襲撃
私は無言でした。
誰が多神教を作ったのかという疑問はわきましたが、聞く元気がありません。
ガラハッドなのかエドガーなのか。
それはどうでもいい事なのです。
重要なのはエリザベスがシスコンのヤンデレなのか、ただのド変態なのか……
じゃなくて今の私を殺す危険性が存在するかどうかが重要です。
それも今すぐ考えることではないはずです。
今のところは殺す理由がありませんから。
もはや私には殴る元気も残ってはいませんでした。
とりあえず多神教には次にアデルさんを使ったら山を焼くとは宣言しときました。
家族は守るのです。
それにしても……シルヴィアが持ってるのは何でしょう?
「それなんですか?」
「村正の本物なのだ!これ触って変な夢見たらくれたのだ」
知らない人から物をもらっちゃいけません。
というツッコミを聞く気も無いのか目をキラキラさせてます。
それを見て更にだうーん。
うなだれる私が鳥居の外に出ると、事件は起こりました。
まず最初にうなじに寒気が走りました。
殺気というやつです。
飛んでくる何かが見えました。
それは火矢でした。
私もシルヴィアも器用にかわしながら馬車の陰に隠れます。
「えっと。恨み買いましたっけ?」
「レンフォール元司教だろ。破滅させた武器屋だろ。治安が良くなったせいで職にあぶれた傭兵に運送屋に盗賊、それに勇者の集団に……」
よく考えたら王都は敵だらけでした。
仕方ありません。
私は携帯を取り出すとアドレス帳を操作。
『童帝』と書かれた項目の上でタップしました。
相手はレイ先輩です。
幸いなことにレイ先輩はワンコールで出てくれました。
「れ、レイです」
なに緊張してるんですか!
初めて携帯持ったおじいちゃんですか!
って初めてなのか。
「ちーっす。アレックスちゃんです。襲撃受けました。いま火矢で撃たれてます」
「な!」
「えーっと、とりあえず逃げますんでバス回してください」
「りょ、了解! 今行く」
さてここまででわかったことがあります。
火矢を使っていながら、馬車の影に逃げた私に油やアルコール入りの投擲武器を使わなかったことです。
火達磨になったところを一世射撃。
私やシルヴィアじゃなければ、かなりの高確率で殺せます。
殺すつもりが無いのでしょうか。
それとも目的が私の命ではないのか。
ただのアホという線も捨て切れません。
とりあえず反撃しましょう。
私はマナ手榴弾を放り投げました。
今回は音と光での威嚇効果を狙って爆裂魔法です。
ドーンッ!という爆発音が響き、それを合図に私たちは逃げ出します。
出入り口は一箇所そこで襲われたので、入り口は固められてるでしょう。
万が一ということもありますので神殿を目指します。
気功の達人だの魔法の使い手だのと言っても、死ぬときは結構簡単に死ぬからです。
逃げる必要は無いのですが、相手がわかりません。
私の敵ならいいのですが多神教の敵だったら介入したくありません。
私のいないどこか遠いところで勝手に殺しあって欲しいのです。
鳥居をくぐると剣を持った覆面を被った何者かが剣を振り下ろして来ました。
両手で剣を挟む。
真剣白刃取りではなく破壊。
粉々に砕けた剣に気を取られた隙にシルヴィアが後ろから殴るのが見えました。
一発で昏倒。
私はそれを確認して昏倒した襲撃者の襟首を掴み、鳥居の陰に隠れてた伏兵に放り投げます。
人間手裏剣は伏兵に直撃。
二人目戦闘不能。
ヒャッハーしながら横目でちらりと見ると、三人目はシルヴィアがすでに殴り倒してました。
殺気は消えてました。
どうやら三人だけだったようです。
シルヴィアにアイコンタクト送ると私は人間手裏剣にした覆面の人物の足を掴みそのまま引きずっていきます。
悲鳴が聞こえてますが知りません。
人様を殺そうとしたのです。
おそらく殺される覚悟はできているでしょう。
あとで尋問するためにお持ち帰り。
スプーンスプーンと。
◇
神殿に入ると
警備員が大騒ぎしてました。
ここの防備は案外脆いかもしれません。
それはそうと。
はーいぬぎぬぎちましょうねー。
少し乱暴に運んだためピクリとも動かない襲撃者の顔を覆う布。
