学校にいる口紅の魔女の話
美術の先生は評判の悪い先生だった。お母さんは「男の子たべちゃうらしいよ」って言ってた。
当時は意味が良く分からなくて、「先生だって男子を好きになっちゃうことくらいあるよね」って思ってた。
他の先生と違って、紫色のアイシャドウや黒の目尻のアイラインに、紅の口紅が、魔女って感じの怪しさで素敵だった。
男子は「マジでキモい」って言ってたけど、私は何が嫌なのか分からなくて、先生に好きになってほしかった。
だから先生の手をよく見てた。赤のネイルをしていた気もするけど、さすがに先生だから私の記憶の捏造かもしれない。
私は美術の授業が好きで、版画や水彩画などは家に持ち帰って何日もかけて作り込んでいた。
母が油絵をやっていて、当時から私はピカソやモネなどの印象派の絵画をよく目にしていたので、私の作品はかなり毒々しい色使いをしていた。
空は青ではなくて紫で、影は黒ではなくて紺だったから、見るからに「うわぁ、すごい根暗」って感じが出てた。
私の絵は林の風景画だけど、クラスの秀才は、さらっとした水彩画にかわいい雀の絵を書いていて、「生き物がいる……」って驚いた。私とは違うんだなってちょっと憧れた。
ある日、誰の作品が良いと思うか投票しようってことになった。
一番人気はもちろん才女の絵で、私の作品は数人しか投票してくれなかったけれど、美術の先生は「いい味出てるんだけどなぁ。みんなはまだ分からないかぁ」って言ってくれたから、先生が分かってくれるなら良いかなって思ってた。
私の作品は出展されることはなかったけど、学級便りだったかな、季節の配布物の表紙には良く使われていたから、他の先生達も好きになってくれるなら結構良いのかなって思ってた。たまに、近所のおばちゃん達からも、「あの版画すごいわね~」って言われるのも嬉しかった。
夏休みが明けた後、先生が少しやつれてた。
「先生痩せたね」って言ったら「キレイになった?」って笑ってたけど、後で母が「なんかまた問題起こしたらしいよ」って言ってた。
私は何が問題なのか分からなかったけれど、それ以来、先生は授業中にちょっと意味深なことを言うことがなくなった。
なんで人を好きになることがいけないことなのかなって、この時の気持ちは、今もどこかにずっと残っている。




