97話 宴と狂乱
その日の夜――
「ふぅ、ようやくご飯にありつけるね」
煌びやかな料亭の一室で、ティオが少々疲れた様子で座椅子に背を預ける。
この国の統治者――法王へ、七魔族アガレスとバルパトス、そしてヨルガムンドの討伐に成功したことをアイラたちとともに報告し終え、今はこの料亭に夕食と祝宴を開きに来たわけである。
「それじゃあ改めて、三獣魔ヨルガムンド討伐成功を祝って、かんぱ〜い!!」
酒片手に乾杯の音頭を取る相変わらずお調子者のエイラ。
「まったく、あなたはいつでも元気ね」
酒の入ったグラスを掲げつつ呆れた……それでいて微笑みを浮かべるアイラ。
ラティナスもエイラの元気っぷりに苦笑している。
(なんだか、懐かしいな……)
彼女たちの姿を眺めながら、そんなことを思うティオ。
アイラたちのパーティに所属していた頃は大きな任務が終わった後はこうして皆で飲んだものだと。
「どうかされましたか、ティオ様?」
「大丈夫ですよ、アイリスさん。それよりも美味しそうな料理がいっぱいありますし、楽しみましょう」
「ふふっ、そうですね」
そんなやり取りを交わすと、アイリスはティオの分の料理を取り分け始める。
用意されたのはこの国の伝統料理、刺身や天ぷら、煮付けなど様々だ。
「うわ! これ美味しいわね!」
「サクサクしてます〜!」
天ぷらを頬張るリリスとフェリス。
そんな二人を「まったく口の周りを汚して……」とベルゼビュートが面倒を見ている。
その奥ではダリア、ユリ、スズが――
「キョクトウ酒、と言いましたか? やはり美味しいですね」
「ええ、香りもいいし味もいい」
「アルコールも強いからすぐに酔っぱらえるのもいいところ」
などとやり取りを交わしつつ、酒の飲み比べをしている。
ヨルガムンドの討伐に成功したことで皆気が緩んでいるのか、いつになくリラックスモードである。
アイラたちを敵視していたアイリスでさえ、彼女たちとティオのことについて談笑しているほどだ。
そして宴が始まって少しした頃だった――
「さすがに酔いすぎちゃった……少し夜風に当たってくるわね」
そう言って、アイラが席を立つ。
何やら以前ルミルスで別れる際にティオにもらったペンダントを大切そうに指で撫でながら。
今でも大切にしているあたり、よほどティオからの贈り物が嬉しかったのであろう。
◆
それから少し――
「アイラ様、戻ってきませんね?」
「どうしたんだろ?」
酒を飲みながら、やり取りを交わすラティナスとエイラ。
夜風にあたるにしても少し時間がかかりすぎてはいないか?
そう思いティオは料亭の外に出るが――
(いないな……)
料亭を出てもアイラの姿はなく、近くを歩いてみてもいない。
いったいどうしたのだろうか……
ティオの頭の中で、何となく不安がよぎる。
◆
その頃、街外れの廃墟で――
「くっ、どうしてこんな……!」
表情を歪ませながらそんな声を漏らすアイラ。
両手が天井から伸びた何やら怪しい光を放つ鎖で吊るされ、両足も同じく怪しい光を放つ足枷で繋がれている。
そしてアイラの視線の先で――
「クフフフ……お似合いの姿ですよ、アイラ様……」
と一人の男が下卑た笑みを浮かべている。
「一体何をする気!? それにその力……答えなさい、〝ルシウス〟!!」
冷や汗を流しながら叫ぶアイラ。
そう、ルシウスだ。
アイラの目の前に、体から禍々しいオーラを垂れ流しているルシウスが立っているではないか。
見たところティオから受けた傷が完治している。それどころか、体内からオーラとともに凄まじいほどのプレッシャーを放っている。
夜風にあたりに料亭を出たアイラだったが、その直後に今体に纏わりついている鎖に拘束された。
かと思いきや、次の瞬間意識を失い、気付けばルシウスとともにこの空間にいたのだ。
「答えは簡単ですよ、アイラ様。私はね、あなたたちが倒した三獣魔――その魂を自身の体に取り込んだのですよ」
「……ッッ!?」
ルシウスの言葉に思わず息を飲むアイラ。
今、奴は何を? 三獣魔――ヨルガムンドの魂を取り込んだ……?
「迷宮への入り口は法国の警備が厳重でしたが、私は元勇者パーティの一員でしたからね。コレがあれば中に入り、封印殻の中から三獣魔の魂を取り込むのは余裕でしたよ」
そう言って、ルシウスは懐から勇者パーティの一員である証、そしていくつかのマジックアイテムと思しきものを取り出した。
「く……っ」
悔しそうに声を漏らすアイラ。
勇者パーティの証、ルシウスを追放する際に取り上げ損ねた代物だ。
ルシウスはそれを使って自分がまだ勇者パーティの一員であるかのように振る舞い、法国の騎士たちによって封鎖された迷宮の中に、そしてマジックアイテムを駆使してヨルガムンドの魂を取り込んだようである。
「ルシウス、ヨルガムンドの魂を取り込んでまで何をする気なの!」
「クフフフ……まずはあなたを私のものに、そしてあの小僧――ティオを殺します」
「……あなた、そこまで落ちたのね」
「何とでも言ってください。三獣魔の魂を取り込んだ私はもはや無敵です」
そう言って、興奮で目を地走らせながらアイラの体へと手を伸ばすルシウス。
(助けて、ティオ……っ!)
ルシウスの生み出した魔力の鎖に縛られ抵抗ができないアイラは心の中で彼の名を呼ぶことしかできない。




