第2章 最終話 ネオセシル
「はっはっはっはっは!薄汚い領主よ!正義の名の下に我が貴様を討つ!」
またバカどもが馬に乗ってやって来ました。
私はメリケンサックを両手にはめ、荒んだ目で半笑いしながらボキボキと関節を鳴らします。
ヤンキーのような荒んだ目になった守備兵団や警察の皆さんもクォータースタッフを持って出てきます。
主婦の皆さんはフライパンを持って、職人や商人の皆さんも商売道具を持ってぞろぞろと出てきました。
「ねえ、おじちゃん。パンチパーマって知ってる♪」
私は飛び切りの笑顔で彼らにそう言うのです。
あれから三日が過ぎました。
セシルの街は瘴気に覆われ、いたるところが毒の沼に飲み込まれ、幽霊が飛びまわるヒャッハーランドへ。
要するに二度と人が住めない土地に変貌しました。
村正は瘴気をマナに変換し続け、エクスカリバーも封印した目が生み出す巨大アンデッドを分解し続けマナを放出します。
その生産されるマナの量は、私が生産系の魔法を行使し続けても枯渇しないほどです。
つまりどういうことか?
セシルの街の近くであれば魔法が使えるようになったのです。
おかげで難民キャンプのテントの設置は楽でした。
前世のいくつかの世界で、私は大量の魔導機械を発明してます。
私にとっては設計は思い出すだけの作業なのです。
幸いなことにドワーフさんもいますので生産もいくらでも可能です。
まずはミシンと裁断機を作りテントを大量生産。
木材も必要なのでチェーンソーも生産。
これだけでも住宅建設は楽でしょう。
これから作る予定なのは、列車に自動車、オートバイにチャリ。
あ、その前に道路作らなきゃ。
ブルドーザーにクレーン車に。
あ、そうだついでに農業用のハーベストマシンも作ろ。
水道も引いて、上下水の処理場も作って。
セシルの街も丸ごと魔力供給施設にしちゃうもんね。
計算上では1万年以上分の魔力が供給できる計算ですからね。
夢が広がりますね。
Q.お前……オーバーテクノロジー出し過ぎじゃね?
もう知るか!知らないもんね!
私をこんだけ追い詰めたヤツが悪いんです!
メモリエディタでEXP100倍にしてプレイしてバランス崩れても知らないもんねー!
世界が滅ぼうが何しようが知らんもんねー。
もう怒りました。
完全にへそ曲げましたよ!
世界の片隅でエロい事だけ考えて暮らそうとしてただけなのに。
私が何をした!
いいもん。
嫌になったら世界征服しちゃうもんねーだ!
私は少しだけイラっとしながら横を見ました。
遠くに全裸で正座する数百人の男たちがいます。
全員髪型はパンチパーマです。
セシルの街が滅んだニュースは一瞬で男爵領全体に伝わりました。
それを聞いて喜んだのが地方貴族の中でも頭が悪い連中。
これ幸いとばかりに私たちを消しに来ました。
ドラゴンとアンデッド無限出現すらも滅ぼした我らをです。
もちろんボッコボコにさせていただきました。
Q.全裸正座はやりすぎじゃね?
彼らをタコ殴りにしたのは私を含めた住民全員ですが、全裸正座は私ではありません。
パンチパーマに関してはそそのかしましたけど、直接命じてません。
彼らの制裁がその程度で終わるわけがありません。
刑罰は別です。
私は全裸正座は正式に命じたわけじゃありませんし。
罪人を食わせる余裕の無いこの世界では、懲役や禁固は存在しませんから全て金で解決になります。
理事長が言うところでは財産没収。
本人家族家人まで売却し、それが慰謝料分と。
それが嫌ならファラリスの雄牛とか車輪引きとかでも良いのですよ。
Q.いつもに比べて厳しくないか?
