170.祝福
五神国会議が終わって5日が経過した。
わたし達は冬條殿に別れを告げて夏陽国に戻ってきていた。
怜秋は、一足先に秋唐国へ戻り珀樹殿は、冬羽国に残って移住の手続きをしている。
キーサ帝国の事は無事に解決し、やれやれと言ってゆっくり過ごしていた午後だった。
まるでわたし達が帰ってくるのを見計らっていたかの様に、虹珠殿達がやってきたのだ。
「久しいな!雷坊!」
「…叔母上様…何故いつも事前に連絡を頂けないのですか?」
げんなりした様子で、虹珠殿達を迎え入れる雷覇。
相変わらず彼女に対する雷覇の態度は嫌々しているように見える。
でも、この誰のいう事も聞かないあたりが雷覇とそっくりだった。
雷覇は自覚ないのだろうけど…。
「言う必要はないからな!それより水蓮殿が妊娠したと聞いている!彼女と水坊を祝いにやってきたのだ」
「もっと早く着たかったんだけど~、雷ちゃん達忙しそうだったから♡」
「だから…今日来ることにしたんです…」
「はぁ…。来てしまったものは仕方ない。ひとまず応接室へご案内します」
雷覇の態度にひるむ様子もなく、3人はいつも通りだった。
まぁ…。雷覇が言い負かせる日なんて来ないんだろうけど…。
わたし達は虹珠殿達を応接室へ案内した。
すると部屋にはすでに水蓮殿と水覇殿が待っていた。
「水蓮殿!この度は妊娠おめでとう。これは祝いの品だ」
「わぁ!虹珠様…ありがとうございます!」
「元気な赤ちゃんを産んでね~♡」
「体調は…どうですか?」
「はい。悪阻も収まって今は落ち着いています」
ニコニコしながら、虹珠殿達と話をする水蓮殿。
わたしもお祝いの品…後で渡そうっと!気に入ってくれるといいんだけど…。
それにしても、水蓮殿、元気そうでよかった。
妊娠が分かってから体調がすぐれない日が多くて会う機会が無くなっていた。
「水蓮殿。お久しぶり!これ…私と雷覇からのお祝いです」
「まぁ!ありがとうございます!開けてもいいですか?」
「ええ。気に入って貰えるといいんだけど」
丁寧な手つきで水蓮殿が封を解いて箱を開けていく。
箱の中にはガラスのケースに入った枯れない花が入っていた。
ガラスケースには桃色に黄色、水色の色とりどり花が中にびっしり詰まっていた。
「わぁ…!きれい…」
「冬羽国の冬條殿が作ってくれたの」
「そうなんですね!とっても素敵です」
「良かった!気に入って貰えて」
「匂いもないですし…これなら部屋に飾っておけます」
「特殊な薬で加工しているからずっと綺麗なまま保てるそうよ」
「凄い…。そんな事も出来るんですね」
眩しいくらいの笑顔で大事そうに箱を見つめながら話す水蓮殿。
彼女は今、匂いの強いものを嗅いでしまうと気分が悪くなり吐いてしまうのだそうだ。
匂いがしない花を愛でれれば少し気も紛れるだろう。
また、冬條殿にお礼の手紙を書かないと…。
「ほぉ…。これは見事な花だな」
「虹珠殿…」
「そうね~。まるでさっきまでお庭で咲いて居たみたいね♡」
「虹禀殿。ありがとうございます。友達が作ってくれたんです」
「怜彬ちゃんは…沢山いいお友達がいるのね…」
「夏緋殿…」
わたしはいつの間にか、叔母上様達に取り囲まれてしまった。
ううう。相変わらずいい匂いで、フェロモンが凄い!!
「有難い事です。でも…きっかけは雷覇なんですよ?」
「まぁ!雷ちゃんが?」
「はい。雷覇がうちに来てくれて、その後夏陽国に来てから沢山の人と会う機会を得ました」
「おお!我が甥も少しは役に立っているのだな」
「ただの…筋肉馬鹿では…なかったのね」
「夏緋殿。それはいくらなんでも酷いぞ!」
「あら~?でも本当の事でしょう?」
「虹禀殿まで…俺を何だと思ってるんですか?」
「ふふふ。雷覇はいつも良くしてくれてますよ。叔母上様」
わたしがこうして沢山の人達に囲まれているのも雷覇と再会してからだ。
サイガにムツリ、それにスバルにリヨウ…バル爺にマダムベリー。
ほんとうに沢山の知人が出来た。
「俺から叔母上様達に報告がある」
「なんだ?改まって」
「ようやく俺と怜彬の結婚が決まった」
「おお!やっとか。それはめでたい!!」
「あら~♡やっと雷ちゃんもお嫁さんを迎えられるのね~」
「孫の顔が…楽しみ…」
夏緋殿…いくらなんでも気が早すぎ!
