146.誕生祭~シャチーの想い~
「噂で聞いたんです‥‥怜彬お姉様が【死神姫】って呼ばれてるのを…」
「シャチー…」
わたしが呼ばれているもう一つの異名。
【死神姫】
どうしてシャチー王女がそんな事を?
彼女の表情を見た限りでは冗談を言っているようには見えない。
「お姉様は死神なんですよね?…だったら私を殺してくれませんか?」
「シャチー…!なんてことを」
「私…アシュラお兄様には…幸せになってほしくて…」
「シャチー…落ち着いて、ちゃんと理由を聞かせてくれる?」
コクリと黙ってシャチー王女が頷いた。
殺してくれだなんて…。
8歳の女の子が言うセリフではなかった。
わたしはシャチー王女の手を引いて近くに会ったベンチに腰掛けた。
「アシュラお兄様はいつも私の事を守ってくれます…どんな時も」
「とっても優しいお兄様ね…」
「父の後を継いで…王様になるのも私の為なんです‥‥」
「そうなの…」
「ほんとうは…もっとやりたいこととか…好きな事があるのに…私の為に全部諦めてるんです…」
シャチー王女は自分のスカートをぎゅっときつく握りしめたまま話を続けた。
目には涙が滲んでる…。とても苦しそうな表情だった。
「私が…いたらお兄様はずっと…私の為に…生きようとする。それを止めたいんです‥‥」
「だから死にたいって思ったの?」
「はい…。私がいない方がじゆうになれるんじゃないかって…」
「それで…アシュラ王子が幸せになるの?」
「だって…!!他に‥‥方法がないんですもの‥‥!!」
「シャチー…」
「だから…【死神姫】の噂を聞いたとき…ピッタリだって思ったの…一緒にいれば私は死ねるんじゃないかって…」
ポロポロと涙を流しながら切実に訴えてくるシャチー王女。
彼女がここまで必死なのは全て兄であるアシュラ王子の為。
大切な兄に幸せになってほしい。でも…そのためには足枷になっている自分はいない方がいい。
彼女はそんな事を考えてわたしに会いたいと言ってきたのだ。
まだ…こんなに小さいのに。
わたしはシャチー王女の手をそっと自分の手を重ねた。
「シャチー…もしお兄様があなたの為に死ぬって言ったら、どんな気持ちになる?」
「…っ!!そ…れ…は」
「とっても苦しくて、悲しくて‥‥身が引き裂かれる思いなんじゃない?」
「はい…」
「今あなたがしようとしてることは、そういう事よ?」
驚いたようにバッと顔を上げてこちらを見上げてくるシャチー王女。
思いもしなかったのだろう…。
彼女はまだ幼い。とても純真で真っ直ぐだ。
真っ直ぐがゆえに周りが見えず相手がどう思うかまで考えが至っていない。
「大切な人が…自分よりも先に死んでしまうのって…とっても辛い事なのよ…?」
「怜彬…おねえさま…」
「わたしは最初に嫁いだ人の事が大好きだった…でも…病気で死んでしまったの」
「そう…なのですね…」
「その時はとっても辛かった…。毎日泣いていたわ…」
「‥‥」
「何を見ても…何を食べても…彼の事を思い出して…苦しかった」
「わ…たし…」
ブルブルと唇を震わせながら、わたしの言葉に耳を傾けるシャチー王女。
どうか…気づいて欲しい。相手の為に死ぬなんて愚かな事だって。
【死神姫】に会えば死ねるかもしれない…。
幼い彼女が必死に考えて悩んだ結果だったのだろう。
でも彼女はとても賢い。きっと…気が付いてくれるはず…。
わたしはシャチー王女の頭をそっと撫でた。
「シャチーはお兄様が…大好きなのね…」
「う…うう…」
「よく分かるわ…。わたしも弟の事が大好きだもの」
「すき…です…おにいさまが…」
「お兄様もきっと同じ気持ちよ…きっと」
シャチー王女が涙を流しながら、わたしを見つめてくる。
兄の為に死のうとしているくらいだ…。
ほんとうに…お兄さんが大好きなんだわ…。
その気持ちを何とかいい方向へ持っていけたら…。
「わ…たし…どうしたら…このままじゃ…」
「大丈夫よ。シャチー…」
「このままじゃ…おにいさまは…」
「落ち着いて…シャチー…」
「おにいさまを…とめないと…」
むせび泣きながら、懸命に何かを伝えようとするシャチー王女。
こんなに…必死になって…。好きだって以外に何か理由あるのかしら?
