最終話 転生魔導王は、底辺職の黒魔術士が、実は最強職だと知っている
「ベヒーモス、合体解除だ」
【……了解した、ティオ殿】
ティオの声に、静かにそれでいて悔しそうな声で答えるベヒーモス。
ナイトオブベヒーモス形態を解除すると次元の狭間へと戻っていく。
「そうだ、それでいいいんだよぉ……ッ!」
血走った目と殺意を剥き出しにするルシウス。
右手で指を鳴らすとスキルを解除する。
「ダ、ダメよ……ティオ、私のことは、いいから……戦っ……て……ッ」
ルシウスのスキルから解放されたアイラが息も絶え絶えに声を漏らす。
「無駄ですよ、アイラ様。コイツの甘さはあなたが一番よく知っているでしょう?」
ニタァ……と口元を歪めながらアイラへと視線を送るルシウス。
その言葉に、アイラは「く……ッ」と悔しさに表情を歪める。
心優しいティオ、だからこそ大好きなティオ、そんなティオが私のせいで……と。
「さぁ、ティオ。杖も捨てろ」
「……わかった」
ルシウスの言葉に従い、とうとう杖も放ってしまうティオ。
黒魔術士にクラスチェンジしてから愛用してきた杖が、カランカランと虚しい音を立てて地面を転がる。
「さぁ、これで終わりだぁぁぁぁ……ッッ!」
ティオの方へと杖を掲げ、その先端に凄まじい魔力を収束していくルシウス。
「なるほど、ヨルガムンドと同等のブレス……いやそれ以上の攻撃か」
ティオはそのことを察し、瞳を閉じる。
そして…………
ドゴォォォォォォォォォォ――――ッッ!!
ルシウスの杖から凄まじい巨大魔力砲撃が放たれる。
もはや前後左右、どこにも逃げ道はない。
ティオの姿が飲み込まれていってしまった……
「ティオ……っ」
アイラが声を漏らす。
「アハハハハハァァァァ!! ついに、ついにあの小僧を消し去ったぞ! さぁ、アイラ様、このまま私の物になってもらい――なぁっ!?」
笑い声を上げながら振り返るルシウス。
しかしその声が途中で驚愕の色に染まる。振り返ったルシウスのその視線の先に〝無傷のティオ〟が立っていたのだから。
「な!? き、貴様……どうやって!」
狼狽するルシウス。
対しティオは――
「ぼくはね、武装しか解除してないんだよ」
と静かに答える。
その直後、ハ……ッ! と息を飲むルシウス。
ティオに全武装を解除させたことで勝利を確信し、その興奮あまりルシウスは気付いていなかったのだ。この廃墟の中を満たす〝漆黒の霧〟がまだ消えていなかったことに……。
そう。ティオは、武装は解除しても《ブラックブザートラップ》の発動までは解いていなかった。
そして攻撃に飲み込まれるその刹那に、対オーギュスト戦で会得した能力を使いルシウスの背後に転移したのだ。
「くっ……!? だ、だからどうした、例え今の攻撃を回避したところで貴様にもはや武装はない! 私の勝ちなのだよ!」
そう言って、ルシウスが再び魔力の収束を始める。
そしてその背後から数えきれないほどの魔力の鎖が伸びる。
例え魔力砲撃を避けられようとも、鎖で確実に息の根を止めるつもりのようだ。
「さぁ、これで終わ――ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッッ!?」
これで終わりだ! そう言おうとしたルシウスの声が叫びに変わる。
そしてその体に七つの禍々しい形をした漆黒の魔剣が突き刺さっているではないか。
「何を……した……ッ!?」
口からおびただしい量の血を吐きながら呻くルシウス。
ルシウスが攻撃を放つ瞬間、ティオはヨルガムンドを倒したことで新たに目覚めたEXスキルを発動した。
その名も《セブンスブラック》――
このスキルは《ブラックブザートラップ》が発動している状態でしか使えない力だ。
効果は《ブラックブザートラップ》による漆黒の霧を高密度に収束することで、七つの魔剣を突き刺すという事象を発生させるというものだ。
「そ、そのようなスキル……。ティオ、貴、様は……何者だ……っ」
もはや絶望の色に染まった瞳をティオに向け、声を漏らすルシウス。
ティオは静かに――
「ぼくは、〝転生魔導王〟だ。そして知っているんだ。〝底辺職の黒魔術士が、実は最強職〟だということを」
そう言って、漆黒の魔槍――《ブラックジャベリン》を召喚し……ルシウスにトドメを刺すのであった。
「アイラ、大丈夫かい?」
「ええ、また助けられちゃったわね」
ルシウスの鎖から解放されたアイラに手を差し伸べるアイラ。
その手を握りしめながら、アイラは頬を染めるのであった。
◆
「あ、戻ってきました!」
料亭の前で遠くの方を指差すアイリス。