それをやや変態的な指の動きで剥ぎ取ります。
するとそこにいたのは鱗とトサカ。
爬虫類的な目(白目剥いてる)。
長細い口と三角形の鋭利な歯。
リザードマンさんでした。
やっぱこの世界いるじゃん。魔族さん。
どうやら公には存在しないことになっていて、発見されると奴隷として使われているようです。
そこまでわかったので、とりあえずビンタ。
叩き起こします。
ちなみに自害されるおそれはありません。
自害する気があれば意識があるうちにしていたでしょうから。
人質も取られていないと考えてもいいでしょう。
気がついたリザードマンの胸倉を掴み魔族語で話しかけます。
「おい。誰に頼まれた? 魔王に手を上げるとはいい度胸してやがんなコラァ!」
リザードマンは口をあんぐり上げながらパクパクと口を開閉していました。
『いい度胸してやがんなコラァ!』は半分褒め言葉なのですが恥ずかしいので言いません。
「ま、魔王様!!! 御伽噺で私たちを御救い下さるというあの魔王様?!」
「はいはーい。魔王アレックスちゃんです」
面倒くさいので最初から魔王と名乗ります。
「さーて良い子のリザードマンさんは誰に頼まれたのかなあ?」
わしわしわしわし(高速運動する指)
「い、一神教であります!多神教の神殿に入った子供二人をさらって来いと言われました!」
ゴッドハンドを味わせる前にあっさり白状しました。
少しは私のゴッドハンドを味わってからにしていただきたい!
それにしてもやはり敵は一神教でした。
焦って武器屋を爆破したところから考えると魔族を奴隷化してたのもおそらく一神教ですね。
「ほ、報酬の銅貨7枚がないと来年の種籾が手に入らないのであります!」
命の値段安ッ!
ほろり……
やはりこの世界の亜人さんはかなりギリギリのところで生活しているようです。
私は明日の分のおやつ代の銅貨30枚を懐から出しリザードマンに差し出します。
「こ、これは……」
「私に仕えなさい。取り合えず手付けです。今これしかもってませんので」
「アレックス。金貨一枚なら持ってるのだ」
っちッ! このブルジョアめ!
黒わんこセシルのCEOかつエメラルド鉱山の所有者の私ですが、私有財産全てを発明と投資につぎ込んでるので、お金ほとんど持ってないのです。
恐らくサブちゃんより貧乏です。
とは言ってもご飯と寝るとこは困りませんのでいいんですけどね。
「ま、魔王様! 金貨と銅貨はどっちが強いのでありますか!」
ほろり……
そのレベルか……
よく見るとシルヴィアも目頭を押さえています。
リザードマンさんには教育が必要なようです。
◇
新しい舎弟であるシト族のテブロロさん(リザードマン)を従えたところまではいいのですが、このあとのプランが浮かびません。
こういうときは戦力分析ですね。
「テブロロさん。ここを襲撃してるシト族の人数はどのくらいですか? できれば無傷で迎えたいのですが」
「シト族戦士300名であります!」
多いなおい!
無傷無理やん!
「テブロロさんは都合よく族長だったりします?」
「ないであります!」
「だったら皆さんを説得できたりします?」
「無理であります! それがしは下っ端であります!」
元気よく言いました。
はい。はなまる。
じゃねえよ!
いきなりドツボに嵌った私が頭を抱えます。
皆殺しは簡単です。
そこのロリ太郎に「すけしゃん懲らしめてやりなさい!」と言えばいいだけです。
ですがそれではまずいのです。
リザードマンさん達は将来の私の舎弟です。
半殺しで止めなければなりません。
300名もいると正直、手加減なんかできません。
魔法の方も睡眠とか幻覚系は、入力するパラメータが多く計算式も難しいため、シルヴィアには使えません。
(シルヴィアは細かいことが苦手です)
せめてスケカクとかセシルの守備兵団や警察くらい強いか、一般人くらい弱ければよかったのですが……
うーんどうしましょう……
「たぶんここで待ってればすぐに終わるぞ」
シルヴィアが口を開きました。
根拠がわかりません。
「どうしてですか?」
「あのなー。今な、サブからメール入ってな、下についたそうだぞ」
はい?