わたしは彼女の背中をさすりながら落ち着くのを待った。
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「本当に…お前は何をやっても愚図だな!」
一番上のお兄様に叱られてしまった。理由は分からない。
私は怖くて何も言えずにその場に立っていた。
機嫌の悪い時の兄は、物を投げたりたたいてきたりとても恐ろしい。
とにかく何も言わずに黙っていることが一番いい事を私は経験から知っている。
「…」
「ちっ!皆で俺をバカにしやがって」
パリーン
傍にあった花瓶を手に取り思い切り壁に投げつけた。
私はびくりと肩を震わせて割れてしまった花瓶を見つめた。
いつか…私も‥ああなるのかしら。
仕事の事で父からお咎めを受けそれに苛立った兄が部屋に入ってきた。
いつもそうだった。
何か気に入らない事があるとここにきて当たり散らし
気が済んだら何もなかったの様に去っていく。
アシュラお兄様‥‥。たすけて…。
わたしはぎゅっとスカートを握り締めて祈った。
恐ろしい家族から唯一、私を守ってくれる存在。
優しくて何でも知っていて、いつも楽しい話をしてくれる。
大好きなお兄様…。
「兄さん!何やってるんだ!」
騒ぎを聞きつけて部屋に駆け込んできたアシュラお兄様。
私はホッとしてお兄様に駆け寄った。
「アシュラお兄様…」
「シャチー!!」
傍に駆け寄ってわたしをぎゅっと抱きしめてくれる。
そして頭を優しく撫でてくれる。
よかった…。お兄様が来てくれた…。
「兄さん!シャチーに当たるのはやめてください!」
「うるさい!!俺に命令するな!!」
毎日こうだった。
私が何を言っても何をしても怒る兄。
その度にいつもアシュラお兄様とけんかしている。
私が‥‥。ドジなばっかりに…。
アシュラお兄様の服を握り締めながら、自分を責めた。
そしてしばらく言い合いが続いた後、兄は部屋から出て行った。
「シャチー…怪我してない?大丈夫?」
「うん…大丈夫よ。アシュラお兄様」
「ごめんね…来るのが遅くなって…」
「ううん」
わたしは首を横に大きく降った。
そんなことない…アシュラお兄様はいつだって私を守ってくれる。
どんな時でも駆けつけてくれる。
まるで本の中の騎士みたいに…。
部屋を片付けている間、アシュラお兄様と図書室へ移動した。
いつも二人で過ごす場所だった。
ここには恐ろしい二人の兄も入ってこない。
「今日は何の本を読もうか?」
「これがいいわ!」
私はお気に入りの本を手に取ってお兄様に渡した。
今、すごくはやっていると聞いて仕入れてもらった。
国王と王女様のラブロマンス小説。
ちょっと難しくて分からない部分も多いけど
王女様がとっても素敵な本だった。
「シャチーは本当にこれが好きだね…」
「だって…とっても素敵なんですもの…この怜彬王女様…」
「そうかい…この人は実際に存在している人物なんだよ?」
「ほとう?物語だけじゃないの?」
「ああ。名前は違うが秋唐国とういう遠い国に住んでるんだよ」
「しゅうとうこく‥‥」
聞いたことがない国だわ…。
でも…お兄様が嘘を言うはずない…。
ほんとうに本の中の登場人物がいるのだとしたら…。
「会いたい!」
「シャチー?」
「この…怜彬王女に会いたい!」
「怜彬王女に?そうか…」
やっぱり…。ダメかしら?
産まれてから今まで城の以外を世界を見たことがない。
お城の中ですら行ける場所は限られている。
そんな私が遠い異国へ行けるはずがない…。
「行こう!シャチー」
「えっ?」
「秋唐国へ行こう!そして怜彬王女に会おう」
「ほんとうに…ほんとうに会えるの?」
「ああ。何とかするよ」
「ありがとう!!アシュラお兄様!」
私は嬉しくなってお兄様に抱き着いた。
嬉しい!
外の世界に出れる。そして憧れていた宝石の妖精さんにあえる…。
私は嬉しくて心が弾んだ。
久しぶりにどきどきしてワクワクした。
「シャチーが久しぶりに言ったお願いだ…。絶対に叶えるよ」
「アシュラお兄様…」
「大丈夫。シャチーには僕が付いている…僕が守ってあげる。ずっと傍にいるからね…」
そう言って優しく頭を撫でてくれる。
優しい笑顔でほほえんでいつも私の事を守ってくれるアシュラお兄様…。
嬉しい。
アシュラお兄様がいれば何もいらない…。怖くない…。
でも…。
アシュラお兄様は?誰が守ってくれるの?
誰が幸せにしてくれるの?
最近ずっと考えていた事だった。
優しい兄が自分を犠牲にして私を守ろうとしている。
私がいなかったらもっと自由になれるのではないか?
なりたくない王様にならずに済むのではないか…?
わたしが兄の幸せをうばっているのではないか…?
そんな事ばかり頭によぎる。
アシュラお兄様には…幸せになってほしい…。
私ばかり貰ってばかりではなだめ。
私にできることでお兄様に幸せになってほしい。
私は手にしていた本を見つめて思い出した。
そうだわ…。【死神姫】にお願いしてみよう。
死を呼ぶ姫。嫁いだ先で次々に相手が死んでしまうと言われている人。
この人なら私を殺すなんて簡単だわ…。
そうすれば兄はわたしから自由なる。
自分を犠牲にしなくていい。
とても素晴らしい思い付きだと感じた。
私はそんな思いを秘め、宝石の妖精…そして【死神姫】に会えるのを待ちわびるのだった。
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