16話 迷宮の異変
(うぅ、あまり眠れなかった……)
翌朝――
鏡の前で歯を磨きながら、ティオが疲れた表情を浮かべる。
ティオを挟んで寝ていた、当のアイリスとベルゼビュートはツヤツヤした顔である。
ベルゼビュートに魔力を与えるたびにこれが続くのかと思うと、ティオは気が気ではない。
「それでは、今日も冒険者活動を頑張りましょう、ティオ様!」
「はい、頑張りましょう、アイリスさん」
着替えを終えたアイリスに応えるティオ。
そんな二人のやり取りを見て、ベルゼビュートが「ちょっと、私のことを忘れないでくれる?」と、少しムクれつつも、ティオに腕を絡めてくる。
もちろん、そんな光景を黙って見ているアイリスではない。
彼女も反対側に回りこむとティオの腕を抱きしめ、自慢の豊満バストを、むにゅん! と押しつける。
寝ても覚めてもサンドされるとは……。
ティオに安息は訪れるのだろうか――?
◆
ギルドにて――
「迷宮の調査依頼……ですか?」
ギルドの受付嬢に向かって、アイリスが瞳を細める。
「はい。実は迷宮内で異常が起きているようでして、早朝に迷宮へと出かけた一人の冒険者が、三層目でミノタウロスに遭遇したらしく、命からがら逃げてきたのです……」
難しそうな表情を浮かべる受付嬢。
彼女の言葉を聞き、ティオとアイリスが頷き合う。
ミノタウロスは三層目で出くわすようなモンスターではない。
そして数日前、アイリスもそれと同じように、十層目では遭遇しないはずのレッサードラゴンに囲まれ、ギリギリのところでティオに助け出された。
やはり、迷宮の中で何か異常が起きていると見て間違いないだろう。
ギルドも同じように判断したらしく、アイリスに迷宮調査の依頼をしてきたのだ。
「ティオ様。この依頼、受けてもよろしいですか?」
「もちろんです、アイリスさん。三人で頑張りましょう」
ティオが大きく頷き答える。
彼自身もレッサードラゴンが突然現れたという、アイリスの話は気になっていたところだ。
それに、迷宮の下層で強いモンスターが現れるともなれば、EXスキルを鍛えるいい機会にもなる。
受付で受注契約を結ぶと、ティオたちは迷宮へと向かう。
◆
「よし、《ブラックサモン・械》!」
都市から離れて少し、ティオがEXスキルを発動する。
漆黒の魔法陣の中から【呼ばれるのを待っていたぞ、ティオ殿】と、機械質な声とともに、二輪駆動の大型モービル――ベヒーモスが現れた。
「今日もよろしく頼む、ベヒーモス」
と言いながら、ベヒーモスに跨るティオ。
その後ろにベルゼビュート、そしてその後ろにアイリスが乗る。
前回はアイリスがティオの後ろだったので、今回はベルゼビュート……といった具合に、代わりばんこ方式を取り入れたらしい。
「うふふっ……マスターの背中、あったかいわぁ」
言いながら、ベルゼビュートがティオの腰に手を回し、後ろから抱きしめてくる。
振り落とされないための処置だとわかっていても、彼女の柔らかな感触が背中に当たり、ドキドキしてしまう。
ブォン――ッ!
恥ずかしさを紛らわすかのように、激しいエンジン音を立てて、ティオはベヒーモスを発進させる。
街道を迷宮に向けて疾走するベヒーモス。
途中で追い越された馬車の上から、御者が驚いた表情でティオたちを見ていたが、都市の外では隠すつもりもないので問題なしだ。
◆
「さて、とりあえず雑魚狩りをしながら調査を進めましょう」
「了解です、ティオ様」
「念のために支援魔法をかけておくわね?」
ティオに頷くアイリス。
それに続き、二人に《ベルゼギフト》と《ベルゼプロテクション》を施すベルゼビュート。
これで突然強力なモンスターが現れたとしても、ある程度対処することができるだろう。
ちなみに、迷宮内での移動には向かないので、ベヒーモスは帰還してもらっている。
『グギャ!』
そんなタイミングで、耳障りな声とともに、早速ゴブリンが数体現れた。
今日はゴブリンなぞに用はないのだが、襲ってくるのなら対処するまでだ。
ティオが《ブラックバレット》を放つとともに、アイリスが刀を抜き飛び出す――
◆
迷宮五層目――
「う〜ん、なかなか現れませんね」
迫り来るモンスターどもを、漆黒の魔弾で撃ち抜きながらティオがぼやく。
「早く出てくれると助かるのですが! ね!」
アイリスが刀を振るい、モンスターどもの首を刎ねる。
ここに来るまでに、特筆するようなモンスターが現れることはなかった。
遭遇するのは普段通りのモンスターだけである。
(そういえば……)
目の前のモンスターどもを倒し終わったところで、ティオはあることを思い出す。
そして、アイリスとベルゼビュートに、とある相談をする。
それを聞き、アイリスが「確かに!」と目を見開き、ベルゼビュートも「そういえば……気づかなかったわ」と意外そうな表情を浮かべる。
「よし、それなら試してみましょう。その為には……」
普段出現しないはずのモンスターとの遭遇方法、それを思いついたティオが、行動を開始する。
少し賭けにはなるが、今のティオなら大丈夫だろう。
それにこの方法で強力なモンスターに遭遇できれば、ギルドにティオの実力をわからせることができるかもしれない。
その方法とは――
【読者の皆様へ】
下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。
お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!




