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災厄の召喚術師  作者: ハンバーガー
序章
2/6

死の体現者

 外は木々が鬱蒼と繁る、森林だった。

 先程までいた場所は地下だったらしく、階段を上がると真上に蓋のようなものがあり、そこを開けるとそこは地上であった。

 その蓋には周囲に溶け込ませるような細工が施されており、隠蔽でもしていたのだろう。


 ……しかし今の位置が特定できないな。

 何体か出すか。


「――『変異群体』。……周囲の情報を探れ」


 俺が召喚魔法を行使すると、地面から三体の木が急成長するかのように生えてくる。

 『変異群体』。外見だけ見ればただの木のようだが、こいつらは周囲に溶け込むのが尋常無く上手い。

 ここでは周りに木が多いためこのような姿だが、人が多ければ人に、動物が多ければ動物に、虫が多ければ虫に、更に状況に合わせてその姿を変化、分裂させる。

 大した強さは持たないが、情報を集めることにたけた種である。


 さて、これから一体どうするか……おっと、早速情報が送られてきた。

 繋がりを持つこいつらが見たものは俺も見ることが出来る。ただそれだと情報量が多すぎるため、なにか変だと感じたものを俺に送るように設定している。


 そして『変異群体』が見た情報を俺も確認すると、そこへ向かって一歩を踏み出した。







 そこにいたのは二人の姉妹だった。いや、果たして人なのか。耳はなく、代わりに頭の上からモフモフとした猫ミミを生やしている。更に後ろからぴょこぴょこと動く柔らかそうな尻尾。まだ12、3歳であろう妹と、15、6歳ほどの姉。見た目から判断して姉妹といっているだけで、本当に姉妹なのかは不明だが。


 その二人に向かい合う形で立っているのはいかにも凶悪そうな巨大な狼。

 黒い毛色に口から飛び出る鋭い牙。人など一瞬で肉塊に変えてしまいそうだ。


 それに震えながらも、姉らしい人物は必死に妹を自身の体で覆い隠す。お互いに顔が真っ青になっている抵抗する様子もないことから、恐怖で動くことすら出来ないのだろう。

 それでも妹を守ろうとするのは大したものだ。


 ちょうどいい。色々と確認したかったところだ。

 

 そう決めた俺は隠れていた茂みから、わざと音をたてつつ二人と一体のところへと進んでいった。

 それに即座にそれぞれが反応する。まず一体。即座に俺に敵意を向け、油断無く構えるのはなかなか好感が持てる。

 そして二人。突然の乱入者に、不安な目付きで俺を見ている。


「大丈夫だ。今助けてやる」


 俺は大胆にも警戒なくスタスタと狼へと歩く。一瞬狼も奇妙な行動に戸惑ったようだが、なかなかに好戦的なようで俺へと飛び掛かってきた。


 それを俺はギリギリまで引き付けると、瞬時に片手で狼の頭部を掴む。

 それから何が起こったのか分からず混乱している狼の腹部をもう片方の腕で掴むと――胴体と頭部を引き裂いた。


 辺りに血飛沫が舞う。

 ぼとり、と死体を俺が投げ捨てた音が異様に響いた。


「それで、大丈夫か?」


 俺は何でもないように、目の前の出来事に追い付いていない二人へと声をかけた。

 血で汚れてしまったが、今は大した問題ではない。


「は、はい! だ、だいじょうぶです」


 姉と思われる猫ミミの人間……おっと、確かあの男からこの世界には獣人なるものがいると聞いた気がする。恐らくその類いの生物なんだろう。

 そう、姉と思われる獣人から返事が来る。

 だがまだ緊張しているのか、震えが止まる様子はない。


「心配するな、俺はただここを通りすがりに、お前らを見つけて助けただけだ」

「そうでしたか……いきなりのことで驚いてしまって。本当に、ありがとうございました」


 そうして幾つか質問をし、今度は向こうから質問をされる。

 面倒ではあるがそうしてこいつらの心を徐々に解きほぐしていく。

 圧倒的な力を最初に見せつけすぎたのか、最初はかなり警戒していたようだが、ある程度すると助かったという緊張感から解放されその顔からは笑顔が見えかくれするようになった。


