全部ぜーんぶ大好きですっ」







それを聞いた課長は、


初めて見るくしゃってした顔で、


私に抱きついてきた。







「…あずさ、愛してるよ」







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