判例がどうであれ人身売買は嫌いなのでしませんよ。
でも全財産没収はやめません。
だって金ないんだもん。
幸いにも、財産は優秀な家人が持ち出してくれましたが、住民の被害の補償に充てなければなりません。
幾ら残るか予想できません。
そんな崖っぷちのタイミングで殺しに来たら倍返しで済むわけがありません。
はっきり言って、殺されないだけ有難く思っていただきたいレベルです。
まあ、コイツらの財産も元は私のものなんですけどね。
全部復興予算にさせていただきます。
当面の現金収入がカツアゲという現実については考えないことにします。
何度も言いますが、もう責任取りません。
こちらは領民食わせなきゃならんのです。
好き放題やるもんね!
次は住民説明会だ……
あーやだやだ。
私は重い足取りでフラフラと集会所に赴きました。
◇
今、私は住民説明会に出席してます。
今回の災害の説明と復興についての説明をしなければなりません。
簡単に言うと土下座したり土下座したり土下座するお仕事です。
ですので私は土下座しながら民衆に向かって言いました。
「すいませんでした。今まで隠してましたが先月エメラルド鉱山発見しました。今回の災害はそれを狙ったテロだと思われます」
「てっめえー!ざけんなこのボケェー!家返せ!」
民衆の皆さんは石を投げました。
一切の容赦なしです。
我慢しなければ。
彼らはこの私の痛みより何倍もの痛みを味わっているのです
痛い。痛い。マジで痛い。
気で防御しても痛い!
なんで投石って絶望的な気分になるんでしょうね。
悪意を投げつけられてるようで、なんか心が折れるんですよね。
顔面にヒット。痛い。
すっと領民のターン。イタタタタタタタ!
痛いってつってんだろが!
「今の誰が投げた!出て来いこの野郎!ゴルァッ!」
私は舌の根も乾かぬうちにマジギレしました。
よく見ると竜殺しの迫力に住民の皆さんはガクブルしてます。
マズイです。
あまりの痛さにウッカリ恫喝してしまいました。
うん。話題変えよう。
「こほんっ。皆さんの家財道具は殿下のお友達のスケさんとカクさんがサルベージしてます。近日中に全て回収できる予定です。
皆さんの家に関してはダークエルフの土地からセシルの街までに再開発計画を設定しました。
近日中に皆さんの家を建てさせていただきます。
職に関してですが職業安定所を設置しましたのでそこに登録してください。
今、重点的に必要なのは道路や住宅の建築、エメラルドの採掘、魔力ジェネレータ施設とパイプライン建設となります」
私は計画について説明を始めます。
まずはチェーンソーがあるので簡易テントではない仮設住宅の設置。
総人口3000名程度、1000世帯分なので、なんとかなるでしょう。
その後、外貨獲得手段のエメラルド鉱山に労働者を割り当て。
鉱脈が地面に近いおかげで露天掘りできますので事故率は低いはずです。
で、残りは住宅建築しながら工業製品の全力生産。
ドワーフさんの生産スピードなら重機はあっという間にできます。
あとはオペレーターですが、ああいうのゴブリンとかオークが上手なんですね。
なのでサブたちには、すでに試作機で練習してもらってます。
当面は妖精さんの不思議な道具で誤魔化しきる予定です。
食料はダークエルフさんが狩猟や採集で調達してくれるそうです。
まだ冬じゃないのでドラゴンさえいなければなんとかなるとのことです。
しばらくは瀬戸際の運営になりますが仕方ないでしょう。
「補償金についてですが……」
息を呑む民衆。
ざわざわという声も出ません。
うん?なんだろう?
「半年後を目安に貴族以外には一家族当たりに平均年収額一年分。
具体的には金貨15枚相当を支給します。
それとは別に子供一人当たりに加算分が発生します。詳しくは後日、私のテントの近くに貼り出します。
文字が読めない方は守備兵団の団員に読んでもらってください」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
歓声。
ん?なんでしょう?