「では、旅人の方なんですね」

「ああ、色んなところを旅している。それで、出来れば血を流したいんだが、近くに水場はないか?」

「そうですね、それでしたら私たちの村で洗っていかれますか? それに、もしよければ宿もいいかお願いしてみますし」


 願ってもない申し出だった。元々獣人――先程まで名前は分からなかったが――を部族単位で見てみたかったのだ。

 召喚された時の俺だけ見れば殺戮者であるが、別に俺はそんなものではない。あの時はこの世界の情報とこの俺が召喚させられたという事実に思わず殺してしまっただけだ。

 基本的に俺の中にあるのは純粋に興味だけだ。


「助かるな、案内を頼めるか?」






 これが獣人たちの集落か。

 想像ではもっと原始的な暮らしをしているかと思ったのだが、普通の人間と変わらぬ暮らしをしているらしい。

 普通の人間……この判断基準は集落に向かう途中で『変異群体』から送られてきた情報によるものを比較対象としている。


 それにしても皆一様にしてミミとしっぽがついている。いや、ついているから獣人と呼ばれるのだろうが、なかなか面白いものだ。

 ……一人、二人、三人、四人、このくらいか。


 獣人は人間と比べ平均して肉体が強いと聞いた。どんなものかと見てみれば確かに高そうでいて、そのなかでも特に強そうなのが俺が数えたあそこにいる四人だ。


 子ども二人を救ってた外部の俺は注目の的であり、村人のほとんどが集まり俺を見ている。そんななか、俺が強者と判断した内一人が俺の元へ来る。

 がっしりとした体躯。特に筋肉のついてない俺と、その人物はまるで対照的だった。更に不健康そうな顔をし背筋が曲がり猫背の俺と、背筋を真っ直ぐ伸ばし健康的な面構えの人物。客観的に見れば大きさと雰囲気から似てない親子のような歳の差を感じるだろう。

 しかし顔はまだかなり若く、二十代前半行っているかどうか。

 そんな男が俺のところまでくると、その筋肉のついた丸太のような腕を俺へと差し出してくる。


「俺の名前はガロン。この村の代表だ。彼女たちを助けてくれて、本当に感謝する」

「気にしないでくれ。俺は純粋に興味があっただけだ」

「興味? ブラックウルフにか?」


 それを聞いて、隣で両親と抱き付いていた姉妹の姉がガロンに説明をする。


「えっと、シルさんは旅人だとお聞きしたので、見たことがなかったのでしょうか?」


 シルとは俺の名前だ。

 それを聞いてガロンは納得したように首を縦に振る。


 いい勘違いだが。


「いや、違うな。興味があるのは……この世界の住人の強さだ。お礼に確かめさせてもらうぞ」

「なにを……ッ!」


 俺の一言、そしてそれが冗談などではなく、本気だということが伝わったのだろう。

 ガロンが一瞬で臨戦体勢に入る。この判断力と殺気。やはり強いな。だがこれは俺のお気に入りの一つ。さて、どこまで戦えるのか。


「――『イヴィル』。力試しだ。……この村の住人を、殺戮せよ」


 俺が召喚詞を唱えると同時、一筋の薄い霧が俺の前に掛かる。

 初めは奇妙な薄い霧だったそれは、徐々に濃さを増していき、やがて人一人分ほどの大きさへと変わっていく。


 それは例えるなら死の体現者。


 暗いその霧から、割るようにその体を覗かせるのは巨大な骸骨。四メートル以上はあるその図体では人一人分の霧から出るのはややキツいのだろう。骨で出来た手を必死に動かしこの世界へと体現しようとしている。

 そのため召喚してから時間が少しばかり経っているものの、誰も動こうとはしない。

 あるものはあまりに突然のことで、あるものは恐怖で、あるものはこの骸骨の異様さに動けないのだろう。


「さあ、せいぜい足掻け。俺の興味を満たしてくれよ」










 






 






正直にいってケモナーはあまり好きにはなれないです。

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