でも、皆わたしと雷覇の結婚をとても喜んでくれてる。
叔母上様に囲まれている雷覇はなんだか子供のようだった。
「式はいつだ?場所なども決まっているのか?」
「まだこれからで…。雷覇が四季国で挙式をすると言っているので…」
「なに!?…四季国でだと…」
「虹珠殿…?」
不意に虹珠殿の雰囲気が物々しいものに変わった。
わたしはゴクリと生唾を飲んだ。
何か…いけない事を言ってしまったのかしら?
「あの…」
「雷坊…お前ってやつは…」
「叔母上様?どうしたんですか?」
肩を小さく振るわせて拳を握っている。えっ!怒ってるの?!
空気がピリピリしていきなり皆に緊張が走った。
雷覇はきょとんとした顔をしている。何で何も感じないの?!
「よくやった!!さすが我が甥だ!」
「ありがとうございます。叔母上様」
「四季国で挙式か…悪くない。我が甥と怜彬殿の晴れの舞台には相応しいな」
「そうね♡四季国なら私の夫の知り合いもいるからお手伝いできることもあるわ~」
「これは…準備に気合が入りますね…」
「怜彬殿!もう何も心配する必要はないぞ!私達が腕によりをかけて舞台を整えよう!」
「えええっ!!」
「楽しみね~♡うちは女の子がいなかったから~♪ドレスは何にしようかしら~」
「招待客のリストアップや進行表…諸々は私にお任せください」
ちょ…ちょっと!待って~!!!
何で虹珠殿達の方が気合が入ってるの!!
せっかくわたしが考えてなるべく楽に済ませるようにしてたのに~(泣)
わたしは半泣きで雷覇を見た。
すると雷覇は満面の笑みで良かったなと言ってきた。
良くなーい!!!
「ううう…。なんでこんなことに…」
「怜彬。君は何も心配する必要はない!俺達に任せておいてくれ」
「そうだぞ。怜彬殿!歴史に名を刻む式にすると誓おう!」
「叔母上様!初めて意見が合いましたね!」
「そうだな!雷坊。私も同じことを考えていた」
バシンと大きな音を立てて手を握りかわした雷覇と虹珠殿。
ここで仲良くなってどうするのよ~!雷覇はわたしの味方のはずでしょ?
でも、今さらやめて欲しいと言える空気ではない。
もう虹珠殿と雷覇は式について話をしているし
虹禀殿は夏緋殿とあれこれ指示し始めている…。
「怜彬殿。ご愁傷様」
「水覇殿ぉ…!」
「こうなっては止められない。叔母上様達の好きにさせてやってくれ」
「はぁ…。厳かなこじんまりとした式にしたかったのに…」
「叶わない夢は見ない事だ。怜彬殿…何事も諦めが肝心だ」
爽やかな笑顔で水覇殿に断言されてしまった。
わーん…。
わたしと雷覇の結婚式は予想外な方向へ話が進むことになった。
もうこれはただの結婚式ではない…。
雷覇は五神国の首脳陣を招待しているし
準備には虹珠殿達が絡んでくる…。
わたしの望みはかなわないだろう。せめて…重たい衣装だけはやめてくれと言おう…。
後でコッソリマダムベリーに手紙をしたためるのだった。
「やはり…女の子がいると良いな!」
「ええ。怜彬ちゃんは私達の娘ですものね♡」
「撮影隊も…準備させましょう…」
「そんな大げさな!」
「そんな事はない。せっかく雷坊に嫁いてできてくれるのだ。式はより良いものにしたい」
「水ちゃんの時は何もできなかったものね~」
「この三人なら結婚式をやったことがあるし…色々アドバイスできると思うわ…」
「皆さん…」
そうか…。彼女たちなりに喜んでやってくれているんだな…。
聞けば三人とも女の子の子供はおらず息子ばかりで、結婚式には縁遠かったそうだ。
わたしには母親がいないから…逆にちょうどいいかもしれない…。
思わず瞳が潤んで泣きそうになった。
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
「ああ!任せておけ」
「なるべく怜彬ちゃんに負担のかからないようにするから~♪」
「ご飯も…食べれるようにしますね」
「本当に…めでたい!炎覇にも見せてやりたかったな…」
「ええ。そうね♪」
「きっと私達と…同じような事を言うでしょうね…」
「…」
そうだろうな…。炎覇ならきっと祝福してくれるだろう。
穏やかな笑顔で叔母上様達に囲まれたわたしはとても幸せ者だ。
本来なら嫁ぐ方が金銭的に負担するところだが、それも夏陽国で負担してくれるんだそうだ。
もちろん虹珠殿達のポケットマネーも含まれている。
彼女たちの財力と人脈の広さを駆使すれば四季国での挙式も造作もない事だろう。
ここは素直に好意を受け取ろう…。せっかく三人とも喜んでくれているし。
わたしは三人の顔を眺めながらそんな事を考えていた。
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