47話 優しいひと時
高機動型ゴーレムを倒し、一行は次なる階層へと足を踏み入れた。
「これは……すごいな」
思わず声を漏らすティオ。
アイリスたちも瞳を見開いている。
皆の視線の先には様々な色の輝石が、花のように咲き乱れる光景が広がっていた。
宝飾品に使われるもの、それからマジックアイテムや武具に使われるものなど、貴重な鉱石ばかりだ。
モンスターの姿は確認できない。
そしてこの先に道はないようだ。
恐らく先ほどの高機動型ゴーレムが、この迷宮のいわゆる〝ラスボス〟だったのだろう。
「これだけの数の鉱石……いったいどれほどの価値になるのか、想像もつきませんね……」
美しい輝きを放つ鉱石たちを眺め、アイリスが感嘆の息を漏らす。
リリスとフェリスも「うわ〜!」「綺麗です〜!」と興奮した声を上げる。
幼い妖精族といえども、やはり乙女。宝石の類には惹かれるものがあるのだろう。
「ティオ殿のスキルで、これらを収納することは可能だろうか?」
「問題ないですよ、ユリさん」
そう言って、ティオはE Xスキル《ブラックストレージ》を発動して、周囲の鉱石を次々と収納していく。
「本当に……ティオさんはとんでもない……」
規格外のティオの能力に、スズは改めて感心するのであった。
目ぼしいものはあらかた回収した。
あとは後発の調査隊の護衛任務を数時間全うし、クラリスに帰還する。
◆
「あ、お帰りなさいませ、皆さま!」
ギルドに戻ってきたティオたちを、受付嬢が迎える。
ティオは軽く挨拶を済ませると、さっそくギルドの奥の部屋へと通してもらう。
(モンスターの死体は後にするとして、まずはこれだよね)
そんなことを考えながら《ブラックストレージ》を発動するティオ。
黒い霧の中から、数々の鉱石が山のように現れる。
「んな……っっ!?」
あまりの光景に、驚愕の声を上げる受付嬢。
しばらく硬直したのちに「ギ、ギルド長を呼んできます!」と、慌てて部屋を出ていった。
まさか一回の迷宮探索で、これほどの成果が得られると思ってはいなかったのだろう。
「まったく、マスターは真面目ね」
少し呆れた様子で、ベルゼビュートが言う。
ティオは回収した鉱石を全て《ブラックストレージ》から取り出し、ギルドに提出した。
あの場にはティオたちしかいなかったのだから、わざわざ全部ギルドに渡さずに、何割かを自分たちの懐にそのまま入れることもできたのにだ。
「ベル、そこがティオ様のいいところですよ」
優しい微笑みを浮かべてティオを見つめながら、アイリスが言う。
そんなアイリスに「それもそうね……」と言って、ベルゼビュートは苦笑してみせる。
その後、ギルド長どころかマリサ伯爵も交え、迷宮での回収物の確認や、調査結果の報告が為された。
今回の探索だけでもとんでもない成果を得られた。
それに加え、ティオたちが迷宮を攻略したおかげで、ある程度迷宮の難易度も知ることができた。
今回得た成果、そしてこれから迷宮から得られる素材などによって、これからこの都市はますます発展していくだろう。
それを祝して、ギルドでは盛大に宴が催された。
もちろんティオたちも巻き込まれる……というより、主役に担ぎ上げられたのは言うまでもないだろう――
◆
翌日――
「平和だなぁ……」
穏やかな声を漏らすティオ。
彼は今堤防に腰掛けており、その手には釣竿が握られている。
クエストの達成報酬が出るまでに時間がかかるし、そもそもナツイロ公国に向かう船が出るまで待たなければならない。
たまにはゆっくり過ごすのもいいだろうと思い、釣具屋で釣り道具一式を揃えて堤防へとやってきたのだ。
「えへへ〜、ティオさんのお膝を独り占めです〜」
ティオの膝の上で嬉しそうな声を漏らすフェリス。
さらにティオの頭の上ではリリスが「う〜ん!」と気持ちよさそうに伸びをしている。
のんびりと過ごすティオに、二人ともいつも以上に安心感を覚えているといったところだろうか。
「たまにはこういうのも悪くないわね」
「ですね、ティオ様も楽しまれている様子ですし」
釣りの準備をしながら、そんなやり取りを交わすベルゼビュートとアイリス。
いつもならティオにベッタリとくっつくところだが、彼は純粋に釣りを楽しんでいるようだ。
それを邪魔するような無粋な真似をするような二人ではない。出来る女はその辺りを弁えているのだ。
絶世の美女・美少女である魔王(自称)と剣聖が釣りの準備をしている姿はなんともシュールなのだが……それはさておく。
(ん……?)
