王都へレッツゴー
整地された道路をバスが進んで行きます。
調子に乗って途中の街までは道路を整地しました。
周辺の街の人にもたいへん好評です。
鉄道はどうしたって?
線路にパンタグラフに連結部に……作ったことがなく、ノウハウもないのでまだ完成してないのです。
一から作ろうと思ったら超難しかった。心折れそう。
誰だ! マナディーゼルだから簡単にできるって言ったやつ! あ、私か。
普通車両と全然違うじゃねえか! 泣くぞ!
そういや前世のどこかの国では普通車を改造して線路走らせてたな。
その車に線路積んで線路の敷設してたっけ。
でもたくさんは積めないんだよな……すぐコケるし。
うー難しい!
さて、なんで私がこんな現実逃避をしてるのかというと……
「ぎゃははははは! だんちょーしゃん。 もっと、おしゃけ飲みましょうよー」
「にゃはははははは! 脱ぐのだー!」
「一番エリザベス!歌いまーす!」
そこはまさにカオスでした。
王都へのバスに乗るのは商工会の偉い人、農協の偉い人と護衛の兵、それにマスコミども。
全員が乗った瞬間から酒瓶を出して騒ぎ始めました。
完全に観光気分です。
「……ジェイコブさん。なんかすいません」
私は酒を飲まないので酔っ払いの被害を受けた人に謝罪しまくってます。
昔、昔、かなり前の前世でアル中から糖尿病になりましてね……
酒に酔ってパン一で道路で寝てたら誰も何にも何もされないで次の日を迎えたあたりから酒量が一気に増えたと。
もちろん医者の言うことも聞かず治療しないで放置。
そんな日々の中、ある日釘を踏み抜いたんで市販の傷薬で様子見てたんですね。
腐りました。指が。マジで。
あわてて蛆虫治療したんですけど中指と薬指を切断。
しかも術後にその傷口に持病の水虫が入ってしまって……(遠い目)
魔族って水虫で死ぬんですね……
もう二度と酒は飲まないって決めました。
「いや。アレックス様が真面目なのはよくわかった」
新聞記者代表のジェイコブも酒は飲まないようです。
5歳児に酒は云々と思ってる時点でうちの領地の影響を受けています。
それにしても……
恥です。この酔っ払いども。
大恥かかされてます。
泣きそうです。
うわああああああああんッ!
「サブちゃんもなんかスイマセン」
運転手のサブも酒を飲めません。
大好きなんですけどね。
セシル産の焼酎が。
マジでごめんなさい。
謝っておきます。
あとでボーナス多めに出そう。
「アレックスの兄貴。辛いことを酒で洗い流す。それも人生ってヤツですよ」
なにこのイケメン。
今キュン☆とキターッ!
惚れそうです。
「せーしるのふーゆー♪」
演歌が流れています。
酔っぱらいどもがカラオケ大会をはじめたようです。
どんだけ歌好きなんだよこいつら。
あれから電撃作戦で王都行きを決めました。
表向きは実家と王へのご機嫌伺い。
実際は敵を全て片付けるため。
部下たちもそれはわかっているのでしょう。
「ギャハハハハ! 今度は俺が歌う!」
……ホントわかってるのか? コイツら。
この緊張感が全くないバスツアー。
私は呆れながら頬杖をつき、ため息をつくのです。
◇
バスが王都の城門の前につくと、騎士団が整列してました。
あっれー?
もしかして何かの式典の日に来ちゃった?
日程間違えちゃった?
一応手紙で確認したんだけど。
楽団が音楽を奏でました。
完全にこのバス浮いていますね。
「えー。邪魔にならないように裏門から入りましょう」
すると酔いがさめた連中の「はあ?何言ってのこいつ」という視線が私に集中しました。
え? 何? 私何か言った?
「アレックス。これは我とお前を出迎えるためのパレードだ?」
はい?
街を一個潰したダメ領主ですよ?