「ヒャッハー!やっぱり領主様は最高だぜ!」
「税金上げられるのかと思ったが金くれるとは!」
「アレックスちゃん最高!」
私はキレています。笑顔で。
さっきまで容赦なく人に石投げてたよな。コイツら。
殴りたい。殴ってパンチパーマにして全裸正座の列に加えたい。
いつかコイツら全員泣かしてやります。
私は心の中でそう誓いました。
あー。次はホルローと交渉だ。
めんどくせえ!
◇
「うん。つまりそれは私を嫁にするという意味だな」
ホルローのバカが意味不明なことを言っています。
「そうじゃなくてですね。対価払うんで草原貸してください」
私の考えた新しい都市計画。
それは中世型の城門で都市を囲むものではありません。
数百キロも建物が並び、それらが公共交通機関で結ばれる現代型の都市。
流通を支配し、文化の中心になる都市。
これが、近々やって来るだろうと思われる武器商人に対抗する最後の一手です。
そのためには周辺の土地全てを手に入れる必要があったのです。
対価なんぞマナパイプラインとエメラルドでいくらでも払ってくれるわ!ガハハハハハハハ!
「あの草原は我らが偉大なる祖霊の加護を受けた族長のものである。つまり族長になった貴様のものだ」
斜め上の答えが返ってきました。
ああああああー!私は族長になった覚えはねえ!
なぜコイツはこうも話が通じない。
他のダークエルフはマトモなのに。
「フッ。虐めるのはこれくらいにしてやろう」
ホルローが微かに笑いました。
なにげに笑顔が怖いです。
「アレックス。お前には感謝している。
大人の男が死に絶え、女だけになった我が部族を救ってくれた。
新しい子が生まれる日も遠くないだろう。
私は前族長の娘として、族長のお前のものになる義務がある。
要らんと言っても無駄だ。わかったな」
そう言ってテントを出て行くホルロー。
問答無用です。
女にモテテもうれしくない。
うれしくないです。
はふん。
この件も追々解決しないといけません……
はふん。
◇
セシルの街崩壊から2ヵ月後。
王女救出の命を受けた国軍がセシルの街に到着した。
その数、およそ3万。
領内にもかかわらず2ヶ月も彼らは何をしていたのか?
行軍は困難を極めた。
兵士の病気に相次ぐ馬の怪我に馬車の故障。
呪われたと言う噂が飛び交い、脱走兵が何人も出る始末。
結局、馬が使えなくなり徒歩行軍になった。
彼らは何時まで経ってもセシルの街に到着できないでいた。
相次ぐアクシデントにより兵たちに見えるのは疲労の色。
士気は落ち、足取りの重い兵士たち。
このままでは戦うことができない。
それはいつしか彼らの共通認識となっていた。
そんな彼らが滅亡したセシルの街で見たもの……それは。
『ようこそネオセシルの街へ!』
セシルの街の壁の横に光る看板。
異常なほど平らな道路。
大量の荷物を積んだ車輪のついた箱が道路を走る。
ネオセシルの街の入り口では陽気な歌が流れている。
ネオネオネオネオ ネオセシル
買い物するなら ネオセシル
じじいもばばあも ネオセシル
揺りかごから 墓石まで ネオセシル
~セリフ~
俺 ネオセシルで買い物したらあの娘に結婚を申し込むんだ
ネオネオネオネオ ネオセシル
買い物するなら ネオセシル
じじいもばばあも ネオセシル
揺りかごから 墓石まで ネオセシル
※応援団のように声の大小で音程を調節。
陽気だが頭のおかしい曲が流れる道を真っ直ぐに進むと案内所という看板が掛かった建物が見えた。
そこで兵士を出迎えたのは、デパートガールのような制服を着て帽子を被る見目麗しい女性。
ダークエルフである。
「いらっしゃいませ!ネオセシルの街は初めてですか」
わずか2ヶ月で異常な変貌を遂げた男爵領。
完全に開き直ったアレックスの暴挙が世界を蹂躙しようとしていた。




