59話 ナツイロ公爵
(公爵……? ということはこの国の統治者が直接会いに来たってこと!?)
頭の中で、それを理解するティオ。
この島国、ナツイロは公国である。
つまりは公爵が治める国だ。
その公爵自らティオを訪ねてきたと、目の前の従業員は言っているのである。
「これは……」
「なかなか大ごとになりそうね……」
ティオの後ろで、アイリスとベルゼビュートがそんな風に囁きあっている。
リリスとフェリスはどういう事態なのかよく理解できていないようで、二人揃ってベッドの上で「「……??」」と首を傾げている。
「……とりあえず、お通しください」
「かしこまりました。すぐにお連れして参ります」
ティオの返事を聞き、少々ほっとした様子で返事をする従業員。
公爵ともあろう者からの面会の希望を断られたどうしよう……そんな心配を少なからずしていたのだろう。
間もなく公爵がこの部屋に現れる。
この国の統治者に対して無礼があってはならないと、リリスとフェリスにも立ってもらい、公爵を迎え入れる態勢を整える。
「ねぇねぇ、ティオ〜」
「こーしゃく様ってなんなのです〜?」
「この国のとっても偉い人のことだよ。だから失礼のないようにしてね?」
リリスとフェリスの質問にそんな風に答えるティオ。
彼の言葉を聞いた二人は「「は〜い!」」と元気よく返事をする。
(本当にわかっているのだろうか……)
ティオがそんな不安を抱えるのも束の間、あらかじめ開けておいたドアの前に一人の美丈夫が現れた。
肌の色は褐色、亜麻色の髪を短く刈り込んだ、鋭い瞳を持つ筋骨隆々の美丈夫だ。
薄着であるがその素材は高価であることが見て取れる。
それ以上に、目の前の美丈夫が持つ上品な雰囲気……間違いなくナツイロ公爵その人であろう。
よく見れば、ボディーガードと思われる者たちが複数人、彼の後ろに控えているのがわかる。
「貴殿が冒険者ティオか。なるほど、優しそうな雰囲気を纏っているが、芯の通った瞳をしているな」
ティオを見て、目の前の美丈夫がそんな言葉を口にする。
「え、えっと、お褒めに預かり光栄です……?」
いきなりの言葉と緊張で、不自然な口調になってしまうティオ。
そんなティオの反応に苦笑しながら、目の前美丈夫が自己紹介を始める。
「申し遅れたな、私の名はセルゲイ・ナツイロ、この国の公爵だ。突然押しかけてすまぬ」
やはり公爵だったようだ。
とりあえずティオはナツイロ公爵を中に案内し、席に座ってもらう。
「ふむ、なかなかに個性的な面々だな」
ボディーガードを背後に待機させながら、リリスたちを見てそんな風に口にするナツイロ公爵。
アイリスはエルフ族であり、ベルゼビュートもぱっと見はエルフ族、リリスとフェリスに至っては妖精族。
ナツイロ公爵の言うとおり、確かに個性的な面々での仲間構成になっている。
「それにしても妖精族か……であれば問題なさそうだな」
さっそく手持ち無沙汰になってしまったのか、こそこそと指遊びを始めるリリスとフェリスを見て、ナツイロ公爵が言葉を続ける。
「……?」
公爵の言葉に、どういう意味だろうか、と首を傾げるティオ。
そんなティオに、ナツイロ公爵が――
「ティオ、それにその仲間たちよ、貴殿たちを晩餐会に招待したい。どうだろうか?」
――そんな提案をしてくる。
「えっと、晩餐会……ですか?」
「うむ、私は貴殿を気に入った。武闘大会で優勝する実力を持ちながら、妖精族がこれほどまでに幸せそうな表情で貴殿の側で過ごしているしな」
ティオの質問に、そんな風に答えるナツイロ公爵。
それを聞き、アイリスとベルゼビュートは理解する。
(なるほど、どういう理由かはわかりませんが……)
(マスターを見定めに来たのね)
――と。
恐らく何らかの目的があって、ナツイロ公爵は武闘大会優勝者であるティオを晩餐会に誘いたいと考えた。
しかし、その前に彼がどんな人物かを見定めるために、わざわざ自らここまで赴いて来たのだ。
本来なら色々質問するつもりでいたのだろうが、それはリリスとフェリスを見ることで必要なくなった。
なぜなら、妖精は心の綺麗な、そして優しい者の側にしか居つかない……そういう存在だからだ。
そんな存在が実にリラックスした様子でティオの側にいる。
それこそが、彼の人格に問題はないという証拠だ……。
ナツイロ公爵はそう判断したのだろう。
(公族からのお誘い……断ったら失礼、だよね?)
そんな風に考えながら、アイリスとベルゼビュートに視線を送るティオ。
ティオの意図に気づいた二人は、小さく、しかししっかりと首を縦に振る。
「かしこまりました。公爵様からのお招き、喜んでお受けしたいと思います」
「そうか! 来てくれるか! 感謝するぞ!!」
ティオの言葉を聞くと、ナツイロ公爵は皆が想像していた以上の笑顔で、喜びを露わにするのであった。
(あ……っ、なんか嫌な予感がする)
ナツイロ公爵の異様な喜び方を見て、ティオの頭にそんな考えが過ぎるのであった。