釣りを始めて少し、ティオは視線を感じる。
視線を感じた方向を見ると、少し離れたところに小さな子どもたちが数人いるのが確認できる。
「どうかしたのかい?」
首を傾げながら、子どもたちに優しい声で問いかけるティオ。
すると子どもたちは意を決した様子でティオに近づいてくる。
「あ、あの……お兄ちゃんってティオ様だよね?」
「……? そうだよ?」
一人の少年の問いに、不思議そうに答えるティオ。
すると彼らは「すげー!」「本物だ!」などと一気に湧き立つ。
「あ、あの! 握手してください!」
「あ! 私も……!」
次々に握手を求めてくる少年少女たち。
突然の出来事に、ティオは「……??」と、少し困惑してしまう。
と、そこへアイリスとベルゼビュートが近づいてきて、こんなことを言う。
「ティオ様はこの都市の英雄ですよ?」
「子どもたちがマスターに憧れるのは当然なのよ」
……と――
アイリスたちの言葉に、少年たちは揃って首を上下に振ってみせる。
子どもたちからすれば、ティオは英雄――ヒーローだ。
そんな彼が堤防で釣りをしているのを見て、どうしても握手してほしくてチャンスを窺っていたというところだろう。
「わー! ティオったらやっぱり人気者ね!」
「さすがティオさんです〜!」
リリスとフェリスがキャッキャッとはしゃぐ。
人里に妖精族がいるのは珍しいことだが、それ以上に子どもたちはティオに夢中のようだ。
(少し恥ずかしいけど……仕方ないかな)
握手なんかに応じる柄でもないが、子どもたちのキラキラした眼差しを前に断ることはできない。
ティオは「いいよ、握手しよう」と言って、子どもたちに応じてみせる。
「やった!」
「ありがとう! ティオ様!」
大はしゃぎする少年少女たち。
ティオは少し気恥ずかしい気持ちになりながらも、同時にこの笑顔を魔族の手から事前に守ることができてよかったと思う。
「ねぇティオ様、ここよりもっと魚が釣れる場所があるよ!」
「こっちこっち!」
そう言って、子どもたちが手を引っ張ってくる。
せっかくだし案内してもらおうと、ティオたちは堤防の先へと移動する。
子どもたちに案内されたポイントは、たしかによく釣れるポイントだった。
気づけば子どもたちも釣りを始め、釣り大会が開かれる始末だ。
そして調子良く釣りを続けて少し経った頃だった――
「んなっ!?」
――そんな声が聞こえた。
声のした方向を見ると、一人の漁師と思しき男が血相を変えて走ってくるではないか。
「お、おい! お前はティオ様と何をやっているんだ!」
ティオが魚を釣り上げるのを、網で手伝っていた少年に、男が大声で問いかける。
「あ! 父ちゃん!」
どうやら少年の父親だったらしい。
「この子に釣りのアドバイスを受けていたのですが、何かまずかったですか?」
顔面を蒼白させているので、少年の父に問いかけるティオ。
「へ、あ……いえ、まずいというわけではないのですが……えぇ……?」
困惑した声を漏らす少年の父。
まぁ……自分の子どもが、英雄ともあろう者と釣りをして遊んでいたと聞けば、当然の反応かもしれない。
彼とティオが話しているのを見て、港の住人たちが寄ってきた。
ティオに握手を求める者や、よかったら釣った魚を調理しようか、などと提案してくる者まで様々だ。
気づけば子どもだけでなく大人たちにも囲まれ、バーベキューの用意までされる始末だ。
(なんだか、こういうのもいいな……)
穏やかな表情で、そんなことを思うティオ。
美味しい料理に、優しい港の人たちの暖かさ……束の間の平和を楽しむ――
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