21話 旅立ち
夜――
「わ〜い! ふかふかで気持ちいいわ〜!」
「こんなの初めてです〜!」
宿屋へと帰ってくると、リリスとフェリスがベッドの上でぴょんぴょんと跳ねまわる。
そういえば、ギルドの酒場で果実水を飲んだ時も、ずいぶんと喜んでいた。
樹海や迷宮で暮らしていた二人にとって、人間の生活や作り出したものの数々は新鮮に見えるのだろう。
「リリスちゃん、フェリスちゃん、寝る前にお風呂に入ってしまいましょうね〜」
「お風呂?」
「アイリスさん、何ですかそれは?」
「そうですね……温かい水浴びと言えば伝わるでしょうか……?」
そんなアイリスの言葉を聞き、リリスとフェリスが「温かい水浴び!?」「何だか面白そうです〜!」と興奮した声を上げる。
「それじゃあ、お風呂場へ行きましょう」
「「は〜い!」」
アイリスに連れられ、リリスとフェリスが部屋に備え付けられた浴室へと移動する。
「はあ……」
三人を見送ると、ティオが大きく息を吐きながらベッドに座り込む。
迷宮での戦闘に続き。リリスとフェリスに甘えられ放題だったので。少し疲れを覚えたのだ。
「うふふっ……お疲れ様、マスター」
いつものように妖艶な笑みを浮かべながら、グラスを手に、ベルゼビュートが隣に寄り添ってくる。
グラスの中身は先ほど帰り道で買った白葡萄酒だ。
どうやら疲れた様子のティオを、労ってくれるらしい。
「ああ、ありがとう、ベル」
グラスを受け取りながら、ティオが小さく笑う。
漆黒のドレスを纏った絶世の金髪美女に、気遣ってもらえるのだから、ティオだって悪い気はしない。
「いいのよ、マスターのために働くのが使い魔の役目だし、それに、こうやって体が触れていると、マスターの魔力が心地いいわ」
気持ちよさそうに瞳を細め、ベルゼビュートがさらに体をくっつけてくる。
純粋なティオからすれば、やはり恥ずかしい。
しかしそれと同時に、妖艶でいて、どこか優しさを感じさせるベルゼビュートの微笑みと、彼女から伝わってくる温もりに、少しの安心感を覚える。
「うふふっ、マスターの眠そうな顔、とっても可愛いわ♡ 今日はこのまま寝てしまいましょうか……?」
気づけばうつらうつらとし始めたティオを見て、ベルゼビュートは小さく笑うと、彼の手からグラスを受け取り、そのまま寝かしつけるように一緒にベッドに横になる。
今日の出来事……というよりは、ここ数日間の疲れが溜まっていたのもあるのだろう。
ベルゼビュートの抱擁の中、ティオはすぐに眠りに落ちていく――
◆
「な、何だこれは……」
翌早朝――
陽の光の差し込む部屋の中で、ティオが目覚める。
右にはベルゼビュート。そして左ではアイリスが、それぞれティオの腕を胸の中に抱き込み、密着している。
さらにティオの腹の上ではリリスとフェリスとが寝そべり、「すぴーすぴー」と寝息を立てている。
美少女エルフに、美女魔王(仮)、それに美少女妖精たちに密着され、身動きを取ることができない。
(まぁ、いいか。起こさないであげよう)
全身に伝わる彼女たちの柔らかな感触に、ドキッとするも、それぞれの気持ちよさそうな寝顔に、ティオは微笑みを浮かべると、そのまま自分も再び瞳を閉じるのだった。
◆
数刻後――
「う〜ん、流石に五人で乗るのは無理があるかな……?」
朝食を済ませ、グラッドストーンを旅立ったティオたち。
街道を少し行ったところで、《ブラックサモン・械》を使用し、ベヒーモスを呼び出したところで、ティオが難しい顔を浮かべる。
手のひらサイズのリリスはともかく、人間の子どもサイズのフェリスが加わったので、乗り切れなくなってしまったのだ。
【む……? それなら心配するな、ティオ殿】
「ん? どういうこと、ベヒーモス?」
【まぁ、見ておれ】
ティオの質問に答えるとともに、ベヒーモスが漆黒の霧に包まれた。
それが霧散すると、ベヒーモスの横に連結した車輪付きの、少し広めの乗り込むスペースが現れたではないか。
「ベヒーモス、これは……?」
【異界でサイドカーと呼ばれるものだ。これなら全員乗れるであろう】
「まさかこんな機能もあるなんて、すごいな」
ティオの言葉に、ベヒーモスが得意げな声色で【くくくく……っ】と笑う。
褒められたのが少々嬉しかったようだ。
「ベルゼビュートさん、今日は私の番ですからね?」
「く……っ、魔王たるこの私がサイドカーに乗り込む羽目になるなんて」
代わりばんこのルールは今だに守られているようだ。
余裕の笑みを浮かべるアイリスに、悔しげな表情をしながら、ベルゼビュートがフェリスを抱っこしてサイドカーに乗り込む。
妖艶でクールなキャラかと思いきや、小さな子どもの面倒を見ることもできるようだ。
ベルゼビュートに抱っこされ、フェリスが「わ〜いです〜!」とはしゃいでいる。
「私はティオの肩の上がいいわ〜!」
そう言って、ベヒーモスに跨ったティオの肩に、リリスが座る。
頭の上か、肩の上が、彼女の定位置となったようだ。
「それでは、失礼します。ティオ様♡」
甘い声で言いながら、ティオの後ろに座るアイリス。
そのままティオの腰に手を回し、密着すると、彼の頬に自分の頬をすりすりと擦りつけてくる。
「ぐぬぬぬっ!」
またもや悔しげな声を漏らすベルゼビュート。
そんな皆の様子に苦笑すると、ティオは目的に向けて、ベヒーモスのエンジン音を鳴らし、発進する――
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