「わかってなかったのか……ドラゴンにアンデッド討伐。下手すると国が滅ぶレベルの災害なのだ。街一つ犠牲にしても救国の英雄扱いなのだ」
「はい?」
「だからアレックスの凱旋パレードだっての!」
レイ先輩も変なこと言ってます。
「おまけにネオセシルのエメラルドのお陰で国庫の危機も救いましたな」
「ただ売っただけですよ?」
もうやだなあ!そんなわけないじゃないですか!あははははは。
「それで爆発的な消費が起こって税収でウハウハなのだ!」
なん……だと。
「アレックス様よ……もしかしてお前さん……自分が将来の王にほぼ内定したことわかってなかったのか?」
ジェイコブのオッサンもあきれ果ててました。
あっれー? 王? 内定? 就職氷河期? 留年? 樹海?
「はいいいいッ?」
うっわバカがいる! という視線が私に集中します。
「え? 一生セシルでくだらない遊びをしてダラダラ暮らすつもりでしたけど……」
「おまッ! 遊びで人口10倍とか、金貨が物理的に足らないとか、無料だったはずの不動産価格がとんでもない額に急上昇した挙句に境界線を巡る訴訟が相次ぐとかあるか!」
レイ先輩がツバを飛ばしながらツッコみました。
あるんじゃね? たぶん。
「だいたいな! 俺たち含め被災した連中がここ数ヶ月で例外なく億万長者とかねえだろ!」
「ふーん。なんで?」
「だ、か、ら! 土地価格の急上昇だっつーの! お前が無料でくれた土地が一生遊んで暮らせる額になっちゃったの! 一度は持ちたいあの別荘地(貴族編)一位なの! あとお前の部下の給料知ってるのか! 見習いで国軍の司令官クラスだぞ!」
いいじゃん。
私のとこでお金が滞ってるわけじゃあるまいし。
「宵越しの金は持たない主義ですので」
貯金は敵です。
「それに志が低い連中はゼスさんとか警察の皆さんにしごかれて速攻で辞めるので常に人手不足ですし」」
訓練が異常なほど厳しいのは身をもって体験してます。
だって半殺しといえどもドラゴンと戦えたんですよ。彼ら。
現代で例えると100人集めて素手で戦車と戦えレベルの無理ゲーです。
それでもシルヴィアの稽古よりだいぶヌルゲーなのは理不尽だと思います。
「額が桁違いだろが! スケールがでかすぎんだよお前は!」
えーいいじゃん。
「多くあげてるぶん、他にもお金回ってるからいいじゃないですか!」
「アカデミーの分校誘致したら社会人向けの夜間部大人気だしね。民間のスクールも大人気で識字率も急上昇する気配があるね。これもお金が恐ろしい勢いで回ってるからだろうけど」
理事長が口を挟みます。
別に良いんじゃね?
「いい事じゃないんですか?」
「まあねー。 セシル経済の公共工事への依存度は低いし、犯罪率は移民が大量流入した割には全然低いしねー。交番と警察、いやー良い買い物したね」
えっへん。
女性が酔っ払って地面で寝てても何も起きない。
その辺のオッサンが暇な時間に文学を読む。
そんなチート社会が目標なのです。
(決して負け犬の遠吠えではありません)
「あ、そうそう。これ渡しときますね。王都広いからはぐれると困りますし」
私は領地から持ってきた道具を出します。
「うっわ! 露骨に話そらしやがった」
ばれたか!
だってやだもん。王様やるの。
「いいの! 考えるのめんどくさいから後で! これはケータイと言います。 これで各々のケータイ端末の番号を入力するとその端末と音声通話できます」
「おい。基地局のアンテナはどうしたのだ?」
「はい。こういうこともあるかなと思い、ラジオの放送局作ったときにこの機能もポータブルアンテナに入れときました。ネオセシルのゼスさんのとこにも直通回線引いておきました」
「アホだ……チートレベルのアホだ……」
酷いですね!
あーそうか!
「……やはり衛星電話の方がよかったですか? やっぱ衛星通信でパケット通信に音声データとビデオ載せてビオチャットにしたほうが……」
「だからなんでお前は物凄い勢いで時代をすっ飛ばすのだ! 先に電信作ってからにしろ!」
えー。だってアナログめんどくさいし。
あ、そうだ!
注意しとかないと!
「先に言っときますけど、ナンパとかに使ったらもぎますのでチ●コ」
レイ先輩が内股になりました。
わかりやすいなー。
「では王都にレッツゴーです!」
たいへん遺憾ながら……これが後に大魔王降臨と呼ばれる事件の始まりだったのです。




