98話 危機
そんな時だった――
カッ!! とアイラの首から下がったペンダントが黒色の閃光を放った。
そしてその光の中から……
「ルシウス、本当に落ちるとこまで落ちたんだな」
静かな、それでいて怒りを孕んだ声とともに漆黒の魔術士――ティオが現れた。
「ティオ!」
パッと花が咲くような表情でアイラが声を上げる。
逆に、ルシウスは「貴様、どうやって……ッ!」と呻くような声を漏らす。
「そのペンダント、やっぱり渡しておいて正解だったな」
そう言ってアイラの方に視線を送るティオ。
その言葉でアイラは「は……っ!」と思い出す。
このペンダントを渡された時、ティオが「もしぼくが必要な時は、それを首につけてぼくの名を呼んでほしい」と言っていたことを――。
彼女に渡したペンダント、その名は〝ブラックパンテール〟――
ティオが自身のE Xスキルで作り出したマジックアイテムだ。
その効果は着用者がペンダントを作り出した者を心の底から必要とし、その名を強く念じた時に対象を召喚するといったもの。
つまり危機に陥ったアイラのティオを必要とする心からの思いが、彼を呼び出したということである。
「ふ、ふざけた真似を……ッ!!」
激昂の叫びとともに右手を払うルシウス。
その背後の空間から禍々しい紫色の魔力を帯びたいくつもの鎖が飛び出した。
「《ブラックバレット》ッ!!」
ティオは即座に反応し漆黒の魔弾を連続で放ち鎖たちを撃ち落としていく。
「その魔力、そしてその力……なるほど、ヨルガムンドの魂を取り込んだといったところか?」
たった一度の攻撃でその事実を看破するティオ。
彼の言葉を聞きルシウスが「な……っ!?」と動揺の色を見せる。
だがしかし、それも一瞬であった。
例えティオにヨルガムンドを倒す力があるとはいえ、ルシウス自身は元勇者パーティの白魔術士。それがヨルガムンドの力を取り込んだのだから万一にも敗北はない……そう確信している様子だ。
「来い! ベヒーモス!」
ベヒーモスを召喚するティオ。
そのまま融合を果たしナイトオブベヒーモスの姿へと変わる。
さらに続けて《ブラックブザートラップ》を発動。
廃墟の中を漆黒の霧が立ち込める。
「何をしたところで今の私には勝てないのだよッ!!」
吠えるルシウス。
その体から悍しいほどのオーラ、そして凄まじい数の魔力の鎖が飛び出した。
鎖は縦横無尽に飛び回り、タイミングを絶妙にズラしてティオに襲いかかる。
「散れ、テンペストオブベヒーモス!」
高らかに叫ぶティオ。
その装甲の装飾部分がパージして六つのオールレンジユニットとして展開。
襲いくる数々の鎖をことごとく撃墜していく。
「大したものだな、だがコレはどうだ! 《ホーリランス》!」
目を見開き再び魔力の鎖、そしてヨルガムンドの力に染まった紫色の魔法槍を放つルシウス。
だがティオは《ブラックブザートラップ》の力でルシウスの魔力の揺らぎを読むことで即座に対応。
テンペストオブベヒーモスのレーザービームと《ブラックジャベリン》を計算尽くされたタイミングで放つことにより無効化してみせる。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ――ッッ!?」
叫び声を上げるルシウス。
その両肩には《ブラックジャベリン》が一本ずつ突き刺さっている。
凄まじい数の撃ち合いはティオが制した。
攻撃の手数で言えばルシウスが圧倒していたかもしれない。
しかしティオは冷静にルシウスの攻撃の数、そしてタイミングを読み切ることで全ての攻撃を捌いた上で自身の攻撃をヒットさせることに成功したのだ。
しかし――
【さすがはヨルガムンドの魂を取り込んだといったところか】
「《ブラックジャベリン》をまともに喰らって立っているとはね」
そんなやり取りを交わすベヒーモスとティオ。
通常の敵であれば《ブラックジャベリン》一発で即死だ。それを二発も喰らっているのにまだ戦闘続行可能な様子だ。
ヨルガムンドの頑強さ、そして魂を取り込んだばかりでエネルギーが暴走しているからこそ耐えられたといったところか。
「ぐぅぅッ! クソがッッ!!」
呪詛を吐きながら肩に刺さった魔槍を引き抜くルシウス。
しかしその途中、苦悶に染まったその表情が、背筋が凍るかのような邪悪な笑みに染まる。
「使いたくはなかった手だが……《トゥルーペインサクリファイス》ッ!!」
吠えるルシウス。
そして次の瞬間……
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッッ!?」
アイラが凄まじい悲鳴を上げた。
「ルシウス、貴様……!」
フルヘルムの下でルシウスを睨みつけるティオ。
その声からは純粋な怒りが伝わってくる。
「くくっ、そうだ。このスキルは対象に最大級の苦痛、そして時間をかけて死を与える。ティオ、全ての武装を解除しろ。さもなくばこのままアイラ様を殺してしまうぞぉ〜!?」
下卑た、そして狂気にどっぷりと浸かった表情でルシウスが嗤う。
次話(明日の更新)で最終回です。
ぜひ、お楽しみに。




