73話 隠し通路
「ティオくん、あなたにクエストを依頼したいの」
「クエスト……ですか?」
マリサ伯爵の言葉に、首を傾げるティオ。
前回ここに来た時に迷宮化した遺跡を踏破し、その件については解決したはずだ。
それなのに改めてクエストを依頼したいとは……いったいどういうことだろうか?
「ティオくん、実は例の遺跡に隠し通路が見つかったの」
「なんと、隠し通路ですか……」
「ええ、そして隠し通路の先には強力なアンデッドモンスターが数多く潜んでいるの」
「アンデッドモンスター……ですか、それは厄介ですね」
マリサ伯爵の話を聞き、目を細めるティオ。
アンデッドモンスターには痛覚がなく、ダメージを与えようとも構わず襲いかかってくる。
そして生命力も持たないので、恐らくティオの黒魔術による生命そのものを奪い去る特性も通用しないだろう、と。
(しかし、放っておくことはできないな)
マリサ伯爵の話を聞きながら、そう判断するティオ。
今はまだ遺跡の隠し通路に潜んでいるアンデッドたちだが、何かの拍子に外へ溢れ出すかもしれない。
そうなればいずれはこの都市、クラリスへも被害が及ぶことになるだろう。
キョクトウ法国への出向にも日にちはあることだし、それまでにクエストを達成すれば問題なしだ。
「わかりました。クエストをお受けします、伯爵様」
「……ッ! まったく、あなたはまた報酬の内容も聞いてないのに……でも、ありがとう」
相変わらずのティオの正義感に気圧され、そして感動しつつ、マリサ伯爵は感謝の言葉を口にするのだった。
「ごめん、みんな……また勝手に決めちゃって」
「いいんですよ、ティオ様」
「ふふっ、それでこそマスターよ」
ティオの言葉に少々苦笑しながらも、自分たちもついて行くと言うアイリスとベルゼビュート。リリスにフェリス、それにダリアも同様だ。
と、ここでユリとスズが――
「さすがティオ殿だ。そう言ってくれると思っていた」
「うん、私たちもついて行く」
と、感謝の言葉を口にしつつ、やる気満々といった様子を見せてくる。
「ティオくん、それなら何か軽く食べていって。ギルドの酒場に軽食を用意させるわ」
「ありがとうございます。伯爵様」
マリサ伯爵の言葉に甘え軽食を済ませるとともに、念のためダリアの身分を隠して彼女を紹介すると、ティオたちは件の遺跡へと向かう。
◆
遺跡最深部にて――
「ティオ殿、これが隠し通路だ」
そう言って、遺跡の壁を指差すユリ。
一見何の変哲もない壁だが、ユリが壁に触れようとすると……
「うわ!」
「ユリさんの手が壁をすり抜けたです〜!」
興奮した声を上げるリリスとフェリス。
そう、ユリの手、そして腕までもが壁の向こう側へとすり抜けたのだ。
ユリはそのまま壁に向かって歩き出し、姿全体が壁の向こう側へと消えていく。
「恐らくこれは幻影魔術の類で作られたものね。昔作られたものが残っているのか、それとも術者が今もこの壁の幻影を作り出しているのか……」
幻影の壁に手を抜き差ししながらベルが語る。
もし後者であれば、相当強力な術者……モンスターが潜んでいてもおかしくない……と。
「よし、先に進みましょう」
そう言って、幻影の壁の向こう側へと歩いていくティオ。
壁を抜けるとそこにはさらに仄暗い空間が広がっていた。
「なるほど、確かに強力なモンスターの気配を感じますね」
「ああ、ティオ殿も気付いたか」
ティオの言葉に頷きつつ、妖刀を抜くユリ。
今までティオが踏破してきた迷宮よりも、明らかに異質な空気……プレッシャーを感じる。
恐らくマリサ伯爵が言っていたアンデッドモンスターの影響、或いは先ほどベルゼビュートが予想した強力な術者の類によるものだろう。
「うへ〜! 何だか気味が悪いわね!」
「気持ち悪い感じがするです〜!」
妖精族だから特に空気に敏感なのだろう、リリスとフェリスが顔を顰めている。
ユリに続きティオは杖を、それに続き皆も得物を構え遺跡の中を進んでいく。




