48話 バカンスの始まり
二日後――
「わぁ、おっきな船ね!」
「船旅楽しみです〜!」
港ではしゃぐリリスとフェリス。
今日はナツイロ公国へと向かう船の出港日だ。
昨日のうちに、ティオたちはクエストの報酬を受け取り済みである。
報酬は今回迷宮で回収できた鉱石の一部を受け取ることにした。
ギルド長やマリサ伯爵からはもっと受け取るように提案されたが、ティオからすればこれで十分だ。
それに受け取った鉱石は、どれも武具に適したものばかりであり、売ればかなりの額になる。鍛冶屋に持っていって新たな装備を作ってもらうことも可能だ。
ナツイロ公国は優れた鍛冶職人が集う国でもあると聞く。バカンスの合間に皆の装備を新調するのもありだろう。
「ティオ殿、もう行ってしまうのか?」
「あっという間……寂しい……」
見送りにきたユリとスズが、寂しげな表情を浮かべてティオに話しかける。
「えっと……ナツイロ公国から戻ってくる時はまたこの都市に寄るので、その時にまた会いましょう」
ユリとスズの潤んだ視線に、ティオはつい優しい言葉を口にしてしまう。
「その時はゆっくりお話しましょうね。今回は忙しくてあまり一緒に過ごせなかったもの……」
一緒に見送りに来ていたマリサ伯爵も、名残惜しそうな表情を浮かべている。
「さぁ、ティオ様、行きましょう!」
「船が出港しちゃうわ!」
マリサたちが今にもティオに抱きつきそうな雰囲気を察知して、アイリスとベルゼビュートがティオの手を引っ張る。
マリサたちが「しまった!」といった表情を浮かべるがもう遅い。ティオは船に乗り込んでしまうのだった。
港には一緒に釣りをして遊んだ子どもたちを始めとした住人も見送りに来ていた。
皆に見送られ、ティオたちはナツイロ公国へと出港する――
◆
二週間後――
「ここがナツイロ公国か……」
下船しながら、辺りを見回すティオ。
燦々と太陽の光が注がれる港は、人々の活気であふれている。
桟橋の上からは子どもたちが海に飛び込み、遊んでいる姿が確認できる。
夏の日差しのせいか、それとも元の肌色なのかはわからないが、港の人々は浅い褐色の肌をしている。
「うわ〜!」
「楽しそうです〜!」
桟橋から海へと飛び込む子どもたちの姿を眺めながら、リリスとフェリスが興奮した声を上げる。
「まずは水着……の前に」
「宿屋を確保しなくちゃね」
日差しに目を細めながら、下船するアイリスとベルゼビュート。
宿屋はこの港町で確保する予定だ。
首都に宿を取ることも考えたが、ビーチまで時間がかかるため、この港町の宿にすることにしたのだ。
港を抜けると、生鮮を始めとした食品を売るマーケットが連なっているのが確認できる。
この時期はバカンスに来る観光客が多いせいか、どの店も威勢よく呼び込みに勤しんでいる。
「ねぇねぇ、ティオ! 私、アレが食べたいわ!」
「私もです〜!」
通りを進んでいると、リリスとフェリスがとある露店を指差す。
露店にはチョコレートでコーティングされた、色とりどりの果物が売られていた。
「よし、試しに買ってみようか」
そう言って、露天へと近寄るティオ。
その言葉を聞き、リリスとフェリスが露天へと飛び出していく。
「いらっしゃい! ……って、妖精族!?」
露店の店主が元気に接客を始めようとするも、リリスとフェリスの姿を見て、仰天といった様子で目を見開く。
そこへ遅れてティオが現れ、その首からAランク冒険者のタグが下がっているのを目にし、さらに驚いた様子を見せる。
「これはなんという食べ物ですか?」
「え……あ! こちらは〝バナナ〟という食べ物ですわ、冒険者の旦那! 甘くて美味しいですよ! チョコレートとの相性も抜群ですぜ!」
ティオに質問され、店主が慌てた様子で商品の説明をする。
この店にはチョコレートやマンゴー、パパイヤなど、南国でしか取れない珍しいフルーツの数々が用意されていた。
それらのフルーツの上に、チョコレートをかけて売るのが、この店のこだわりだそうだ。
「うわ〜! 甘くて美味しい!」
「チョコレートとバナナは最高です〜!」
さっそくティオにチョコバナナを買ってもらい、二人で頬張るリリスとフェリス。
どうやらスイーツ大好きな二人のお気に召したようだ。
「あら、このマンゴーって果物、美味しいわね」
「こっちのパパイヤも甘くて美味しいです」
ベルゼビュートとアイリスも果物を口に運び、表情を綻ばせる。
可愛い妖精たちと二人の美少女、そしてその四人を連れているティオの存在に、マーケットの人々の視線が注がれる。
だが、ティオたちはその視線に気づかない。
それだけ南国の果物たちは甘美であり、皆の心を掴んだのだ。
(ナツイロ公国――海だけじゃなく、いろいろな食べ物が楽しめそうだな……!)
特段食いしん坊キャラでもないティオであっても、胸をワクワクさせてしまうのであった――
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