ダンジョン都市の再設計2
昼過ぎまで寝てから、のそのそと起き出して皮職人に会いに向かう。朝方、すでに竜の皮を持っていっていた。
「おう。これであと3ヶ月は仕事にありつける。本当に金はいつでもいいのか?」
中年を過ぎた皮職人は俺たちを訝しげに見てきた。
「ああ、いいですよ。それより、もっとあるんですけど、持ってきたら竜の皮の価格が暴落しますかね?」
「ああ、うん。まぁ、今でもそういう動きはあるんだがな。それこそ、西の方じゃ、あんたたちがやってきた別の大陸から来ている竜の皮もあるって話だ。革にするのが難しいから、そんなに価格が落ちるってことは稀だけどね」
「なるほど。じゃあ、生産性は上がらないんですね?」
「ん~、何をするかにもよる。例えば、今は防具や財布なんかの身につけるものが主だけど、もっと薄くしていいなら、逆に簡単だ」
「そうなんですか?」
「ああ、竜の皮は破れにくいから、加工には向いている。ただ、価格が高いからそんなもったいないないことは誰もしないけどな」
柔らかくなってしまうと、他の魔物の革と対して変わらない価格に落ちるのだとか。
「長い年月をかけて柔らかくしていくことに価値があるのさ」
「その竜皮を柔らかくする技術って難しいんですか?」
「いや、薬品があればそれほどでもない。なんだ? この街の皮職人たちを救ってくれるのかい?」
「救うって、別に困っているようには見えませんが……」
「いやいや、あんたたちがいなくなったらすぐ廃業さ。この皮でどうにかなるけど、半年後には仕事にあぶれてるだろうな」
「そうですか……」
俺は、天井を見上げて考えた。すぐに計画は思いついたが、どれくらい初期費用がかかるのかがわからない。
「どう? なんか思いついた?」
ナギが聞いてきた。どうせナギには頼ることになる。
「思いついたんだけど……、どうするのがいいんだろうな……」
「とりあえず言ってみれば、私とこのおじさんも考えてあげるよ」
「なんだ? 儲け話か?」
皮職人がカウンターから身を乗り出してきた。
「それじゃあ、まぁ……」
俺は財布を取り出して、中を確認して金貨を一枚カウンターに置いた。
「これで何人の皮職人が食べていける?」
「せいぜい10人が一週間くらいじゃないか?」
「あ、そんなに?」
「言っておくけど、金貨は相当高価だからな。まぁ、皮職人の腕にもよるが……、だいたいそんなもんだ」
「じゃあ、やっぱり飛行船を作ったほうがいい」
「飛行船だと!? あの空を飛ぶ?」
「ええ。飛行船は文明的に最新の技術じゃないですか? しかも空を飛べるようになれば王都からも山を越えるだけで繋がれる」
「そうだけど……、そんな簡単じゃないだろ? 飛行船だぞ。身につけるものじゃなくて巨大じゃないか」
「でも、素材はそれほど変わらないのでは?」
「素材が変わらなくても、こっちにはまるで技術がない。魔法陣で飛ぶとかガスで飛ぶとか言われているけど、それすらわからないんだぞ」
「その辺はナギが……?」
「ああ、まぁ、知ろうと思えば知ることはできるね。あと、わからなかったらロギーを呼べばいいんじゃない?」
「あ、そうか」
「魔法使いか?」
「そうです。ワープのポータルとか作る魔法使いです。というか、王都とポータルで繋がったほうが早いか」
「いや、どこにでも大量に物と人を運ぶなら飛行船のほうがいい」
「ワープは事故も多いと聞く」
ポータル案は二人に却下された。
「で、いくら出資するつもりだ?」
「あるだけ」
俺は財布袋をカウンターの上においた。
「はっ。俺達は飛行船のガス袋を作ればいいんだな?」
「その通り」
「わかった。すぐに始める。素材はあのダンジョンから持ってくるのか?」
「ああ、俺が運び出す。ナギ、技術者と渡りをつけられる?」
「うん。まぁ、ロギーを呼ぶよ。その後、ロギーの知り合いに来てもらう感じでどう?」
「じゃあ、そんな感じで。鞣すのにも時間はかかりますよね?」
「当たり前だ。半年はかかると思ってくれ」
「半年後には、ここは飛行船の製造拠点になっているかも知れないよ」
ナギがちゃんと予想をしていた。ナギがそう言うってことは、ほとんど計画の一部だ。
「お、おう……」
ナギがロギーと連絡を取ってからが早かった。魔族の飛行船エンジニアが2日後には街に到着。ロギーも一週間後にやってきた。
俺はその間で、魔大陸の首都から得ている定期収入をこの町に送金する手続きを取った。あとは商売のわかる者たちに任せておいたほうがいい。
廃ダンジョンはまだまだ先がある。竜の皮を運び出してから、さらに奥へと向かった。
隠し階段は大量に見つかり、実はこのダンジョンは正しいルートのみしか踏破されていないこともわかった。
「ええっ!? また、階段を見つけたの?」
ナギは露骨に嫌な顔をしていた。なかなかこの街から出ないから、食べ物が決まってきているのだとか。ナギもロギーも遠くからお取り寄せルートまで作っている。経済強者は見えない販路を勝手に開拓するから恐ろしい。
「しばらく拠点にしてもいいな。正規ルートなんか廃ダンジョン・トレッキング的にはなんの面白みもないけど、間違った裏ルートは罠だらけだし、掘り出し物があるかもしれない」
この頃にはループ爺さんとソーコもこの街に来て、宿を取っていた。
「山屋が空に興味があるなんて知らなかったよ」
ロギーは腕を組んで感心していた。
「いや、別に興味があるわけではないよ。産業になりそうだったから出資しているだけ。冒険者ギルドを通さない副業的な?」
「そうなの!?」
「元冒険者の先輩に聞くと、趣味を持ったほうがいいという人が多いんだよね。やめてから活力を失う人もいるけど、趣味があれば違うらしい」
「いやいや、山屋は戦わないし、別に引退なんてないでしょ?」
「何かの拍子で冒険者という肩書は捨てるかも知れないじゃないか」
「ああ、そういうことか……。随分、未来の自分を信用していないんだね」
「今の延長線上にある未来なんて、たかが知れているだろ? どうせ予想外のことが起こるなら、柔軟にフットワークを軽くしておきたい。だから、冒険者なんて職業についているんだ」
「自分の弱さを受け入れて、潰れない生き方をする、か。山屋らしいな」
ふとロギーの目元にシワが見えた気がした。この年齢不詳の魔道具師は、魔大陸までこないと思っていたが、商売となると変わるらしい。
まだ街は僅かな店しか開いていない。飛行船の発着場すら決まっていないのに、なぜか人は徐々に集まり始めていた。




