29話 遺跡の奥に潜む者
翌朝、ギルドにて――
「遅いなぁ……」
「遅いですね……」
ベンチの上に座りながら、ティオとアイリスが天井を見上げる。
約束の時間になってから三十分も経つのだが、ユリとスズが一向に現れないのだ。
「ふぁ……」
「退屈です〜……」
フェリスはティオの膝に、リリスは同じく彼の頭の上に座って、アクビをしている。
「ねぇ、マスター、もう行ってしまわない?」
「ベル、そうしたいところだけど、伯爵様に一緒にクエストに行くように言われてるからなぁ」
ベルゼビュートとティオがそんなやり取りをしている時だった――
「え!? ユリさんとスズさんが都市を出て行ったですって!?」
――受付の方から、そんな声が聞こえてくる。
ティオたちがそちらに目を向けると、何やら他の冒険者と受付嬢が話している。
ユリとスズが都市を出て行った……。
つまり、ティオたちを置いて、件の遺跡へと向かったということだろう。
聞こえてくる会話によると、どうやら二人が街道に出て行く姿が目撃されたのは二時間以上前らしい。
「うわぁ……」
「やられましたね。まさか、わたしたちを置いて行くなんて……」
ティオとアイリスが、げんなりした表情を浮かべる。
昨日の感じから、二人によく思われてないのはわかっていたが……。
「申し訳ありません、皆さん! 急ぎ遺跡へと向かっていただけないでしょうか……!」
受付嬢がティオたちの方へと駆けてくる。
無論、ティオたちもそうするつもりだ。
皆で都市を出ると、そのままベヒーモスを召喚し、遺跡を目指す。
◆
「さて、それじゃあ入るとしよう」
遺跡の前に着いたところで、ティオが歩き出す。
遺跡はかなり古い神殿のような造りをしている。
ティオの隣にはアイリス。そしてその後ろを、フェリスを抱っこしたベルゼビュートと、その周りをリリスが飛びながら着いてくる。
「これは……」
「ワーウルフの死体ですね。恐らくユリさんとスズさんが倒したものでしょう」
中を進むこと少し、ティオとアイリスがワーウルフの死体を見つける。
やはり遺跡の中にモンスターがいたようだ。
そしてワーウルフの体には大きな切り傷がある。
ユリは妖刀使い、スズは魔剣使いと言っていたし、間違いないだろう。
「ベル」
「了解よ、マスター」
ティオの意思を察し、ベルゼビュートが《ベルゼギフト》と《ベルゼプロテクション》を発動する。
皆の体が、漆黒のオーラのようなものに包み込まれる。
これでどこから襲撃があろうとも、対処することができるだろう。
「少し急ごう、嫌な予感がする」
◆
「喰らえ! 《ファントムライトニング》!」
「死になさい……《フレイムスラッシュ》……」
迷宮の奥深く――
ユリが妖刀から、揺らめく稲妻を召喚し、モンスターどもに浴びせる。
そしてユリの横から飛び出したスズが、炎を纏った魔剣を振るいながら、モンスターどもを両断する。
さすがはAランク冒険者だ。
ホブゴブリンやワーウルフ、オークなどのモンスターを次々と撃破していく。
どちらも敵に合わせ的確にスキルを使い分け、互いが互いをサポートするように立ち回っている。
「ふん……っ、やはりよそ者の力など借りる必要はなかったな」
「うん……私たち姉妹だけで十分。……それに男は嫌い」
ユリは妖刀を鞘に納刀しながら、スズは血糊を、ビッ! と払いながら、やり取りを交わす。
そんな時だった――
『何やら遺跡の中が騒がしいと思えば、冒険者か……』
――そんな声とともに、曲がり角から一人の男が現れた。
「……っ! その赤銅色の肌に、緑色の髪……」
「まさか……魔族……ッ?」
目を見開くユリとスズ。
そう、現れたのは一体の魔族だった。
魔族とは、人間を主食とする人類の大敵だ。
その身体能力は非常に優れており、中にはモンスターを操る能力を持つ者もいる。
『やはり街道で人を襲いすぎたか? だがモンスターを維持するためには必要なことだった……』
二人を睨みながら、ブツブツと呟く魔族。
「こいつ……」
「何を言っているの……?」
疑問を抱きつつも、ユリが妖刀を、スズが魔剣を構える。
『まぁ良い、恐らくお前たちがあの都市の最高戦力なのだろう。ならば血祭りに上げてくれる。そして〝計画〟を実行に移すのだ……っ!』
高らかに叫ぶ魔族。
すると、その左右の空間が歪み始めた。
その中から、二体の異形が現れる。
「な!? レッサードラゴンにドレイクだと!?」
「Aランクのドラゴン族モンスターが……二体……」
現れたモンスターの姿を目の当たりにして、ユリとスズの表情が歪む。
魔族が相手というだけで厄介なのに、その上召喚スキルを持っていようとは……。
『さぁ……いけ、下僕ども! 我に――この〝ガイル〟に勝利を捧げよ……ッ!』
魔族――ガイルの声に応えるように、レッサードラゴンとドレイクが『『ガオォォォォォォォォォォ――ンッッ!』』と雄叫びを上げ、ユリとスズに襲いかかる――
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