22話 侯爵家の嫡男
翌日――
「ん? あれは……ッ!」
ベヒーモスを運転するティオが、とある光景を目にして声を漏らす。
その視線の先には数台の馬車と、それらを円を描くように取り囲む狼型のBランクモンスター――ビッグファングが数体、馬車の周りには武装した護衛と思しき者たちが怪我をしているのが確認できる。
「ティオ様!」
「ああ、助けに行く!」
アイリスに頷き、ブォンッ! と、エンジン音を鳴らしてベヒーモスを加速させるティオ。
その音に、ビッグファングどもが反応し、一斉に振り返る。
「ベル!」
「任せて、マスター! 《ベルゼプロテクション》!」
ティオに応え、ベルゼビュートが皆に支援魔法を施す。
「いくぞ……《ブラックジャベリン》ッ!」
ビッグファングどもに向かって、EXスキルが一つ、漆黒の魔槍を放つティオ。
見事な操縦技術で馬車に攻撃が当たらない位置取りをすると、次々と敵を射抜いてゆく。
「うわ〜!」
「やっぱりティオさんは強いのです〜!」
サイドカーの中から、リリスとフェリスが興奮した声を上げる。
そんな二人に苦笑しながら、ティオは最後のビッグファングを、《ブラックジャベリン》で貫いた。
「き、君たちはいったい……」
最後のビッグファングが倒れたところで、馬車の中からそんな声とともに、一人の青年が降りてきた。
綺麗な高級そうな服を着ている。馬車も装飾されたものであるのを見るに、良家の息子……といったところだろうか。
「ぼくたちは旅の冒険者です。モンスターに襲われているのを見て、助太刀させていただきました」
ベヒーモスを近くに停めると、青年の言葉にティオが応える。
そのままベヒーモスを降りると、護衛らしき者たちにポーションを差し出す。
「た、助かった……」
「まさかこんなところで、ビッグファングに襲われるなんて……」
「恩に着る……!」
やはり護衛だったようだ。皆、ティオからポーションを受け取ると、感謝の言葉を口にしながら、傷を治していく。
「守ってもらった上に、ポーションまで……。感謝に絶えない、本当にありがとう」
「気にしないでください。旅人は助け合うものですから」
青年の言葉に、小さく頷きながら返すティオ。
すると青年が少し考えるような表情をし、こんなことを言い出す。
「助けてもらっておいて、こんなことを言うのは気が引けるのだが……もしよかったら、この先の都市まで護衛してくれないかい? 流石にないとは思うけど、次に今みたいなモンスターに襲われたら……」
通常、このような街道でビッグファングが現れることはまずない。
だからこそ護衛も油断し、危機に追い込まれたのだろう。
青年の言葉に、ティオは――
「もちろんです。ぼくたちも向かうところだったので」
――と、即答する。
自分なりのやり方で救世の旅を続けるティオにとって、困っている人を見捨てるなど言語道断である。
そんなティオの優しさに、アイリスとベルゼビュート、それにリリスとフェリスは微笑みを浮かべる。
「彼が護衛についてくれれば百人力だな!」
「ああ、これで都市まで無事に帰れるぞ……!」
ティオの言葉を聞き、護衛たちが沸く。
青年はティオの乗るベヒーモスや、妖精であるリリスやフェリスのことが気になる様子だが、説明は後にし、ティオたちの目的地でもある都市〝リューイン〟へと向かうことにする。
◆
馬車に合わせて並走すること数時間、目的である都市リューインへと辿り着いた。
リューインは高い外壁に囲まれた大都市であり、近くには港があり、都市自体も海と繋がっている。
この都市の港から、ティオたちはルミルスの大森林のある隣国――〝バーレイブ王国〟へと船出するつもりなのだ。
入り口には門番がいて、入市するのに通行料を払う人々の姿が見えるが、青年が馬車から降りてきて、ひと言ふた言交わすと、ティオたちはそのまま通される。
やはり、青年はなかなかに身分のある人物だというのが窺い知ることができる。
家までついてきて欲しいと青年に言われ、そのまま馬車のあとへとついていくティオたち。
一時的に寄るだけの都市なので、多少目立っても問題ないだろうという判断で、ベヒーモスに乗ったままだ。
案の定、人々の視線が集まるが、ティオたちはそれよりも景色に目を奪われる。
石畳の道や、同じく石造りの家々、そして都市に張り巡らされた綺麗な水路で、船が行き来している。
水の都……そんな言葉が似合う、美しい都市だ。
普段は騒がしいリリスとフェリスも「ふわ〜」「綺麗です〜」と、感動の言葉を静かに漏らしている。
都市の中を移動すること少し――
大きな屋敷の前で、青年を乗せた馬車が止まった。
この都市に来て見た中で、一番大きな屋敷だった。
「みんな、ここまでありがとう。そういえば自己紹介をしてなかったね。僕の名前は〝ティエル〟。この都市の領主……リューイン侯爵家の長男なんだ。助けてもらったお礼をしたいから、ぜひ家に寄っていってくれないかい?」
そう言って、青年が小さく笑う。
いい家の出身なんだろうと予想はしていたが、まさか貴族だったとは……。
ティオは驚きのあまり、目を見開く。
そんなティオと仲間たちを、屋敷の使用人たちが出迎える。
この出来事がキッカケで、他の貴族や王族などとも関わることになろうとは、この時のティオに知る由もなかった――
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