ベルゼビュートを始めとした面々がそちらの方を見ると、そこにはアイラをおぶったティオの姿が。
「アイラ様、その感じだとまたピンチに陥っていたようですね?」
「でも、またまたティオくんに助けてもらったんだね!」
ラティナスは呆れたような表情で、エイラはニシシと笑いながらアイラに声をかける。
アイラは恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな表情で「うんっ」と答えるのであった。
「勇者様も戻ってきたことだし」
「……飲み直す」
「まだまだイケます!」
そう言って、ユリにスズ、そしてダリアが料亭の中へと戻っていく。
「私たちも戻りましょうか」
「そうね、リリスもフェリスもまだ寝てるでしょうし、起きないうちにね」
アイリスとベルゼビュートも料亭の中へと戻っていく。
その口ぶりからするとリリスとフェリスは料亭の客室で眠っているようだ。
「私たちは一応アイラ様の手当てをしましょうか」
「と言っても、もう大丈夫みたいだけどね〜」
そんなやり取りクスクスと笑いながら交わすラティナスとエイラ。
二人は気付いているのだ。すでにアイラの体は回復しているが、ティオに甘えたくておんぶしてもらっていることを。
「むぅ〜……」
と恥ずかしそうに頬を染めるアイラ。
そんなアイラに苦笑しながら、ティオは料亭の空いている客室に通してもらうのであった。
◆
数時間後――
「ふふっ、みんな酔い潰れちゃったわね」
料亭の客室で完全に眠ってしまった面々を見て苦笑するアイラ。
ティオも「そうだね」と一緒に苦笑してしまう。
「ねぇ、ティオ。少し外に出ない? 裏庭に桜が咲いていて綺麗らしいの」
「いいね、少し出ようか」
そう言って、二人で客室を後にする。
裏庭に出ると、そこにはいくつかの桜の木と小さな池、それらが月明かりに照らされて幻想的なまでの風景を醸し出している。
「ティオ、本当にありがとう。あなたには感謝してもしきれない、それに……大好きよ」
アイラはそう言って、隣に立つティオの手を優しく握る。
「アイラ……」
小さく彼女の名を呼ぶティオ。こんな時、どうしたらいいかわからない、そんな表情を浮かべている。
そんなティオに、アイラは「ねぇ、お願い。一回だけ……」と言って、目を細めながらその唇をそっと近づけてくる。
桜の花びらが散る中、月明かりに照らされた二人の唇が静かに重な……りそうになったその時だった――
「あー! 嫌な予感がして目覚めてみればやっぱり!」
「アイリス、よくぞ起こしてくれたわ!」
そんな声とともに、アイリスとベルゼビュートが現れた。
それだけではない。その後ろからダリア、ユリ、スズが――
「ズルいですよ!」
「そうだ、例え勇者様とはいえ!」
「……抜け駆け禁止!」
と歩いてくる。
「うひょ〜!」
「アイラ様もなかなか素直になりましたね」
エイルとラティナスに至っては野次を飛ばす始末だ。
「へへ〜ん! 私たちはティオにちゅーしたことあるもんね〜!」
「です〜! ティオさんとのちゅーは心がぽかぽかするです〜!」
そんなふうに言いながらティオの方へとすっ飛んでくるリリスとフェリス。
「もうこの際だからみんなでティオ様に口づけをしてもらっては?」
「独り占めできないのは悔しいけど、それもありかしら?」
酔っているのか、そんなことを言い出すアイリスとベルゼビュート。
その言葉を聞き、ダリア、ユリ、スズが「「「私も!」」」と一緒ににじり寄ってくる。
「そ、それだったら私が最初を……!」
ここまできたら勢いよ! とアイラまでティオを追い詰めてくる始末。
(あれ? ぼくの意志は……?)
そんな疑問を浮かべながら、ゆっくりと、しかし着実に追い詰められていくティオ。
転生魔導王の受難、そしてその旅はまだまだ続くが……それはまた別のお話――。
転生魔導王は、底辺職の黒魔術士が、実は最強職だと知っている 完
最後までこの作品をご愛読いただき、ありがとうございます。
皆さまからの温かい感想など、執筆の励みになりました。
この物語は一旦ここで完結ですが、いつの日か機会があればアフターストーリーやSSなどを書けたらいいなと思っております。
その際は活動報告などでお知らせいたしますので、ぜひ作者をお気に入り登録していただけると嬉しいです。
もう一つ、物語終盤に登場したサヤについてですが、こちらの作品(https://book1.adouzi.eu.org/n9771fp/)で主人公として活躍しておりますので、興味があればぜひ。
改めまして、最後までお付き合いいただきありがとうございました。