シルヴィアの方をむいたら端末いじってました。
「メール? だって一昨日渡したばかりですよ! そんな高度な機能使えるはずが……」
と言いながら電話のスリープを解除。
うお! メール入ってる!
『兄貴!姉御!下についたっす☆(ゝω・)vキャピ さぶっち』
たった数日でイラッとするメールを送るまでになるとは……
人間さんはまだ音声通話(受信のみ)しかできないのに!
オークとゴブリンどんだけメカとの親和性高いんだよ!
あいつら本気になったら人類滅ぼせるんじゃね?
私が呆れていると声が聞こえて来ました。
警察という存在を知ってるとよく聞きなれているアレです。
「あー君達はー包囲されているー。あー直ちに人質を解放して出頭したまえ」
拡声器で御約束のフレーズで警告するのはレイ先輩です。
それは非常にのんびりした警告でした。
一見のんびりしてる連中が、才能限界地寸前まで鍛え上げた兵士というのが、我が領地の狂気を体現してるようです。
「るせー! 一神教からの銅貨7枚がないと来年の種籾が買えないんじゃー!!!」
あっさりと共通語で黒幕を吐くリザードマンさんたち。
まさに脳筋です。
脳筋が立てこもると大抵血を見ます。
あーこれは誰か死ぬな。
私が覚悟したそのとき、救世主が舞い降りました。
とは言っても私からは音声しか聞こえませんが。
「えー。ワタクシ、黒わんこセシルの専務を勤めさせていただいてます。オークのサブでございます」
それは鎧を脱いだ亜人(あとで聞きました)。
偉大なるオーク。
サブちゃんでした。
ちなみにマジで専務です。
今はドライバー不足のため現場で働いてもらってますけど。
ちなみにゴブリンのゴローちゃんはセシルドライビングスクールの校長です。
「えー、皆さんにこれだけは言いたいと思いましてー。我が領主は人間も亜人も分け隔てなく接する偉大な方で……」
なんでしょう?
いきなり褒め始めました。
えへへー。
褒めても何も出ませんよ。
「……えー領主様はー我々亜人種の希望でありー……」
もう! 話が長いなー。
そんなに褒めたら恥ずかしくなるやん!
「……えー簡単に言いますとー……」
簡単に言いますと?
「私の給料は金貨53枚です!!!」
それを聞いた瞬間、リザードマンがガヤガヤと騒ぎ始めました。
あまりの騒ぎに私の方まで聞こえてきます。
「金貨?銅貨とどっちが強いんだ!」
またそれか!
「お、俺聞いたことある! 金貨1枚で銅貨4000枚だ!!!」
「なんだその圧倒的戦力差は!」
動揺は広がります。
「4000!!! 一神教に村の土地代、銅貨20枚払っても一向に減らない!」
「種籾いくら買えるんだ!」
「1・2・3……たくさん! 指で計算しきれない……だと……ゴクリッ!」
「衛生兵!!!衛生兵!!! 知恵熱でまた同志が倒れたぞ!」
「ヒャッハー! この世は地獄だぜ!」
パニックはどこまでも広がりました。
完全な恐慌状態です。
亜人は所詮そんなもん。
貧乏でも仕方ないし。
彼らはそう思い込んでいた価値観を根底からぶち壊されたのです。
価値観を壊された彼らはただただ泣き叫ぶばかりでした。
そして一通り泣き叫んだ彼らの選択。
それは……
「永遠の忠誠を誓います」
私に平伏するリザードマンさんたち。
リザードマン300名が仲間になったぞ!
◇
新しく舎弟にした300名の宿泊先はコネを使い上手いことやりました。
なんとかなるもんですね。
と胸を撫で下ろした私を待っていたものそれは……
それは次の日の朝でした。
『竜殺しのアレックス。領民奪還作戦で一神教中央教会全焼。一部にやりすぎとの声。』
『多神教神殿襲撃。竜殺しのアレックスの犯行か?』
『亜人とアレックスの仄暗い関係。多神教神殿に続き一神教中央教会にも放火か?』
「な、なんじゃこりゃああああああああッ!」
朝刊各誌、全て事実を違うことが書かれています。
一神教中央教会など行ってもいません。
私の手が震えました。
とうとうメディアが牙をむいたのです。




