157.帰還
「怜彬!!」
「雷覇?」
パン屋さんで保護されてしばらくしたら雷覇が迎えに来てくれた。
わたしは立ち上がって彼の元に駆け寄った。
「良かった!無事だったんだな…」
「ええ。わたしは無事よ」
「どこも怪我してないか?痛い所はないのか?」
「大丈夫よ。ちょっと足を擦りむいただけ」
「足?…手も怪我してるじゃないか!!」
「ちょっと逃げようとした時に怪我したのよ…」
グッと言葉に詰まって悔しそうにする雷覇。
心配かけちゃったな…。
申し訳ない気持ちになっていた時にふわっと抱かれてしまった。
「雷覇?」
「ひとまず王宮へ戻ろう」
「うん…」
うわ‥‥。久しぶりの雷覇の香り‥‥。
たった三日しか離れなかったけど…凄く懐かしく感じた。
思わず泣きそうになったけど、何とか堪えて保護してくれた女性にお礼を言った。
「あれ…?馬車は?」
「馬車じゃ時間がかかるから馬を走らせて来た」
「えっ!!そうなの?」
「俺と一緒に乗って帰れば大丈夫だ」
「でも…わたし馬に乗ったことない…」
「怜彬は座ってるだけでいいよ」
そう言って雷覇に横抱きにされたまま馬の上に乗せられた。
思ってた以上に高い…。
それに足元がスースーして落ち着かない。
今着ている服は上着は借り物だけどその下は寝巻のような薄い服だ。
下着は着けてるけど…心許ない…。
「‥‥怜彬これを膝にかけてろ」
「あ…ありがとう」
雷覇が上着を脱いで渡してくれた。
ふぃー。これでちょっと安心だわ…。
思いのほか馬の上は上下揺れておしりが突き上げられる。
すごい乗り心地が…独特ね…。
わたしは思わず雷覇にぎゅっと掴まった。
「大丈夫か?」
「うーん…ちょっと怖いかも…」
「そうか。王宮まで少しだ…。ちょっとの間辛抱してくれ」
「うん。頑張るわ!」
「よし!じゃあ少し走るぞ。舌を噛むからしゃべるなよ」
わたしは縦に首を振った。
雷覇がパシンと鞭をうつと馬が走り出した。
城下街はまだ朝早くだったから人通りも少ない。
太陽が昇り始めていて、すこしずつ光が溢れてきていた。
雷覇は巧みに馬を操りながら城下街を駆け抜けた。
すごいなー。
馬ってこんなに早く走るのね!
風を切るように爽快にかけていくのが心地よかった。
雷覇はいつも、戦うときはこんな風に感じるんだろか?
雷覇の顔を見上げながらそんな事を思っていた。
そんな事を考えているうちにあっという間に王宮にたどり着いた。
雷覇が馬から降ろしてくれる。
あれ…?ここって王宮の裏側よね?
到着した場所が正面玄関でないのが少し気になった。
雷覇は何も言わずにわたしを抱っこして
王宮にある二人の寝室に向かう。
なんで…何も言わないの?
