71話 新たな旅路
翌日、公爵家の食堂にて――
「ティオ殿、娘を頼む」
ナツイロ公爵がおもむろにティオに切り出す。
「「「ブフォ……ッ!!」」」
ナツイロ公爵の唐突な言葉に、思わず果実水を吹き出すティオ、アイリス、ベルゼビュート。
公爵は今何を言った? 娘を頼む……それ即ちダリアのことを……?
そんなことを思いながら、口の周りを拭くティオ。
彼の疑問を察してか、ナツイロ公爵が苦笑しながら言葉を続ける。
「ティオ殿、もちろん貴殿にダリアを受け入れてもらいたい……という思いもあるが、今回は貴殿の旅にダリアをついて行かせてほしいというお願いだ。聞けば三獣魔の討伐に向かうそうではないか」
「公爵様……危険です。ダリア様の実力は知っていますが、今回は特に」
「わかっておる。何も三獣魔との戦いに参加させよと言っているわけではない。そこまでの露払い、他にもティオ殿のサポートをさせたいと思っている」
ナツイロ公爵の言葉は続く。
ダリアはティオの手によって悲しき運命から救われた。
その恩返しをしたいというダリアの思いを、改めてナツイロ公爵からも伝えたかったと。
(どうしたものか……)
ナツイロ公爵の話を聞き、頬を掻きながら考えるティオ。
ダリアの思いはありがたいが、さすがに公国の姫君を連れて行くのは……
そんな時だった――
「諦めて連れて行くわよ、マスター」
「そうですね、公爵様……それに何より、ダリア様の目は本気です。絶対に譲らないでしょう」
ベルゼビュートとアイリスが、口を揃えてそんなことをティオに言ってくる。
二人の言葉を聞き、改めてナツイロ公爵とダリアを見るティオ。
(なるほど、確かに説得は無理そうだ……)
二人の表情を見て、そんな風に察するのだった。
「よし、そうと決まれば話は早い。キョクトウ法国までの船は公爵家で用意しよう。一度クラリスを経由して行くのがいいだろう」
「ありがとうございます。公爵様」
「ああ、娘をよろしく頼む」
そんなやり取りを交わし、頷き合うティオとナツイロ公爵。
話がまとまったところで、ダリアが――
「ティオ殿、末永く……よろしくお願いします」
そう言いながら、うっすらと頬を染める。
「よくわからないけど、ダリアも仲間に加わるのね!」
「わーい! 次の旅も楽しみです〜!」
リリスとフェリスが、きゃっきゃっとはしゃぐのであった。
◆
数時間後――
「よし、行こう」
ナツイロ公爵が用意してくれた船を前に、ティオが言う。
「「「はい!!」」」
ティオの言葉に、一斉に応えるアイリスたち。
「ティオ殿」
「娘を……ダリアをよろしくお願いしますわ」
船に乗り込むティオたちの背中を見送りながら、ナツイロ公爵とイライザ夫人が静かに言う。
◆
船が出港して少し――
「マスター、ちょっといいかしら?」
甲板で風を浴びるティオにベルゼビュートが話しかけてくる。
「どうしたんだい、ベル?」
「マスター、ほんの少しの間だけ私は次元の狭間に帰還するわ。三獣魔が復活したことを〝巫女〟に伝えるために」
「巫女……そういえば、何かこの世界で大きな事件が起きる時に、聖魔王が巫女に預言を授けるって聞いたことがあるけど、アレって本当だったんだね」
「そういうことよ。巫女がそれを国のトップに知らせれば、きっとどこかの国の勇者たちが動き出すと思うわ」
勇者……と聞き、苦笑を浮かべるティオ。
彼の頭の中にアイラたちの顔が浮かんだのを察し、ベルゼビュートも同じく苦笑を浮かべる。
「そんなわけで、少しの間ちびっ子二人を頼んだわよ、アイリス?」
「もちろんです。心配せずに預言を授けてきてください、ベル」
優しい瞳でリリスとフェリスを見つめながら、そんなやり取りを交わすベルゼビュートとアイリス。
「うー、少し寂しいけどすぐ戻ってくるのよね?」
「少しの辛抱なのです〜!」
言葉通り寂しそうな表情を浮かべながら、ちびっ子なりに気丈に振る舞うリリスとフェリス。
そんな二人に、ベルゼビュートは「もちろんよ」と言い頭を撫でてやると、次元の狭間へのゲートを開き、姿を消すのであった。
「か、彼女が……ベルゼビュートさんが聖魔王というのは、どうやら本当のようですね」
今までのやり取りで、何となくそのことを察していたダリアも、今の会話と目の前で起きた出来事で想像を確信へと変えたようだ。
中継地点のクラリスへと向け、船は海の上を進む。