「雷覇‥‥あの…」
部屋について尋ねようとしたら雷覇に思いっきり抱きしめられた。
いつも以上に強い力だった。
「怜彬…無事で…よかった」
耳元でポツリと雷覇が呟く。
ああ…。心配してくれていたんだ…。
不安だったのはわたしだけじゃなかったんだ…。
「心配かけて…ごめんなさい」
「いや…守ってやれなくてごめん!」
心配そうに雷覇がわたしの顔を覗き込む。
少し泣きそうな顔をしていた。
雷覇のことだから、傍にいたのに攫われたことを責めてるんだわ…。
わたしは雷覇の頬にそっと手を当てた。
「雷覇…会いたかった…」
「俺もだ。怜彬…」
真っ直ぐな瞳で雷覇に見つめられる。
雷覇の香りや温もりが近くに感じる。
ああ。わたしはやっと帰ってきたのか…。
不意にそんな実感がしてきた。
だんだんと雷覇の顔が近くなってわたしは目を閉じた。
二人は何も言わずに唇を重ねた。
わたしは嬉しくなって思わず涙がこぼれた。
やっぱり…雷覇の傍が一番いい…。
雷覇は無言のまま唇でそっと涙を拭ってくれた。
わたしは彼のぬくもりに包まれながら唇を重ね続けた。
「…みんなの所に戻らないと…」
「心配ない。アシュラ王子の事は桐生殿と怜秋殿が対処している」
「えっ?桐生おじ様も?」
「ああ。怜彬が攫われてカンカンだったからな」
「うわー…」
それは…。リアルに想像できる。血の気の多い人だ。
わたしがいなくなったと知ったら、猛獣のごとく暴れまわるに違いない。
ちょっと…アシュラ王子が可哀想…。
あの叔父のことだ。
かなりきつい方法で追い詰めるに違いない。
「だからしばらく二人で過ごせる」
「そうなんだ…」
「まずは着替えをもって来させよう。リンリンも心配していた」
「そっか…」
しばらくしたらリンリンが着替えをもって部屋にやってきた。
わたしは再会がうれしくておもわず彼女に抱き着いた。
リンリンもわたしを抱きしめてくれた。
無事でよかったと…。ずっと心配していたとなんども言っていた。
あんなに泣きそうなリンリンを見たのは初めてだった。
リンリンにお風呂に入れて貰って、綺麗な服に着替えさせてもらった。
はぁー。やっぱり我が家が一番落ち着くなー。
わたしはベットの上に思いっきり寝転んで大の字になった。
開放感が凄い…。
やっぱり知らず知らずのうちに緊張していたのね~。
あの時は逃げることしか考えていなかったんだけど…。
「怜彬。疲れてるだろう?しばらく休むといい」
「うん…」
「俺はここで傍にいるから…」
「ありがとう。雷覇…」
雷覇がわたしの手を握って傍に腰かけた。
わたしは疲れもあったのか、ほっとしてしまったのもあったのか
そのまますぐに眠ってしまった。
後から聞いた話だと、怒り心頭で殺気が凄かった桐生おじ様と
冷静ながら淡々と冷ややかに追い詰める怜秋に
アシュラ王子は尋問を受けたらしい‥‥。怖い…。
アシュラ王子のしたことは秋唐国の王族に対する反逆罪だ。
だけどキーサ帝国の王子という事もあり処罰は慎重に検討されることになった。
過激な対応をすれば相手がどんな口実をつけて攻めてくるか分からないからだ。
また、他の五神国とも相談して今後どう対処するか決めていくそうだ。
その為、今までになかった時期外れの五神国会議を行うそうだった。
彼の身柄は一旦、秋唐国で預かることになった。
その間のシャチー王女の対応はわたしがすることが決まった。
とっても嬉しかった。
それにシャチー王女は行方不明だと聞いていたけど、すぐに雷覇達に保護されたらしい。
なんでも自分から抜け出して、人質にするように懇願したそうだ。
なんて兄思いのいい子なの!!
もう少し落ち着いてからアシュラ王子との面会になるらしい。
わたしが目覚めて聞いた話ではこんな感じだった。
何もかも周りの人が対処してくれてわたしは何もすることがなかった。
まぁ…被害者だしね…。わたし。
雷覇も自国で起きた事ではないため静観している。
彼が大人しくしているのが珍しかった。
ちょっと感心してしまった…。
しばらく秋唐国に滞在してから、夏陽国に戻るだろうけど
シャチー王女の事が気がかりだ。
彼女の傍にいてあげたい…。
シャチー王女さえよければ一緒に夏陽国に帰ったらどうかと考えていた。
雷覇に相談したら、それも五神国会議で決めるそうだ。
こちらもかなりデリケートな問題らしく、彼女の対応に関して慎重に対応する必要があるそうだった。
とはいっても暗くなっていても仕方がない!
わたしは努めてシャチー王女と接するときは明るくしようと決めた。
きっと兄が傍にいなくて心細いに違ない。
しかも、自分の国ではないところで過ごすのだ。不安やストレスは相当なものだろう。
彼女の心のケアも必要だと感じていた。
シャチー王女が楽しく過ごせるようにいろいろ考えないとね!
ふぅー…何はともあれ!無事に帰ってこれてよかったな!
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